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【書籍化】わたしはたまごで異世界無双する!  作者: 葉月クロル
リカ、バイトをがんばってるよ!

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SS すごいシュークリーム(『王都へ向かうよ』の、出発する前の日の話)

「リカさん、こんにちは。もう旅の準備はできたのですか?」


 ギヤモン一家を護衛しながら王都へ行く旅の前の日、冒険者ギルドにぶらっと立ち寄ると、カウンターからライルお兄ちゃんが声をかけた。


「お兄ちゃん、こんにちは! 今日も無駄に礼儀正しいね。うんできてるよ、っていうか、別にそんなのいらないし。夜はたまごハウスで過ごすから、特別な持ち物なんか必要ないでしょ。ごはんだって心配ないし、途中で美味しそうな魔物を狩ったらお料理自慢のレニアさんが美味しいの作ってくれるって言うし」


 可愛らしく殻を揺らして答えるわたしに、ライルお兄ちゃんはほう、とため息をついて言った。


「非常識なあなたにとっては、命がけになることもある王都への旅も、ピクニック並のお出かけなのですね」


 わたしがひとりで行くんだったら、ピクニックどころかただの散歩だけどね。

 Bボタンダッシュでマッハのスピードを出して走ったら、あっという間に着いちゃうもん。

 まあ、そこは「あはは」と笑ってごまかしておいたよ。


「冒険者ギルドでは、お出かけの手続きとか必要ないの?」


「王都までの護衛は、ギヤモンさんから正式に指名依頼として受けていますからね、出発前にいつものようにギルドカードでチェックするだけで大丈夫です」


 よかった。面倒くさいのは嫌いなんだよね。手続きとか、テストとか、テストとか、テストとか!


「ただ、王都のギルドへの紹介状を作っておりますので、それを今ギルドカードに書き込んでもいいですか?」


 お兄ちゃんがにこやかに言った。


「あなたはビルテンでも有名なたまご戦士であり、実力のある冒険者ですからね。ギルド長のエラールが紹介状を書きました」


おお、あの年齢不詳、実力不詳の、美形エルフか!


「そうなんだ! やっぱ、わたしはどこに行っても注目を浴びてしまう人気者だからね、そこんとこを王都の人たちにも理解しておいてもらわないといけないんだね!」


「そうです。あらかじめ王都の者にも理解しておいてもらわないといけないことが、たくさんあるんですよ」


 ちょっと、セレブな扱いじゃない?

 たまご、得意になっちゃうよ!


「では、ギルドカードをこちらに」

 

 優良ギルド職員は、わたしからカードを受け取ると、ぴっとしてくれた。


「はい、ではしまっておいてくださいね」


「……」


 おかしい。

 ライルお兄ちゃんの優しさの陰に、たまごの本能がなにかを見つけたよ。

 そのブルーの瞳の奥底に宿しているのは、秘めたるたまごへの愛なの?

 それとも……。


「ライルお兄ちゃん、ちょっと紹介状を読ませてもらいましょうか?」


「いえいえ、それは別にリカさんが読む必要のある書類ではありませんよ。なにか読みたいのなら、魔物の図鑑でも、ほら、図書館に行って読んでみた方がいいですよ。道中、どんな魔物に会うかわかっていた方が、効率よく狩りができるでしょう」


「ものすごく説得力のある意見だけど、わたしは紹介状が読みたいのです」


「……読みたいですか?」


「読みたいですね」


 みつめあう、イケメンとたまご。


「……わかりました。それでは、カードを貸してください」


 ライルお兄ちゃんは、カウンターの受付にある板にカードをかざしてから、こちらに渡した。板の上には文字が浮かび上がっている。これが紹介状としてカードに書き込まれた内容らしい。

 わたしはカードをしまってから読んでみる。


「どれどれ……『非常識なほど強いたまごです』非常識は余計じゃない? 素晴らしくとかさ、別の表現で……『スルースキルをフル活用』『まともに相手をすると疲れます』……ちょっと! 褒めてない! これ全然褒めてないよ、むしろ悪口だよ! たまごに対する悪口を書き連ねた文章であって、これが紹介状だということはたまごとして認められないね!」


「ギルド長による紹介状です。悪口ではありません」


「紹介状の最後が『当ギルドは起こった被害については一切責任を負いません』なんて絶対におかしいでしょ!」


「非常に重要な一文ですね」


「……おかしいよう、こんなの紹介状じゃないよう、みんなでたまごをのけ者にしようとしている、いじめの手紙だよう……」


 悲しみに打ちひしがれるたまごだよ。

 わたしは意地悪なことが浮かび上がっている板をそっとカウンターに戻すと、ギルドの部屋の端っこに寄り、どんよりとした風情でたたずんでみる。


「ふふ……たまご、ちょっと寂しい気持ちになっちゃった……」


 どうしよう。とってもメロウで黄昏れたハートになって、こんなんじゃ王都になんて行けないよ。

 そんなたまご心など解さないギルド職員は、「すみませんが、もうひとつ付け加えたいのでギルドカードを出してください」とクールに言い放つ。


「……たまごの気持ちをこれ以上傷つけないで……」


 わたしはカウンターに戻ると、力なくカードを渡した。

 ライルお兄ちゃんが、新たな文章をぴっと書き込んだ。

 今度はどんな悪口かな。

 わたしはのぞき込む。


『ビルテンの人たちはみな そんなたまごが大好きです  文責 ライル』


「……お兄ちゃん、これ!」


「ビルテンの人たちの話ですからね、客観的にみた評価です」


「お兄ちゃんも含むよね! お兄ちゃんもね!」


「ビルテンの人たちの話ですね」


 ぶれないツンデレのライルお兄ちゃんは、にこやかな笑顔を崩さずに言う。


「さあさあ、それをしまってちょうだい。ハーブティーを入れたから、お茶にしましょうよ」


 モテっこギルド職員のチアさんが、カップを三つ、お盆に乗せてきてくれた。


「今は誰も来ないだろうから、あっちのテーブルでゆっくり飲みましょう」


「うん! たまご、美味しいおやつを出すね!」


 すっかりご機嫌なたまごだよ!


 わたしは薬草をアイテムボックスから出してたまごアームに握ると、「『調合』!」と唱えた。たまごアームには、『すごいシュークリーム』が三つ、乗っている。これは、心が癒やされる美味しいおやつなんだ。バニラビーンズの粒がカスタードクリームに入っていて、風味がよくて、トロッと甘くて、やっぱシュークリーム最高! って思っちゃうんだよ。


「はい、これ! 『すごいシュークリーム』だよ。食べてね」


「わあ、柔らかいんですね」


 受け取ったお兄ちゃんが、ごつごつした見た目と違う柔らかさと重さに驚いて言った。


「中には美味しいクリームがたっぷり入っているの。気をつけて食べてね。はい、チアさんもどうぞ」


 そして、わたしたちは「いただきます」と言って、シュークリームに噛みついた。


 たぷっ。


 中からクリームが溢れて、ライルお兄ちゃんとチアさんの顔がクリームまみれになった。


「……リカさん……」


 わたしは、クリームだらけのイケメンとモテっこを見てぷぷっと笑い、傷ついた心を完全に癒やしたのでした!


                             FIN.


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