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【書籍化】わたしはたまごで異世界無双する!  作者: 葉月クロル
ライルは日本で異世界無双する?

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番外編 ライルは日本で異世界無双する? その3

「ライルさんが持っている剣、すごいよね。あれを使って戦うの?」


「ああ、ミスリルの両手剣ですね」


 興味津々の面持ちで尋ねるヒロに、ライルお兄ちゃんは『けふっ』と炭酸をはいて言った。

 ちょっともう、炭酸に翻弄される青い目のイケメンって可愛すぎだよ! 炭酸出ちゃってびくっと身体を震わせて『わあ、しまった』って少し照れる顔が、めっちゃ萌えるんですけど。


「僕は両手剣も片手のものも、両方扱えます。ミスリルの鎧は防御力が強くて盾をあまり必要としないので、これを装備している時には両手剣で戦います。やっぱり攻撃力が高いですから……」


「ねーちゃん、少しずつライルさんにくっつこうとすんのはやめろ」


 わたしがベッドのお隣り同士に座っているライルお兄ちゃんとの距離をじわじわと詰めていたら、その間にヒロの脚がどかっと入れられた。


「……ヒロくんてばなんでおねーちゃんの邪魔するの? そんな子に育てた覚えはありませんよ。せっかく生身同士のふれあいができるチャンスなのに、殻がないのに」


 たまごのご贔屓の、大好きなお兄ちゃんがお隣りにいるんだよ!

 青春真っ盛りの女子としては、ちょっとくらいくっついてドキドキしてみたり、匂いをくんかくんかとかいろいろとしてみたいよ! だって、こんなにかっこいいんだよ?


「ねーちゃん、おさわり禁止だ、ライルさんが気の毒だから。神の都合で無理矢理日本に連れて来られて、その上ねーちゃんに襲われるとかあまりにもかわいそう過ぎる」


「そんなことないよ! 美少女と仲良くなれるのはライルお兄ちゃんだって嬉しいはずだよ!」


「そこスルーで」


 冷静なお兄ちゃんの発言が入る。


「嬉しくないの? お兄ちゃんはわたしと再会できて嬉しくないの? 会えて舞い上がってるのはわたしだけ?」


 がーん、全然気がつかなかったよ! よよよと泣き崩れるたまごだよ! 殻はないけどさ。


「まあ、妹分と会えたのは嬉しいですよ」


「じゃあ、遠慮なく気持ちをあらわしなよ! 可愛がっていいよ! ほら! んーっ!」


「おい、ちゅー顔して迫るなよ! 弟の前だぞ! ファーストキスがそんなで後悔しないのかよ!?」


 わたしが唇を突き出してお兄ちゃんに近づいたら、慌てたヒロが足先を顔の前に出した。


「うわあっ、あんた、なにすんのよ! あんたの足になんかちゅーしたくないんですけど! そしてなぜファーストキスだって知ってるのかな? 50字以内で答えなさい!」


「あのさあねーちゃん、あくまでも妹分だと言い張るなら妹らしい行動をしろよ。ライルさんもリアクションに困ってるよ」


「僕は妹にはちゅーしませんので、無駄な行動はやめてくださいね、リカさん」


「ちぇーっ、つまんないの。せっかくお兄ちゃんに会えたのにさー、嬉しかったのにさー」


「……」


 わたしは営業用の笑顔をキープして黙っているギルド職員にあざとく上目遣いで言った。口もちょっとアヒルにする。


「お兄ちゃんはわたしのことが可愛くないんだね! もういいもん、リカすねちゃうもん。さっきからヒロとばっかり楽しそうに話してさー、お着替えだって手伝わせてくれないしさー、お兄ちゃんなんて知らない!」


 わたしはベッドにばふっと大の字に倒れて、そのままごろごろと転げ回った。


「知らないもん、知らないもん」


「ねーちゃん……いい歳してみっともないぞ」


「ヒロのばーか。きらいだよーだ」


「な、なんだと!」


 うちの弟はわたしにダメ出しばかりする癖に、嫌いというと『ガーン』という顔になる。


 黙って見ていたライルお兄ちゃんが、笑って「よしよし」と頭を撫でてくれた。


「えへへ」


 速攻で機嫌が直り、思わずにやけるわたしはチョロいたまごだよ!

 殻はないけどね!


 ベッドから起きてにこにこしながらお兄ちゃんを見上げるわたしを、お兄ちゃんがじっと見てきたので、「?」って感じで頭をこてんと倒した。


「……嬉しそうですね」


 こくこくと頷く。抱き着こうとするとまたヒロに怒られちゃうので、人差し指の先でお兄ちゃんの腕をつんつんした。しっかりとした腕は筋肉がついていて、思ったよりも固かった。さすがランクB冒険者である。


 お兄ちゃんは、優しく言った。


「構って欲しくて、すねてたんですか」


「だってさー、せっかく会えたのに」


 つんつん。


「お兄ちゃん、ここにいるね」


「いますよ」


「わーい」


「……僕だって……」


 もう一回つんつんしてみた。

 わーい、わたしの部屋に、ライルお兄ちゃんがいるよ! 嬉しいな!


 お兄ちゃんの顔を見て、にっこり笑った。


「わーわーライルさん、血迷うな! ねーちゃんの見かけに騙されるなよ! ねーちゃんはな、見た目はこうだけど、こうなんだけど、なにもかもが残念なんだぜ!」


「そんなことないもん、いいとこもあるもん。……ええと、ええと、……可愛いとことか?」


「……かーちゃんの教育方針は、ぜってー間違っていると思う」


「大丈夫、ライルお兄ちゃんならわたしのすべてを受け止めてくれるよ! 大人の包容力があるからね! ね?」


「ねーちゃんの話を聞いちゃ駄目だ、ライルさん、気をしっかりと持つんだ!」


「やめてよヒロ、ライルお兄ちゃんは雪山の遭難者じゃないよ、すごく気をしっかり持ってるよ! ヒロ、大丈夫だよ、ライルお兄ちゃんがいてもあんたはわたしの可愛い弟だからね、見捨てたりしないよ? ほら! ほら!」


 わたしは撫でやすいようにヒロの前に頭を突き出した。


「ほら? ね?」


「……ちっくしょう! ねーちゃんってばもう、ほんっとにムカつく! なんだよもう、もう、あーーーっ!」


 ヒロは吠えながら、わたしの頭を優しくいい子いい子した。

 そしてもう一回「あーーーーっ!」っと吠えた。


「仲がいい姉弟きょうだいですね」


 ライルお兄ちゃんが笑った。








「……話を戻すけどさ、俺は剣道ってのをやってるんだ。竹刀っていう、竹でできた剣を使って戦うんだぜ。日本刀って知ってる? この国の剣があるんだけどさ、それを使うわけにはいかないから竹刀でやんの」


 また男同士の話が始まったらしい。

 つまんなかったけど、お兄ちゃんの着ているTシャツの端っこを引っ張りながらいい子にしているたまごだよ。あ、女の子だよ。


「剣士が剣を持ち歩かないのですか?」


「魔物はいないし、平和な国だからさ、武器を持っていると警察に捕まるよ。だから、ライルさんもミスリルの剣は持ち歩かない方がいいと思う。あ、竹刀見せてやるよ」


 ヒロは部屋から竹刀を持ってきた。

 ライルお兄ちゃんは手に取って、珍しそうに見ている。本当は振り回したそうだけど、部屋が狭いから無理なのだ。


「興味深い造りの剣ですね。植物でできていますね」


「竹っていう……木じゃないし、なんだあれ」


 賢いおねーちゃんが教えてあげるよ!


「イネ科の植物だけど、木の仲間ってことになってるよ。タケノコっていう美味しい食べ物になったり、稀に、切ると中からお姫様が出てくることのある植物だよ」


「ライルさん、最後の情報は信じないで」


 ヒロが無表情に釘を刺す。

 ノリが悪いよね!


「今夜、7時から剣道場に稽古に行くんだけど、ライルさんもくる?」


「是非ともご一緒したいですね」


「よかったら、ライルさんの剣技も見せてよ。強いんでしょ」


「はい」


 きゃー、笑顔であっさり言い切るところがイケメンだね!


「わたしもご一緒するよ! ライルお兄ちゃんのかっこいいとこ見てみたいもん」


「変なことすんなよ」


「いい子にしてるなら」


「わたし、すっごくいい子にしてるよ!」


 だから、混ぜてね!

 キリッとした顔を作って言ってみた。

 







 かちゃん、と門が開く音がした。


「あっ、パパだ!」


 パパは近所の会社にお勤めしているから、帰ってくるのが早いのだ。


「ライルお兄ちゃん、パパに紹介するから来て!」


 急いで階段を下りていくと、もうママが玄関でパパを出迎えていた。


「パパ、うちにホームステイのお客さんが来てるのよ! ライルくんっていうのよ」


 パパの鞄を持ちながら、ママが楽しそうに話している。ふたりは仲良し夫婦なのだ。


「ホームステイ? はっはっは、そうかそうか」


 パパはにこやかにお腹を揺すった。


「パパー、お帰りーっ!」


「はっはっは、ただいま、リカさん、ヒロくん、そして?」


「見て見て、ライルお兄ちゃんだよ! ライルお兄ちゃん、わたしのパパだよ、ぱやぱやしたお腹がチャームポイントなんだよ!」


 わたしはパパのお腹を触りながら言った。


「そうなのよ、パパのお腹の触り心地は日本一なのよ」


 ママもお腹を触りながら言った。


「はっはっは、いらっしゃい、ナアイス、トウ、ミイチュウ!」


「すごいやパパ、流暢な英語だね! でも、ライルお兄ちゃんは日本語がぺらっぺらなんだよ」


「そうかそうか、それはよかったね。ゆっくりしていきなさいね、はっはっは」


「……え? たまご紳士?」


 お兄ちゃんが呟いた。

 なるほど、うちのパパはそんな感じだね!

 包容力抜群の、自慢のパパだよ。






「いっただっきまーす!」


「はーい、牛脂を投下しまーす」


 ママが牛脂をホットプレートに入れたので、わたしは菜箸でぐるっと焼き付けた。


「ママー、お肉お願いしまーす」


「はーい、入れまーす」


 輸入牛だけど、近所のスーパーで特売の肉だけど、結構美味しいやつを大量に投下する。今日は肉祭りだからね。

 真っ赤だったお肉が牛脂でじゅうじゅう焼かれて、香ばしい香りになっている。


「割り下入れまーす」


 じゃん、といい音を立てて、割り下を入れる。煮立ったところで焼き豆腐と白滝と春菊と長ネギと椎茸を並べていく。具から出た水分で、ホットプレートの中はぐつぐつ煮えたってきた。

 

「さあさあ、火が通りましたよ! 皆さん、お手元の溶き卵にすき焼きを投下いたしますよ!」


 鍋奉行リカが、お肉から配っていくよ!


「はっはっは、リカさんが作るすき焼きは、なぜかいちだんと美味しいんだよねえ」


「きっと愛が込められているからだね。お兄ちゃん、生卵は大丈夫? ビルテンではたまごの生食していた?」


「新鮮なものはしていましたよ……美味しいですね」


 ジャパニーズSUKIYAKIはお兄ちゃんの口に合ったみたいだね!


「さあさあみんな、たくさん食べてちょうだいね! ママ、たくさんお肉を買ってきたのよ」


「わーいわーい、お肉美味しいね! みんなでお鍋は楽しいね!」


 順応性の高い優れたギルド職員であるライルお兄ちゃんも、すき焼きパーティーを楽しんでいるみたいで良かったよ。


「ライルくんは歳はいくつだね?」


「はい、24になりました」


「そうかそうか、なかなか落ち着きがあるね、はっはっは」


 パパはそういうと、ライルお兄ちゃんにおチョコをすすめた。


「日本酒は飲めるかな?」


「一口だけいただきます……ああ、良い香りのお酒ですね。これは初めて飲むタイプです、大変美味しいです」


 お酒を飲むなんて、お兄ちゃんは大人だね!


「とーちゃん、この後ライルさんを剣道場に連れていくから、本当に一口にしといて」


「そうかそうか、ライルくんは剣道に興味があるんだね」


「はい、僕も剣をたしなんでいるので、少し手合わせできたらと思いまして」


「じゃあ代わりにわたしが飲んであげるよ!」


 わたしが手を伸ばしたら、パパもお兄ちゃんもおチョコを上に上げてしまった。


「はっはっは、だーめ」


「子どもはだめですよ」


「もう、子どもじゃないもん! もうすぐ16だから、結婚できるもん! お兄ちゃんにもらってもらうもん!」


「な、なんと、それは初耳だな、ライルくん、」


「そのような事実はありませんので」


 うわあん、余裕の笑みで否定されたよ!


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