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採取のお仕事

 今日はいい天気で、薬草採取日和だ。

 この世界は四季があるのだろうか。


 どうやらしばらくこの世界で暮らしていかなければならないようだから、ここがどういうところなのか本格的に知る必要がありそうだ。

 あとでギルドの図書館に行って、この世界の情報や常識が書いてある本を司書のセブさんに見せてもらおう。

 わたしはど田舎出身の世間知らずのたまごお嬢さんだと思われているから、多少ぶっとんだ事を言っても大丈夫だろう。

 ってゆーか、この町の名前すらまだ知らないじゃん、あはは。


 わたしはコントローラーを操って、楽々森へ向かう。

 いったいどのくらい早く動けるのかなと思ってBボタンを押しっぱなしにしたら、加速が全然止まらないので怖くなってやめた。それに、空ならともかく地上をこのスピードで進んでいたら、ぼんやり立っている人にぶつかってしまう恐れがある。まだ人殺しにはなりたくない。

 それにしてもなにこのチート。音速とか出ちゃいそうじゃん。


 森の中に入った。たまごの殻に被われているからわからないけれど、外の気温はどれくらいなのだろうか。見た感じでは気持ちが良さそうな気候みたいだけど。

 地図を思い出しつつ、まわりの気配も探りながら進んでいく。

 絶対防御のたまごの殻だけど、急に魔物に襲いかかられたらびっくりするからね。わたしは人の扮したお化けが飛び出してくるお化け屋敷は嫌いなのだ。怖くはないけどね、驚かされるのが嫌なんだ。


『たまご索敵が使えるようになりました』


 見ると、上の方に新しく画面が現れている。マップのようで、これは便利モノだ!とちょっと嬉しくなる。

 マップに重なるのはレーダー表示画面に似ているけど……小さなたまご型の点滅が表示されている。たまごは赤と青があるようだ。


 わたしが向かう小川の辺りには、青いたまごがひとつと赤いたまごが6つ光っていて、赤いたまごは青いたまごをじわじわと包囲しているように見える。


 どういうことだ?


 嫌な予感がして、わたしはたまごの速度を速めた。





「このっ、あっち行け! 来るな!」


 青いたまごの正体は、まだ小さな男の子だった。

 小学校低学年くらいだろうか。

 木の棒を振り回して、ワイルドウルフの群れを追い払おうとしている。

 あんな木の棒では狼型の魔物に太刀打ちなどできないだろう。ワイルドウルフは余裕の仕種で男の子との距離を詰めて囲い込んでいく。

 

 どうやらたまご索敵では、敵は赤、そうでないものは青で表示することがわかった。身体をはってそれを教えてくれたお礼に、わたしは男の子を助けることにした。


「少年、後ろに下がれ!」


「えっ?」


「たまごアターーーック!」


 うっかりぶつかるといけないので、わたしは男の子に声をかけてからたまごを加速させ、ワイルドウルフに体当たりした。


「へ?」


 ちょっと、かっこよく助けたのになんで微妙に残念な顔をするの?

 決め技の名前を叫んだのがいけなかったの?


 テンションが下がったわたしは無言で体当たりをかまし、ワイルドウルフを次々と地獄の底に沈めた。


 すべての魔物を倒したわたしは、たまごアームを操ってたまごボックスに獲物をしまった。


「大丈夫? ケガはないかな」


「……あ……たまご?」


「たまごだけど冒険者やってるよ!」


「あ、す、すいません、助けてくれてありがとうございました!」


 はっとしたように頭を深く下げてお礼を言ったので、失礼な感じだったのは許してあげることにした。


「助かりました、本当にありがとう」


「ねえ、君みたいな男の子がひとりきりで森に入るなんて危ないよ。ワイルドウルフもワイルドベアもいるんだよ」


「……はい」


 素直な男の子だ。たまごに叱られてしょんぼりしている。

 よく見ると、金髪でそばかすがあって、かわいい顔をしている。


「どうしても薬草と、毒消し草が必要だったんだ……」


「君、歳はいくつなの?」


「八歳だよ」


 まだちびっこじゃん!

 この世界では八歳の子が森で薬草を摘んで稼がないと暮らしていけないほど厳しいところなのだろうか。

 

「お金がないの?」


「うん、お金がなくて、お母さんの薬が買えないんだ。毎日薬草と毒消し草を飲ませないと、お母さんはどんどん悪くなっちゃうから……」


 涙目になっている。

 か、かわいそうだ。

 わたしはちびっこを泣かして楽しむ趣味はない。


「わたしも今日はここで薬草を採取しようと思っているんだ。君も近くで採るといいよ。帰りも一緒に帰ってあげる」


「ほんとに? いいの? ありがとう!」


 目をキラキラさせてカワイイな!


「僕はエドっていうんだ。ええと、たまごさん?」


「お姉ちゃんは、リカだよ」


「リカお姉ちゃんだね、ありがとう、よろしくね」


「さあ、今日は安心していっぱい摘みなよ」


「うん!」


 エドは小さな手で一生懸命に薬草を摘んで、毒消し草をわたしに教えてくれた。これも売れそうだなと思い、わたしは毒消し草も摘んで袋に入れた。ギルドで袋を二つ買っておいて良かった。

 たまごアームで土を掘り返しながらひたすら採取する。


 お昼になると、エドは川の水を飲んで休憩した。


「お弁当は持ってきてあるの?」


 予想通り、彼は首を横に振った。


 わたしはたまごに向かって「お昼はたまごサンドを希望する!」と呟いた。

 空気を読む賢いたまごは「お食事の用意ができました」とアナウンスすると、テーブルにタップリのたまごサンドを出した。ハムやキュウリやトマトスライスが挟まっている豪華なサンドだ。

 わたしが半分掴んでテーブルの出てくる空間に押し込むと、たまごサンドが消えてコントロールパネルの表示が変わった。


アイテム 薬草の入った袋 1

     毒消し草の入った袋 1 

     ワイルドウルフ 6

     たまごサンド タップリ


 タップリとかアバウトな表示だな!


「エド、手は洗ったの?」


「うん」


「じゃあ、これ食べなよ」


 たまごアームをたまごボックスに突っ込んで、たまごサンドを取り出した。


「うわあ、美味しそう……食べていいの?」


「いいよ、わたしの分もたくさんあるんだ。全部食べなよ」


「ありがとう! いただきます!」


 ちゃんといただきますの言える良い子のエドは、美味しい美味しいと目をキラキラさせてたまごサンドを食べた。


「こんなに美味しいもの、食べたことないよ、パンがふわふわで雲みたいだよ、お肉美味しいよ、たまご美味しいよ」


 ……美味しさのあまり、またしても涙目になってやがる。


 やばいこいつ、めちゃくちゃかわいいや。

 心のお気に入りに登録だ!






 さて、二人とも袋にいっぱいになるまで摘んだので、まだ日が高いけど町に帰ることにした。

 エドの足に合わせて歩いたら、1時間くらいかかりそうだしね。


 子どもは順応が早い。

 たまごの姿のわたしにすっかり懐いて、笑顔でおしゃべりをしてくれる。


「エドんちは何人家族なの?」


「四人だよ。お父さんとお母さんとお姉ちゃんと僕。でも、お父さんは泊まりで鉱山で働いているの。お母さんが病気になって、お金がたくさんいるんだ」


「そうか、大変だね」


「お母さんが元気になってくれるなら、なんでもするんだけど」


「でも、今日みたいなことはもうしちゃ駄目だよ。エドが魔物に喰われたら、お母さんもお姉ちゃんも守る人がいなくなっちゃうんだからさ。お父さんが留守なら、男はエドだけなんだから、男の責任があるんじゃないの?」


「……うん、わかった。もうしないよ」


「そのかわり、わたしが薬草を採取する時には声をかけるよ。わたしは田舎からこの町に来たばかりでさ、知らないことばかりなんだよ。毒消し草も今日初めて知ったんだよ。エドがいろいろ教えてくれたら助かるんだけど」


「いいよ! 僕、魔物の事や森の植物のこともよく知ってるよ! 任せて!」


「じゃあ、取り引き成立だね」


 キリッとした顔を作っているらしいかわいいエドと一緒に町に戻り、門番のマックスさんにギルドカードを見せる。エドも自分の身分証明書を見せた。


「エド、薬草は採れたか?」


「うん、途中でワイルドウルフの群れに襲われたんだけど、リカお姉ちゃんが助けてくれたんだ」


「あ、そか、お姉ちゃん、だったっけ」


「マックスさん、聞いてもいいですか?」


「なんだ?」


「どうしてエドをひとりで行かせたの? 危ないってわかってたでしょ」


「ああ」


 マックスさんは笑顔を引っ込めて言った。


「わかっていたが、エドの母親の病気が重いのも薬を買う金がないのもわかっていた。俺はエドが度々森で薬草を取って来るのを止める事はできない。エドのうちにはそれが必要なことだからな」


「この町では、八歳のエドも一人前の働き手だってことだね。わかったよ。別にマックスさんを責めてるわけじゃないからね」


 そういう厳しいことのある世界だっていうことだ。


「これも何かの縁だから、わたしがこの町にいる間はエドんちの薬草についてはわたしが面倒を見るつもりですから、よろしく」


「そうか、たまごのねーちゃんが見てくれるか。良かったな」


「たまごのねーちゃんじゃなくって、リカお姉ちゃんだよ!」


 エド、よく言った!

 君はわたしがしっかり面倒を見てやるぞ!


「ああ、すまん、リカ」


 マックスさんは頭をかきながら笑った。

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