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【書籍化】わたしはたまごで異世界無双する!  作者: 葉月クロル
ライルは日本で異世界無双する?

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番外編 ライルは日本で異世界無双する? その1

いつも応援してくださいまして、ありがとうございます。リクエストをたくさんいただきましたので、番外編を連載させていただきます。すぐに終わる予定です。

 神というのは我々の想像もつかないようなことを考えるようだ。

 そしてそれは、下々の者にとってはあまりにも不可解で、残酷ですらある。


 ビルテンの町の冒険者ギルド職員として、日々真面目に仕事に勤しんでいる僕ことライルは、不幸なことにその神の目にとまってしまったらしい。






「おお、ライル、良く似合っているぞ!」


「ガントス、腕は落ちていないようだな」


「お前もな、サンダルク! わははははは」


「わははははは」


 ミスリルの装備を身につけた僕の前で、二人のドワーフが豪快に笑った。

 ひとりは防具屋のガントス、もうひとりは武器屋のサンダルクだ。

 二人ともミスリルの扱いに長けた職人なのだが、得意としている素材であるミスリルが品不足で、長いことその腕を奮えなかったのだ。


 しかし、その問題を解決してくれた者がいる。

 たまご族のたまご戦士、リカだ。


 どういうわけか僕のことを『お兄ちゃん』と呼んで懐いていたたまご戦士は、散々みんなを引っ掻き回した挙げ句に国の一大事を解決して、呆気なく故郷に帰ってしまった。

 ミスリルタートルをたったひとりで倒してこの国に多量のミスリル素材をもたらしてくれたのも彼女だ。おかげでどこか厭世的であったドワーフたちはこのとおりの上機嫌である。

 リカの指示で、ドワーフたちはミスリルでできた防具と武器をまず一番に僕のために作製した。


「さあ、ライル。外で少し動いてみてくれ」


「はい」

 

 僕は店から通りに出ると、ミスリルの剣を構え、軽く動き回る。何度か剣を振り回し、仮想敵に攻撃する。


「……驚きました。素晴らしく軽いですね。これがミスリルの防具なのですか」


 稀少なミスリルをふんだんに使ったアーマーは、羽根のように軽く身体に馴染みまったく動きの邪魔にならない。そして、この軽さであるのにも関わらず物理的な攻撃にも魔法攻撃にも高い防御力があるというのだ。

 さすが、それ自体が魔力を持った『神の銀』と呼ばれる金属である。


 その上、剣にも驚いた。

 以前にもミスリルの剣を持っていたのだが(ちなみに前の剣はリカの手によって粉々に砕かれた。あれはかなりのショックだった……)サンダルクが作ったこの剣は高価なミスリルが惜し気もなく使われた光り輝く大剣で、基本的に両手で取り回す。

 しかし、戦闘の状況によっては片手で扱うことも可能なくらいに軽いのだ。まるで自分の腕の延長のように軽々と振り回すことができる。

 素晴らしい装備だ。このまま踊りが踊れそうである。


 いや、踊らないが。誰かと違って。


「素晴らしいですね、これがミスリルの武器なのですか。自由に振り回せて攻撃力も高いとは」


 僕は思わず感嘆の声を漏らした。

 ついでに、こんなにも防御力のあるミスリルで覆われたミスリルタートルを、無残な姿にへこませたたまごの非常識ぶりに、背筋をぞくりとさせる。

 あれは恐ろしい生き物だ。

 さっさとうちに帰ってくれたことは、この国にとっては良かったのかもしれない。

 この国にとっては。


「ははは、本当にすごいなライル、違った意味で。あんた、全身が輝いてめちゃくちゃ強そうだぜ! なかなかこんな豪快にミスリルを使えるもんじゃねえよ。だが、この使い方が本来のミスリルの良さを引き出すんだ。この剣はそこらの魔物も、ドラゴンすらも紙のように切り裂くことができる。あんたの腕を十二分に引き出す武器と防具だ」


 サンダルクが得意そうに胸を張って言った。彼らは心からミスリルが好きらしい。リカの言っていた、ドワーフはミスリルが手に入らなくて世をはかなんでいるというのもあながち嘘ではなかったようだ。今のドワーフたちは、顔が妙にテカテカと輝いている。やる気が満ちあふれているのだ。


「素晴らしいものを、ありがとうございます」


 リカとの約束を守りめったに見られない良い出来の装備を作ってくれたお礼を、ドワーフたちにした。


「わはははは、礼ならたまごのねえちゃんに言えよ! こんなミスリルの使い方が俺の目の黒いうちにできるなんて……思わなかったぜ……」


「くそぉ、たまごのねえちゃん、礼も言わせないで帰りやがって……」


 ドワーフたちは声を詰まらせた。ごしごしと目をこする。


「……まったくですよ、本当に自分勝手なたまごです。今度会ったら、よく言い聞かせておかなければ……」


 また、会えますよね。


『ライルお兄ちゃーん! ねえねえ、たまごを誉めてよ!』


 僕は巨大なたまごが嬉しそうに駆け寄って来る姿を思い浮かべた。


『見て、どう? ピンクのワンピースは似合ってる?』


 僕の選んだ服を着て、嬉しそうにくるくると回って見せる、まだ幼げな長い黒髪の少女。


 非常識で人騒がせで、目を離すとろくなことをしないたまご族の少女がいないと、こんなにも静かな毎日なのですね。

 あまりにも静か過ぎて、調子が狂うほどですよ。

 そんなに慌てて帰ることもなかったでしょうに、本当に落ち着きのないたまごです。

 まだドラゴンを倒したご褒美をあげていないじゃありませんか。また可愛い服を買ってやりたかったのに。


 短期間の付き合いしかなかったというのにまんまと僕の妹分の位置におさまった少女は、いつの間にか僕の心の中で大きな存在になっていた。





 などとしんみりしている場合ではなかった。


 やはり、たまごなどと関わるとろくなことがないのだ。


 あれは動く災厄だと思って間違いがない。 

 少なくとも僕にとっては。




***************************





「リカちゃん、今日はアルバイトは休みなの?」


 部屋でごろごろしていたら、ママがひょいと顔を出して言った。


「うん、お店の定休日なんだってさ」


 わたしは紹介してもらったたまご料理が売りのオシャレカフェでバイトを始めた。働くのは初めてなのでドキドキだったけど、お店の人はみんな親切だし少しずつだけど仕事にも慣れてきて、おかげさまで楽しく働いている。


「あらそうなの。ママ、一度リカちゃんが働いているところを見たいな」


「うん、来てよ! なんとなく仕事を覚えてきてとっても楽しいんだよ! そしてまかないのたまご料理がめっちゃ美味しいんだよ! いいバイトを紹介してもらって良かったよ」


「うふふ、そうね。それにしても、リカちゃんが働くようになるとはね、ママも歳をとるはずだわ」


 ママはふうっとため息をついた。


「何言ってるの大丈夫だよ、ママは可愛いしすごく若く見えるからさ。わたしのお姉さんと言ってもバレないよきっと」


「まあ、リカちゃんたら! リカちゃんの方が可愛いわよ、アルバイトの制服が似合ってて、アイドルみたいよ」


 あまりにも制服が可愛かったので、写メを撮って、速攻でママに送ったのだ。

 溶き卵の色をした黄色い制服は、白いフリフリエプロンがついていて、ある意味着るものを選ぶ存在感がある。

 もちろんわたしは着こなしているよ!

 何しろたまご運がめっちゃいい女の子だからね、たまごに関することなら任せといてよ。


「うん、アイドルかもしれない。だってさー、時々お客さんに声をかけられちゃうんだよ。でも、ママに似て可愛く生まれちゃったから、それくらいは仕方がないね」


「そうね、ママに似ちゃったから仕方がないわね。変な人にさらわれたりしないように、くれぐれも気をつけるのよ」


「うん。ファンクラブができてボディガードしてくれないかなあ」


「リカちゃんならすぐにできるんじゃない? ちゃんと会員ナンバーをふっておくのよ。初期のメンバーは大切にしないとダメよ」


「……うちの女どもの脳内お花畑っぷりを誰かなんとかしてくれ」


 年子の弟が、通りすがりに呟いた。





 さて、今日はバイトが休みだから、思う存分ごろごろして過ごすよ。

 わたしは再びベッドの上に寝転がり、ベランダの方を見て腹筋を瞬間的に使う。

 飛び起きるためだ。

 そのままベランダのドアを大きく開いて、わたしは口を開けてそこに立つものを見つめた。


「……中世ヨーロッパ展ただいま開催中、的な何か? ハンパなく輝いてるね」


 わたしが手を伸ばし、それをこぶしでコンコンと叩いた。


「入ってますかー?」


 それ、銀色に輝く剣を持った、同じく銀色に輝く鎧は左手を上げて、フルフェイスの頭部に触れた。顔面を覆っていたマスクがしゃきんと上がり、中の人の顔が見えた。


「……どうして、リカさんが、ここにいるんですか?」


「……ここがわたしの部屋だからさ」


「……あー、ということは、ここはたまごハウスの中なのでしょうか?」


「違うよ。日本にあるわたしのうちのわたしの部屋……ぎゃー、鎧の中にライルお兄ちゃんが入ってた! お兄ちゃーん!!!」


 わたしは光り輝く鎧に飛びついた。

 そして、次の瞬間、鼻を押さえてうずくまるはめになった。

 ミスリル硬すぎだよ!


「いだだだだだ、鼻痛いよ、鼻血が出ちゃうよ」


「もうたまごの殻がないなら、もっと気をつけなさい。そして、ここはたまごの国なのですか? ちゃんとわかるように説明してください」


「……このわけがわからない状況で、お兄ちゃんは冷静だね」


 よそんちのベランダに突然鎧姿で現れたら、普通もっと驚くと思うんだけどな。

 ビルテンの町から日本にやってきた冒険者ギルド職員は、鎧の頭部を脱いで小脇に抱え、乱れた髪を整えた。

 さすが身なりにも気をつける優良ギルド職員である。


「強制的に転移させられたことは、冒険者時代に何度か経験がありますからね。転移先に強い魔物が待ち構えていないだけましというものですよ」


 そう言って、ライルお兄ちゃんはにっこりと笑った。


「久しぶりですね、リカさん。お元気でしたか?」


「元気だよ元気だよ、お兄ちゃんに会えてさらに元気百倍だよーっ!!! いだいっ!」


 わたしはまたお兄ちゃんに飛びついてしまい、鼻をぶつけてしまった。


「だからあなたは、どうしてそう学習能力がないのですか!? 相変わらず落ち着きのないたまごですね!」


「うわーん、久しぶりにお兄ちゃんに叱られたよ! 誉められたかったのに!」


 鼻を押さえながら上目遣いでお兄ちゃんを見上げたら、少し赤い顔になったお兄ちゃんが頭をいい子いい子してくれた。


「ドラゴンを倒してくれて、ありがとうございました」


 わたしは「えへ」と笑った。








「……それでは、ここは異世界であり、リカさんはたまご族ではなくただの人間であり、日本という国である、と。さらに、この世界には魔法がないと。僕がなぜここに来たのかわからないし、帰り方もわからないということですか」


「……なんか絶望的な説明でごめん。ただ、最後の問題については心当たりがあるからさ」


 光り輝く鎧姿のお兄ちゃんと、ベランダで話していたわたしは、スマホに向かって言った。


「神様、聞いているんでしょ? そして、この状況に心当たりがあるんでしょ? 速やかに返事をください。くれないと、ネットに神様の悪口を書きますよ。……口が臭いとか」


 すぐにメールが着信した。


『わたしの口は臭くありません! 誹謗中傷はやめてください。強いて言うならば、神の吐息は素敵なバラの香りです』


「いくらいい匂いでも、おっさんの口の匂いは嗅ぎたくありません」


 わたしはメールを返信した。


『おっさんではありません! 歳をとってはいますが、まだまだお茶目なイケメン神様です! 神々の中ではフレッシュなのです』


「……考えてみたら、聞こえるんだからメール返信はいらないじゃん。ねえ、ライルお兄ちゃんをここに寄越したのはあんたでしょ?」


『ちょっとリカさん、神の話を聞きなさい。わたしがフレッシュな神である件についてです』


「そんなどうでもいいことは後にしなよ、神様のくせに物事の優先順位もわからないの? ライルお兄ちゃんの件が先でしょ。なにか言い訳があるならとっとと言いなよ」


『……怒らないでくださいね?』


 怒られるような言い訳かよ!

 話が進まないから突っ込まないけどさ。


『実は、リカさんを異世界を行き来させた影響でふたつの世界の間に綻びができまして……向こうからこっちに、魔物が来てしまいました。退治するのに必要なので、ライルさんにこちらに来ていただきました。申し訳ありませんが、冒険者のライルさんにこの件を依頼させてください、報酬は払います』


「ちょっと、なに言ってんのよ! 神様たちのお遊びでうっかり世界に穴を開けちゃって、日本に魔物を入れちゃったの? 超迷惑なんだけど! あんたたち、ばっかじゃないの? ネットでさらしものにされてもいいレベルだよ? 報酬を払えばなんでも許されると思ったら大間違いだよ!」


『すみません、すみません、ネットには書き込まないでください。ただでさえ信仰心が少なくなってきた今日この頃なのです、これ以上神のイメージを下げないでください』


 謝っている姿の絵文字がついている。

 お兄ちゃんがスマホを覗き込んだ。


「……神?」


「読めるの?」


「ええ、不思議な文字ですが、意味がわかります」


 神様は異世界言語補正をつけたようだ。


「わかりました、この依頼、引き受けましょう」


「お兄ちゃん、人がいいね! さすが世のため人のために働く冒険者ギルド職員だね! でも、この神様はもうちょっとシメておいた方が良くない?」


 土下座の絵文字の後に、ガーン、という絵文字が加わった。


「いや、一応神様は敬っておいたほうがいいでしょう」


 パアアッ、という絵文字が出た。


「すべて片がついたら、僕が少し説教させていただきます」


「あ、お兄ちゃんのお説教は厳しいからねー」


 ガーン、という絵文字が五つ並んで表示された。


『……ライルさん、依頼を受けてくださってありがとうございます。詳しくは後で説明しますので、よろしくお願いいたします』


 最後にピースしている絵文字がついていた。

 神め、全然反省してないな!






 納得できないながらも状況が把握できたので、わたしたちはこれからどうするかを相談した。


「日本には冒険者ギルドがないし、日本の危機を救いに来たお兄ちゃんに日雇い労働をさせるのもどうかと思うの。用事が済むまでうちに泊まっていくといいよ。お母さんが良いって言えば大丈夫……」


「うわあああ、ねーちゃんが男を連れ込んでる!」


 うちのばか弟が部屋を覗き込み、人の気も知らないで大きな声を上げた。


「かーちゃん、ねーちゃんの部屋のベランダに外人の男が変な格好して立ってるんだけど!」


 ライルお兄ちゃんは、茶色い髪に青い目をしているのだ。フツメンではあるが彫りもやや深めで、明らかに日本人顔ではない。ハーフかクォーターに見える。


「ヒロくん、今なんて言ったの? リカちゃんの彼氏?」


「外人! 外人だよ!」


 バタバタと階段を駆け上がる音がして、ママが顔を出した。


「あらまあ、まあまあ、ハウッドウッユウッ!」


 超気合いの入った挨拶をしたママは、ドヤ顔でわたしを見た。

 残念、最後のいっこ、ドウが抜けてたね!

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