番外編 リカ、バイトをがんばってるよ! その2
短いけど、ちょこっと更新しておきます。
勤務中にお客さんに抱きついたわたしは、店長に「めっ」と叱られてしまったので、てへっと笑った。
他のお客さんが、自分にもやって欲しいとか言い出したら困るからだそうだ。
それは困るね。
わたしだって、やたらと人に抱きつく趣味はないんだよ。
大好きなライルお兄ちゃんだからこそ、抱きついてスリスリして、ついでに匂いまでふんふん嗅いでおいたんだよ。
……わたし、変態じゃないよ? これは勢いってやつだよ、うん。
お兄ちゃんの注文をキッチンに伝えて、できあがった料理を他のお客さんのテーブルにちゃちゃっと運んで、「店長、生き別れの兄に会えたのでちょっとしゃべってもいいですか?」って聞いたら、「リカちゃんには欧米の血は一滴も混じってないよね」と言われてしまったので、ちゃんと仕事が終わってからライルお兄ちゃんとの心と心のふれあいをすることにした。
「ごめんねお兄ちゃん、シフトが入っているから急遽デートタイムがスタート!っていうことはできないの」
「大丈夫ですよ。今日は神のおごりで食べ放題ですから、ゆっくり待ってます」
ライルお兄ちゃんはにっこり笑って、万札を5枚くらい見せた。
やだ、神ったらイケメン。
ついでにお兄ちゃんもイケメン。
「なんで急に来たの? 神に迷惑かけられてない?」
「ええ、かけられてます。なんでも世界の破れ目の、昔縫い合わせたところがうまくいかなかったとかで、ほころびてるらしいんですよ。それで、縫い直すときに押さえて欲しいからって時々呼び出されてます。リカさんを呼ぶと叱られるから怖いそうです」
「ああ、あれね。結構精神力がないと、破れ目を押さえられないって言ってたっけ。こんなに可愛い女子高生に対して怖いとか、失礼な神だな。お兄ちゃんはスルー能力が異常に高いから、精神力も高いんだろうね、いいように使われちゃダメだよ」
「スルー能力が高いのはいったい誰のせいでしょうねー」
てへっ、お兄ちゃん、いい笑顔だね。
「そうだねー誰のせいだろうねー」
あはははと和やかに笑いあう仲良しな兄妹分だよ。
「手伝った報酬として、日本で美味しいものを食べさせてくれるって神が言いまして。本当は神と一緒にこの店に来るはずだったんですけどね」
「ええっ、もっとちゃんと報酬をもらいなよ。甘くすると、あの神はすぐにつけあがるよ」
「でも、お金には困ってませんからね。こっちの方がレアな報酬だと思いませんか」
「ああ、彼女がいないから、お金の使い道がないんだっけ」
「ははははは」
お兄ちゃん、笑顔でものすごく痛いデコピンをするのはやめてよ。
わたしは涙ぐんで、両手でおでこを押さえた。
ちなみに、わたしはサボってお兄ちゃんと話してるんじゃないからね。
アイスキャラメルマキアートとオムライスとたまごカレーと親子丼ととろーりたまごのパスタとミモザサラダとプリンパフェと特製プリンかき氷を順番に運ぶとね、全然余裕で会話できるんだよ。
ってゆーか、お兄ちゃん食べすぎだよ!
ランクA冒険者の食欲、ハンパねーな!
「で、神はどうしたの?」
「僕をこっちに送るときに、また世界を破いちゃったらしくて」
「……あの神……」
世界を任せておくには、ちょっと不注意な失敗が多いよ。
「なんか大慌てで、『ヤバい出ちゃう魔物が出ちゃうーっ、ライルくん先に行ってて!』って叫びながら、僕にお金を握らせて、時空の隙間に戻って行ったみたいです」
「……あ、の、神!……」
それは出しちゃダメなものでしょ!
お兄ちゃんは、眉をハの字にした困り顔で言った。
「突然やってきて、こんなお願いをするのは大変心苦しいのですが……残ったお金でジャパニーズSUKIYAKI用のお肉を買って行ったら、リカさんのうちに泊めてもらえるでしょうか? 神がいつ迎えにくるかわからないので」
お兄ちゃんのおずおずとした顔に萌えるたまごだよ!
あっ、たまごじゃないけど!
「ガッテン承知だよ! むしろうちに来て欲しくて拉致りたいくらいの大歓迎だよ」
わたしはスタッフルームに駆け込むとスマホを取り出し、『みんな注目! なんと! 今夜ライルお兄ちゃんがホームステイに来ます。SUKIYAKI肉持参だよ!』と家族用のグループにラインをした。
ママからは『オー、ウェルカム! カモンライルオニーチャン! ソーハピーデー!』ヒロからは『マジかー!ヽ(▽ `)ノワーイ♪ヽ(´▽`)ノワーイ♪ヽ( ´▽)ノ』パパからは『今夜は寝かさないよ!ワク♪〃o(*´▽`*)o〃ワク♪』と返事が返ってきた。
裏切らないテンションの高さに満足して、わたしはこだわりたまごのマドレーヌとロールケーキ盛り合わせをお兄ちゃんのところに運んだ。
だから、食べすぎだよ!
ほら、手伝ってあげるから、一口わたしの口に入れなよ!




