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【書籍化】わたしはたまごで異世界無双する!  作者: 葉月クロル
神はたまご使いが荒すぎるよ
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番外編 神はたまご使いが荒すぎるよ その1

 たまご戦士として異世界で大活躍した春休みが終わり、わたしは高校一年生になった。

 わたしの通う高校の校則は厳しくなかったから髪型は割と自由なんだけど、清楚なアイドルっぽさを目指すわたしは長い髪を両側で緩くおさげにしている。制服はなんと、ななーんと、憧れのセーラー服だ。


「ああ、この世にこれほどまでにセーラー服が似合うJKがいるだろうか!?」


 己の可愛さに言葉を失い、天に両手を掲げて叫ぶわたし。


「いいえいないわ、セーラー服を着たリカちゃんの可愛さはプライスレス! この世の奇跡よ!」


 その横で同じように手を上げて言い切るママ。


「おほほほほほ」


「うふふふふふ」


 わたしとママは、手を取り合ってくるくる回って踊る。

 部屋の前を通りかかったヒロが、冷たい目で言った。


「女共はいつまでセーラー萌えやってんだよ、入学してからどんだけ経つんだよ」


「何を言っちゃってんのヒロくんたら! 毎日着ても飽きないよ! セーラー服は神制服だよ!」


「そうそう、リカちゃんの可愛さは毎日見ても飽きないんだもん。ヒロくんはそういうことを言っちゃだめです」


 ほっぺを膨らますママ。

 優しい姉であるわたしは、弟を手招きして言った。


「ほらほら、ヒロくんも遠慮しないでおねーちゃんのセーラー服姿を愛でなさい。一生のうちで今だけだよ、こんな至近距離でセーラー服を見たり触ったりできないよ、今なら現役女子高生の中身も入ってお得だよ、ほらほら」


「別にそういうのに興味ねーよ」


 そういいながらも、少し顔が赤いところを見ると、思春期のヒロの心を打つものがあったのかな? 可愛いって罪だよね!


 あっ、それとももしかして?


「ええっ、まさかヒロは着る派? 着る派なの? なんだ、そういうことならちょっとだけなら貸してあげるよ?」


 わたしは年長者の余裕を見せて優しく言った。

 可愛い弟になら、大事なセーラー服を貸してやることもやぶさかではないよ。

 部活後のくさい時はやだけどさ。


「着ねーよ!」


 ヒロは即答したけど、時々人の話を聞かなくなるママがうんうんと頷いた。


「それもまた『萌え』。じゃあヒロくん、ちょっと着てみましょう」


「やめろよかーちゃん、俺を変態にする気かよ! ねーちゃんはいそいそ脱ぐんじゃねえよ!」


 素直になれない中三男子である。






『リザンダヨー リザンダヨー』


 スマホのメール着信音が鳴った。


「ねーちゃん、その地獄の底から響くような歌はなんだよ」


「『たまご踊りのテーマ』だよ。イケてるでしょ。わたしのオリジナル曲だから、他のスマホの着信と間違えることがないんだよ」


「そりゃ間違えようがないな」


 わたしの歌を録音して着信音を作ったんだよ。わたしはシンガーソングライターアイドルってことになるのかな? 自分の溢れる才能が怖いね。


「エビルリザンが地獄の底から這い出てくる感じを歌ったんだけど、聞き手に見事に伝わってるってことだね、嬉しいな!」


 わたしは脱げかけのセーラー服を翻し、「リザンダヨー リザンダヨー」とたまご踊りを踊った。


「服着ろ……うん、確かに地獄を思わせるようなまがまがしさが伝わってくる。ものすごく役にたたない気がするけど、それもねーちゃんの才能だな」


「へえ、ヒロは芸術がわかる男だね! 若いのにたいしたもんだよ!」


「若いのにって、俺ねーちゃんのひとつ下だからな」


「ああ、ここにエビルリザンの頭があったらなあ。あれを持つと、もっと素敵に踊れるんだ」


「なくてよかったことが本能的にわかるわ」


 ヒロが呟いた。


 わたしはスマホを見た。

 

「あ、神からだ」


「マジかよ!?」


 ヒロがスマホをのぞき込んだ。


「なになに、ヒロってば食いつきがいいじゃん! そんなに神が好きなの? おねーちゃんよりも好きなの?」


「悪いが俺の中では両方お断り物件だ。あの神からだぞ? あ、の、神、だぞ? 絶対ろくな連絡じゃねーだろうが」


「……それもそうだね。あの神だしね。またなんかやらかしたのかな」


 わたしはメール画面を開いた。


『すみませんが、ちょっと世界が破けそうなので、縫うまで押さえててくれませんか?』


「なにこの、ズボンのお尻が破れちゃった感」


 ホントにろくな用事じゃあないね!


『一分後にお迎えに行きます』


「もう一分経ってるよ早いよ神は! あー、ヒロ、ちょっとズボンの穴をふさいでくるから!」


「ねーちゃん光ってる! ズボンって!?」


 わたしはお馴染みの金の光に包まれた。








「リカさん、早く早く」


 神が、世界の境目らしい物を掴んで叫んでいた。

 っていうか、神ってそんな格好だったんだね。

 えっ、どんな格好かって?


 あはは、教えないよ。


「ひとりじゃ手に負えなくて。もう魔物が抜け出しちゃったんですよ」


「ええっ、ちょっと何やってんのよ! 抜け出す前に呼びなよ!」


「だって、安易に呼んだらリカさんが怒るかなって思って……」


 びくつく神。少し涙目である。


「どうせ怒られるなら、被害が出ないうちに呼べって言ってるの! ほら、ここを押さえていればいいの?」


「はい、すみません。さすがリカさんですね、世界の境目に触れても動じない精神力を持つ人はなかなかいないんですよ、素晴らしい!」


「おべんちゃらはいいから、早く縫いな」


 わたしは世界の境目の端を神から受けとった。ぎゅうっと引き寄せていると、神は金の光の糸で破れ目を縫い合わせていった。


「ふう、ここはこれでよし」


 縫い終わった神は、安心したようにため息をついた。


 縫い目を見ると手際よくとても上手に縫えていて、世界の端っこはもうじわじわと自己修復が始まっていた。。

 さては神、こんなに上手く縫えるとは、しょっちゅう破れ目を縫っているね?


「あとは、抜け出した魔物をちゃちゃっと狩ってきて欲しいんですが」


 もう丸投げ感いっぱいの神は言う。


「なんで神が行かないの?」


「わたしはあまりにも偉大過ぎて力が制御できないんです。魔物を一匹狩るのに国をひとつ潰しちゃったりする可能性があります。全部なかったことにして最初から作り直す方が楽なんですよ」


 Gという名のけしからん黒い虫を殺ろうとして、バズーカ砲を撃っちゃう感じだね。


「わあ、すごい迷惑だね! わたしはあの世界が気に入ってるから、なかったことにはされたくないよ。わかった、魔物は狩ってきてあげるよ。わたしは愛のたまご戦士で神々のアイドルだからね」


「トップアイドルですよ、トップアイドル」


「神々のトップアイドルね! それじゃあますます仕方がないね」


 神はわたしをたまご戦士の姿にした。

 久しぶりのたまご装備は相変わらず大変居心地がいい。

 アイテムもそのままだったので、さっそく『すごいたまごアイス』をふたつ調合した。

 ひとつ渡すと、神は「美味しい美味しい、素晴らしい供物をありがとうございます」と子どものように喜んでアイスをしゃくしゃく食べた。わたしも一緒にアイスをかじる。


 うん、久々に食べるたまごのおやつはやっぱり美味しいよ。

 これを食べると気分がさっぱりするから、神に対するちょっとイラっとした気持ちも消えたね。


「たまご索敵で魔物を探してくださいね。終わったら呼んでください。気にはしていますが、わたしも何かと忙しい身なので」


「破れ目を縫うのに忙しいとか」


「……」


 神の目が泳ぐ。


「図星かよ! 大丈夫なのかよこの神は!」


「……サーセン」


 神は小さくなって謝った。

 もう、またイラっとしちゃったじゃん!


 仕方がないので『すごいシュークリーム』もふたつ出して、神と仲良く食べた。




そして、美味しいおやつで精神を安定させたわたしは金の光に包まれて、いつもの神の力で世界を転移した。


「ここはどこだろう? ビルテンの近くじゃないな、見たことない場所だ」


見知らぬ森をたまご索敵画面を見ながら進むと、開けた場所に着いて、やがて小さな村にたどり着いた。


「この村の中に魔物がいるんだね。ズームにしてみよう」


 場所を特定するために画面を拡大すると、なんと村全体が赤い光を放っている。

 たくさんの赤いたまご型の光が村に存在しているの?


「なにこれ……神は大量の魔物が抜け出したなんてことは言ってなかったよね、なんで?」


 じゃあ、村がまるっと魔物になってるってことなのかな?

 こんなモンスター、ゲームでもお目にかかった事がないよ。どう倒せばいいんだろう。

 村から離れたところで首をひねっていると。


「たっ、たまご!?」


「なぜここに!?」


 後ろで誰かが叫んだ。

 たまご索敵の画面には、青いたまごがふたつ表示されているから敵ではない。

 どうやら村人との遭遇のようだ。

 そして、たまごの姿のわたしに驚いているようだ。

 愛のたまご戦士の評判は、田舎までは届いていないんだね。


 わたしは振り向きながら言った。


「驚かなくていいよ魔物じゃないから、わたしはたまごだけど冒険者のうわあああああっ、なんでこんなところにいるの!?」


わたしはセリフの途中でびっくりして叫んだ。


「それはこっちのセリフだ! なんでお前がここにいる?」


「……なるほどね、あなたが来るほどの事態だということなのですね」


そこにはフル装備でいかにもモテそうなハンサム剣士の空手部部長ことゼノ副団長と、キラッキラのミスリルアーマーを身に付けた冒険者ギルドの良心、フツメンだけどイケメンのライルお兄ちゃんが立っていた。





「うわーーーーーい、たまご、感激ーっ! 会いたかったよーっ!」


 わたしはたまごアームを広げ、全力でふたりに駆け寄った。


 素早く剣を抜いたライルお兄ちゃんとゼノは、ひらりと身をかわして剣を振り上げた。


 上から振り下ろされたミスリルの大剣をよけて素早い身のこなしできゅるっと回り込むたまご。ざしゅっと音がして、砂煙があがる。


「ちょっと!」


 再びたまごアームを振りかざして近づくと、今度はゼノ副団長の剣が繰り出される。


 わたしはAボタンで飛び上がり、ゼノの頭上を越えた。

 着地すると振り向き、次の攻撃に備えてたまごアームをヘロヘロと怪しく動かす。


「……」


「……」


 互いににらみ合うわたしたち。ライルお兄ちゃんとゼノは剣を構えてたまごの隙をうかがっている。


 ……って、なんで戦いになってるのさ!


「酷いよふたりして! わたしは再会を喜んで抱擁したいだけなのに、いたいけなたまごに剣を向けるなんて!」


 これは愛すべきたまごに対する態度じゃないよ!

 ちょっと会わなかったからといって、そんなにも愛が醒めてしまったなんて、たまご、悲しいよ!


 しかし、たまごの悲しみは届かない。


「何が抱擁だ、このばかたまごが! お前の全力ダッシュでぶつかられたらどうなるか、理解してないのか!?」


「惨殺されるのはお断りです」


 ふたりは構えを解かずに言った。


「……あ」


 そういえば、たまごアタックは日に日にレベルアップしてるから、今やミスリルの塊さえもボコボコに凹ませる威力があるんだっけ。

 気軽に体当たりをしたら、えらいことになるね。


「わあ、危ない危ない、たまご、うっかりイケメンコンビを見る影もない肉塊にしちゃうところだったよ。ごめーん」


 わたしはたまごアームでたまごのてっぺんをポリポリかいて言った。


 テヘッ、たまごったらおとぼけさん!


「うっかりするな! そして、肉塊とか言うな! 本気で怖いわ、このなぶり殺したまごめが!」


「……やはり王都でもなぶり殺していたんですね……」


 お兄ちゃんが乾いた笑いを漏らした。


「いやあん、相変わらずのドSな上から罵倒が素敵だね、空手部部長! でも、たまごのイメージが悪くなるような発言はやめてよーん、ライルお兄ちゃんが遠い目をしちゃうじゃーん」


 わたしはたまごアームを胸の前で組んで、くねくねしたポーズをとった。

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