番外編 ライルは日本で異世界無双する? その7
「ライルお兄ちゃーん!」
わたしは大喜びで戦いの真っ最中のお兄ちゃんに駆け寄った。
もちろん邪魔にならないように気をつけたし、お兄ちゃんを狙っていた頭をふたつばかりたまごアタックでどついて、涙目にしてやったよ。
「愛のたまご戦士が来たから、もう安心だよ!」
「リカさん、その姿は」
ミスリルの剣でおろちの首を横に切り裂いたお兄ちゃんが、しゅたっと後ろに飛びのいて言った。
「たまご化できたのですね」
お兄ちゃんは襲いかかる大蛇の牙を迎え撃つと、返す刀ですかさず一撃を加え、顔面を深く斬る。攻撃はかなり効いたらしく、おろちは『シャーッ』といいながらのけぞった。
「そうなんだよ。お兄ちゃんの近くにいれば、日本でもたまごになれるんだって。協力して魔物を倒そうよ、これはふたりの初めての、愛の共同作業なんだよ。愛を込めてさあさあさあ」
わたしは懲りずに近寄ってきた頭に、たまごホーンをさあさあさあに合わせてザクザク刺しながら言った。
穴だらけになった頭から、ビュービュー血が噴き出す。
いやん、たまごが汚れちゃう。
わたしが身体をくねらせると、防染加工になっているたまごの殻から返り血が落ちた。
「一部発言に誤りがありますが、わかりました。協力して倒しましょう」
ちっ、さすがお兄ちゃん、絶対に言質を取らせないね!
「助かります。さすがの僕にも手強い魔物ですからね」
「手強いの一言で片付けるレベルじゃないのに、お兄ちゃんもたいがいだよね! でも、愛のたまご戦士が来たからには、おろちなんかの好きにはさせないよ」
わたしはやまたのおろちに向かってたまごアームをかっこよくしゃきんとさせた。
伝説の魔物であるやまたのおろちは、ぶっとい蛇の身体が途中から八つに分かれて、それぞれに大蛇の頭がついている。エビルリザンは五つの頭だから、それよりも三つも多いとなるともう訳がわかんないし、なんか見た目が気持ち悪いね。
「わー、でかい蛇だね! その上頭が八つもあるなんて、節操ないよ、キモ! 超キモ! この蛇もう最悪にキモ! キモ!」
わたしは目の前のおろちを思いっきり罵った。
そうだよ、やまたのおろちに八つ当たりだよ。
ヒロにキモって言われて、たまご、傷ついちゃったんだから。
元はといえば、日本に現れたこいつが悪いんだからね。
わたしはおろちに向かって全力で叫んだ。
「やだーっ、こいつキモ! キモ! キモーッ! やまたのおろちって超キッモーーーーッ!」
『たまごの罵倒を覚えました』
……え? これって攻撃なの?
見ると、さっきまで勢いよくシャーシャーいってたおろちの頭が、だらんと舌を垂らして八つともうなだれている。しかも、その瞳は力無く左右をふらふらと見回しているよ。まるで光のない瞳だよ。
「さすがはリカさん、魔物の戦闘意欲を奪うとは、ものすごい精神攻撃ですね。ではこの隙に攻撃しましょう」
「う、うん、」
ライルお兄ちゃんにうながされて、わたしはコントローラーを握りしめた。
心の片隅で「なんかおろちすまん」と思いながら。
ジョイスティックとABボタンを操り、わたしはやまたのおろちに体当たりをする。
「たまごアターック!」
頭に激突すると、おろちはクラッとよろめいた。
たまごの罵倒で心を折られたおろちは、反撃を試みるが悲しげに視線をさまよわせるため、いまひとつ迫力が出ない。
「お兄ちゃん、おろちは頭を切り落とさないとダメなんだってさ」
「わかりました」
魔法で身体能力を底上げしたお兄ちゃんは、少年マンガの主人公並のありえない動きを見せ、剣を低く構えてかっこよく助走をつけると高くジャンプして、おろちの太い首に斬りかかった。
さすがおろち、防御力はハンパなくて、ミスリルの両手剣で斬っても一度では頭が落ちない。
わたしはライルお兄ちゃんをフォローするように飛び回り、他の頭がお兄ちゃんに攻撃できないように次々とたまごアタックを繰り出していく。なにしろ頭が八つだから、全部にまんべんなく体当たりするためにすごい早さでコントローラーを操るわたし。
頭のひとつに狙いを定めて、ライルお兄ちゃんのミスリルの剣はザクザクと大蛇の首回りを切り裂いていく。
うん、見事な連携プレイだね!
これはやはりふたりの愛の為せる技だと思うの。
それを伝えようとお兄ちゃんを見ると、ミスリルの剣を振りきってとうとう最初の頭を落としたところだった。
地面に転がるのは、白目を剥いた蛇の頭。
ぎゃあああああ、と叫び声を上げるやまたのおろち。
頭を落とされた痛みで『たまごの罵倒』の効果は切れたようだ。
さっきまで死んでいた瞳が、爛々と輝いている。
やまたのおろちにロックオンされる前に、わたしたちはいったんヒロのところまで撤退した。
おろちはギャーギャー言いながらその場で暴れまくっている。
「これでようやくひとつだね。お兄ちゃん、大丈夫?」
ライルお兄ちゃんは、フェイスシールドを上げて顔を見せた。
「リカさん、援護ありがとうございます。かなり強い魔物ですから、正面から戦うとかなり厳しいと思われますね。あれはランクAのリーダーのいる多人数パーティー相手レベルの魔物です」
わあ、やっぱり強いんだね。
そうか、ふたりじゃ厳しいか。
それにたまごに守られたわたしと違って、ランクBの上級冒険者とはいえ、戦いが長引けばお兄ちゃんは疲労するだろうし、魔力にも限りがある。
「心配な要因として、この剣がどこまで持つかという点もあげられます」
お兄ちゃんは、ミスリルの剣を示した。
「丈夫で切れ味のよい剣ではありますが、魔物の頭を八つ落とし終えるまで持つかどうか……リカさんの攻撃は、打撃と刺殺、ですよね?」
「そうなんだよ! 見たことないのによく知ってるね!」
「魔物の惨殺死体をじっくり見ましたから」
ライルお兄ちゃんの視線が、ふっとわたしからそらされた。
えーと、何を思い出しちゃったのかな?
「……惨殺死体? ……ねーちゃん、異世界でアイドルだかヒーローだかやってたんじゃねえの? 本当はなにをやってたの?」
ああ、曇りなき弟の視線が痛いよ!
わたしはうろたえながら言った。
「違うんだよ、それはおねーちゃんが残酷なたまごってわけじゃなくって、攻撃手段が体当たりと頭突きだけだったから、仕方なくなんだよ! そんな目で見ないでよ! おねーちゃんは、おねーちゃんは、みんなの役に立つたまごなんだよ……惨殺たまごなんかじゃないんだよ……?」
ヒロくんにそんな目で見られたら、おねーちゃん泣いちゃうよ。
「わ、わかったよ! いちいち泣くなよ! ってゆーか、この世界の命運がかかってんだから、この際惨殺でも虐殺でもなんでもいいから、ねーちゃんがケガをしないようにやまたのおろちを倒せよ。な?」
ヒロがたまごの頭をぐりぐり撫でながら言った。
「そ、そうだよね、手段はどうでもいいから、魔物を倒すことを考えようね」
でもね、虐殺はしないよ。たぶん。
「ネットで調べたやまたのおろちの情報はさっき言ったとおりだけど、何かいい攻略法はないかな」
ヒロが言った。
「わたし、思ったんだけどさ、おろちはお酒に弱いんだよね。だから、たまごにお兄ちゃんを乗せて町まで飛んで、酒屋のお酒をありったけ持ってきておろちに飲ませるのはどうかな?」
酔っ払うとふらふらになるのはもちろん、感覚が麻痺したようになるはずだから、頭を落としてもあんまり痛みを感じなくて、しらふの時よりも暴れなくなると思うんだよね。
「どうかな?」
「うーん、筋は通ってると思うんだけど……」
「この世界は、突然空を飛ぶたまごが現れても、皆さん冷静に対応できるのですか?」
ライルお兄ちゃんが言った。
「僕の世界では、獣人もエルフも、魔族もいますので、さすがにたまごを初めて見た人は驚きますがすぐに慣れましたけど……ここは人間しかいないようですので」
あー、町に突然たまごが現れて、お酒をあるだけ略奪したら、お巡りさんに逮捕されるね。
そして、たまごが逃げたら大パニックになるね。
自衛隊とか出動するかもね。
そうしたら、山の上に戦闘機とか飛んじゃって、やまたのおろちの存在がバレて、テレビ中継とかされてそれはもう大騒ぎになるね。
たまごは敵だと勘違いされて、撃墜されちゃうかもしれないね。
「……はいっ、却下! 町に行くのはやめましょう!」
わたしはきっぱりと言った。
「それじゃあ、うーん、うーん、弱点はお酒だから……あっそうだ!」
わたしはたまごに向かって言った。
「ねえたまご、アルコール度数のすごく高い卵酒を、レンジでたまごみたい殻に入れられる?」
『可能です』
「ちょっとひとつ作ってみてよ」
『キツイたまご〈とてもアルコール度数の高い卵酒の入ったたまご。喉が焼けるくらいにキツイが、酒好きにはたまらない』
スクリーンに表示が出て、たまごアームがたまごを握っていた。
「これはどうかな?」
わたしはその辺の石にたまごの殻をこんこんとぶつけてヒビを入れてから、たまごをそっと割った。
「うわっ、酒くせえっ!」
「これは……キツイお酒ですね」
わたしは匂いがわからないけど、たまごの中に入っているどろっとした黄色い卵酒を見せたら、まだ未成年のヒロは手でバタバタとあおいでくさいくさいと言った。
「おっけー、いけそうだね。じゃあ早速、おろちに飲ませて来るよ」
わたしは言うと、おろちに向かって飛び出した。
ジャンプからのたまご飛行になり、おろちの頭の周りをぶんぶん飛び回る。おろちはさっきとは比べものにならないくらいに敏速で攻撃的で、わたしに向かって襲いかかってくる。
「キツイたまご!」
わたしは唱えると、強い卵酒入りのたまごをおろちに投げる。どうしても食べずにいられない能力を持つたまごを、おろちはぱっくりと飲み込んだ。
「キツイキツイキツイキツイキツイキツイキツイキツイキツイキツイキツイキツイキツイたまごーーーーーーっ!」
わたしはどんどんたまごを出して、おろちに投げると、七つの頭が争うようにしてたまごに食らいついた。かなりお口に合ったようだね。たまご、嬉しいよ。
なんだか、水族館のイルカショーで、可愛い動物たちにエサをやってるお姉さんになった気分がしてきたよ。
でも、ゴメンね、お姉さんは君をヤるためにエサをやってるんだよ。
おろちは次々と飛んでくるたまごをどんどん飲み込み、やがて動きが緩慢になると、身体をゆらりと揺らした。
どうやらうまく酔いが回ったようだ。
「よーし、お兄ちゃん、頼んだよ!」
「わかりました」
能力が低下したやまたのおろちの頭に、ライルお兄ちゃんが斬りかかった。わたしも剣を使えたら効率がよかったのになあ、残念。
おろちの頭狩りは順調に進み、もう半分の頭を落とした。
そう、わたしたちは油断をしていた。
「! お兄ちゃん!」
「わあっ!」
やまたのおろちは頭が八つ。
でも、ひとつ落としたから、七つの頭にお酒を飲ませた。
頭のない首はノーマークだった。それだけはお酒の影響を受けていなかったのに。
頭がないから、勘だけで行った抵抗だったが、それは運悪くライルお兄ちゃんの身体にヒットしてしまったのだ。
「わああああーーーーーー……」
ミスリルの剣を取り落としたお兄ちゃんの身体が、まるで流れ星になったように空高く飛ばされていき、やがて見えなくなった。
ミスリルのフル装備をつけているし、魔法でいろいろ能力を底上げしているから、ケガはないかと思うんだけどね。
剣は真下に落ちて、地面にサクッと刺さった。
「あー、刃こぼれしていないと……? きゃああああっ!」
剣を拾おうと低い所を飛行していたわたしは、突然身体を守るたまごを失い、落下した。急いで身体を丸くして、衝撃に備える。
「ねーちゃん!」
「……いったあい……」
着地と同時にくるくると5回転くらいして勢いを殺したので、それほどぶつけなかったけどね、目が回って気持ちが悪いよ。
「ライルお兄ちゃん、1キロ以上先まで飛んで行っちゃったんだね」
おかげで装備が解除されちゃったよ。
「ねーちゃん、逃げて!」
「え?」
シャーッと、音が聞こえた。
おろちの頭がこっちを見ていた。
「早く、逃げろよ!」
ヒロの焦った声と同時に、おろちの頭が大きな口を開けながらわたしに迫ってきた。
どうしよう、わたしは今、なんの戦闘能力もない女の子だよ!
足に草が絡んで、わたしはしりもちをつく。
『シャーーーーーッ!!!』
大蛇の頭が視界いっぱいに広がった。
大蛇に喰われる! と思ったら。
わたしとおろちの間に、何かが割り込んだ。
キーン、という硬質の音が響いた。
「……ヒロ!」
ミスリルの剣を両手で握ったヒロが、おろちの牙を受けていた。
「ヒロ、あんた」
「ねーちゃん、早くあっちに逃げろ! 俺じゃこいつと戦えないから、ねーちゃんが逃げたら後から逃げる。ほら、早くして!」
シャーッと言いながら、おろちはまた襲いかかってきたが、ヒロはミスリル剣を振り回しておろちの顔を斬り裂いた。
「早く!」
「う、うん」
わたしは立ち上がり、安全なところまで走った。
ヒロはただの人間なのに、さすがは全国レベルの剣道男子だけあって、神話級の魔物と打ち合っている。
頭ひとつが相手だったら、もしかするとイケたかもしれない。
「ヒロ、避けてーーーーっ!」
でも、やまたのおろちの頭はひとつじゃないのだ!
「わあっ!」
横から攻撃するなんて卑怯だよ!
ヒロの身体が吹っ飛んだ。
「ヒロ! ヒロ!」
かなりの距離を飛ばされたヒロのところに駆け寄る。
「ヒロ、大丈夫……!?」
こんなことって。
ヒロのお腹が。
裂けてる。
「嘘……ヒロ……」
わたしはヒロの前に膝をついた。
「ねーちゃん、腹が、熱いんだけど……」
ぐったりと木に寄り掛かったヒロが、うっすらと笑った。
お腹から、血がいっぱい流れているのに、笑った。
「ねーちゃんはケガ、してない?」
血がどんどん地面に流れていく。
「してないよ、ヒロが守ってくれたから、おねーちゃんはなんともないんだよ、ああヒロ、どうしよう、」
どうしよう、どうしよう、ヒロが、ヒロが、ヒロが、ヒロが、ヒロが、
「ライルお兄ちゃん! ライルお兄ちゃーーーーーん! 早く戻ってきてよ! 待っててヒロ、おねーちゃんはすごい薬を作れるんだよ、こんなのすぐに治してやるからもうちょっと待ってなよ」
ヒロの顔色がどんどんどんどん悪くなって、青くなって、白くなって、ああヒロが、ヒロが、ヒロが、ヒロが、ヒロが、
ヒロのまぶたが落ちる。
「うん……寝てても……いい……?」
ヒロが死んじゃう、ヒロが死んじゃう、ヒロが死んじゃう、ヒロが死んじゃう、ヒロが死んじゃう、
「寝ちゃダメ! 寝ないで待っててよ、ライルお兄ちゃああああん! どこなの? 早く来て! 『愛のたまご戦士、ミラクルフォームアップ!』『愛のたまご戦士、ミラクルフォームアップ!』ライルお兄ちゃああああんっ!『愛のたまご戦士、ミラクルフォームアップ!』やだよう、ヒロ、寝ちゃダメだよ、『愛のたまご戦士、ミラクルフォームアップ』ライルお兄ちゃああああああん! ライルお兄ちゃああああああん!『愛のたまご戦士ーーーーっ! ミラクルフォームアーーーーーップ!』」
助けてヒロが死んじゃうヒロが死んじゃうヒロが死んじゃうヒロがヒロがヒロがヒロがヒロがヒロがヒロがヒロがヒロがヒロがヒロがヒロがヒロがヒロがヒロが
「『愛のたまご戦士ーーーーっ!、ミラクルフォームアーーーーーップ!』」
たまごになった!
「『すごいミルクセーキ』!」
わたしはたまごボックスからざくっと薬草と毒消し草を掴んで、『すごいミルクセーキ』を出した。
「ヒロ、これを飲んで! ヒロ! ヒロ! 起きてよ! ヒロオオオオオオオオッ!」
わたしは『すごいミルクセーキ』のコップにたまごアームを突っ込み、それをヒロの喉の奥にねじ込んだ。
「ヒロ! ヒロ! ヒロ!」
「おえっ!」
「効いた!」
わたしは『すごいミルクセーキ』をヒロの口元に寄せた。
「ヒロ、目を開けなよ」
「……今、ひでーこと……された?」
「おねーちゃんの話を聞きな! そして、これをとっとと飲みな! でないと」
「ちょ、飲むから落ち着け、変なことするな」
ヒロは一口、『すごいミルクセーキ』を飲み込んだ。すぐに顔色が良くなる。
「……なにこれ、超おいしーんですけど」
「コップ持てる?」
「うん」
ヒロは自分でコップを持ち、『すごいミルクセーキ』を「すごいすごい」と言いながら美味しそうに飲んだ。
お腹の傷が、みるみる塞がっていく。
「ほら、お代わりだよ! いっぱい飲みなよ!」
「うん。……待てよ、5杯も飲めねーよ」
「じゃあ、3杯は飲んでおきな! 傷が治るし、血も作れるすごい薬なんだからね」
「美味い薬で良かったよ」
にこにこしながら飲んでいる。
ヒロに3杯飲ませてから、わたしも一杯『すごいミルクセーキ』を飲んで、心を落ち着かせた。
あれ? 『すごいミルクセーキ』に心が落ち着く作用、あったっけ?
「リカさん! 大丈夫ですか!?」
木々の間から、ライルお兄ちゃんが飛び出してきた。
「ああっ、ライルお兄ちゃん!」
「二人とも、無事、ですよね? リカさん、どうしたんですか、泣き声になってます」
「たまごの装備が解けちゃって、おろちに食べられそうになって、ヒロが守ってくれて、でも、でも、死んじゃうところだったんだよ! ヒロが、死んじゃう、かと、思って、こ、怖かったよおおおおおおお!」
うわあああああああああああん!
わたしはたまごの中で号泣した。
怖かったよ、すごく怖かったよ!
泣きながら、ライルお兄ちゃんに『すごいミルクセーキ』を手渡した。
「ごわがっだよおおお、これ飲んでええええええ、うわああああああん」
「あ、どうも」
美味しいおやつに慣れているライルお兄ちゃんは、『すごいミルクセーキ』を一息で飲むと、たまごの頭をぽんぽんと優しく叩いてくれた。
「よくがんばりましたね。もう大丈夫ですよ。リカさんの薬はすごい効き目がありますから、ヒロくんもすっかり元気になりましたよ」
「ねーちゃん、俺は大丈夫だから、泣くなよ。泣くと腫れてすげえ顔になるだろ、魔物並に」
「ちょっと! 可愛いたまごアイドルと魔物を一緒にするのはやめなよ! どつくよ!」
「即死するからやめなさい」
そんなことないよ、わたしは手加減のできるたまごだよ!
「では、一息ついたところだし、魔物を倒してしまいましょう」
「そうだよ! あの魔物が全部悪いんだよ! たまごの心をこんなに傷つけて……うちの弟に痛い思いをさせて……許さないよ…たまご、許さない……よ……」
「……ねーちゃん? 俺、治ったよ?」
「リカさん?」
『すごいミルクセーキ』は、心を落ち着かせる作用じゃなくて、心をメラメラさせる作用があったようだね。
わたしの心は怒りのあまりにメラメラ燃えて、しかも、黒い方向に走っていくのだった。
「許さないよ、おろち……たまごが蛇の残りの頭を皆殺しにしてやる……おろち、コロス……コロシテヤル……」
『惨殺たまごを覚えました』
たまごホーンを額に立てて、わたしはやまたのおろちに襲いかかった。
弟を殺されかけたショックで、禁断のスキル『惨殺たまご』を手に入れてしまったリカさん。
彼女の暴走を止めることはできるのか?
次回、たぶん、最終回をお楽しみに!