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【書籍化】わたしはたまごで異世界無双する!  作者: 葉月クロル
本編

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29/89

ただいまたまご

「やっほーただいまたまごだよー、ミスリル持ってーやってきたー」


 わたしは調子良く言いながら、ビルテンの商業ギルドの扉を開けた。

 

「リカさん、こんにちは。今ギルド長をお呼びしますね」

 

 ギルドのカウンターにいるお姉さんが愛想よく言った。

 顔を出した途端に最高責任者が呼び出されるあたり、わたしも大物になったもんだね!


「くまさんただいまー。ギヤモン商店から依頼されて、ミスリルのインゴットを運んできたよ」


「伺っていますが……それにしても早いですね!」


 頭に丸い耳のついた大きなおっさんが驚いて言った。


「うん、商業ギルドで受け取って、そのままどぴゅーんと飛んできたからさ。他では真似できないサービスだよ。じゃあ、ご褒美にちょっとその耳を揉ませてもらおうかな!」


 たまごアームを伸ばそうとしたら、くまさん獣人のギルド長はその巨体に合わない意外な素早さで耳を手で覆った。


「早いね! たまごもびっくりだよ! そして、その黒い耳にたまごは首ったけなんだ。だから触らせて」


「……いくらリカさんの頼みでも、これは駄目です。触らせません。獣人の男として、いろいろと駄目な事情があるのです」


「えー残念! わたしは『くまさんのお耳触り隊』を結成してもいいくらいにそのもふっとした黒い耳に引かれているというのに! でもまあ、口に出せないような深い事情があるなら仕方がないからあきらめるよ。くまにはくまにしかわからない事情があるんだね」


 引き際の良いたまごだよ。


「じゃあさ、武器屋のサンダルクのおっちゃんとその愉快な仲間の防具屋のドワーフに、ミスリルの入荷を知らせておいてくれる? ライルお兄ちゃんの武器と防具を頼んであるんだ」


「わかりました、その件は引き受けさせていただきます」


「よろしくねー。じゃあ、インゴットを引き渡すよ」


 わたしはのしのし歩くくまさん獣人と一緒に商業ギルドの引き取り所に向かった。そこには狐さん獣人のお兄さんがいた。

 ヤバいね、きつね色の三角お耳がたまご心をくすぐってくるね。

 言い掛かりをつけて耳を触らせてもらいたいというよこしまな気持ちを抑えるたまごだよ。

 

「ミスリルのインゴットだよ。どこに出せばいいかな? 結構重いんだよね」


「わあ、噂のたまご戦士さんだ、会えて嬉しいですよ! インゴットはこっちに並べてもらうと助かります」


 狐男子は立派なしっぽをふっさらふっさらと振りながら言った。

 フレンドリーな感じなのは、商業系男子特有だよね。

 わたしは笑顔で話しかけてくるコミュ力の高い狐耳のお兄さんの指示に従って、床にミスリルのインゴットをきちんと並べていった。

 そして、お兄さんの持つ機械でギルドカードをぴっしてもらう。


「はい、間違いなく依頼が完了しました。依頼料はギルドカードに記載されました。この依頼は冒険者ギルドと兼用のものなので、後で冒険者ギルドの方でもチェックしてもらってくださいね」


「わかったよ。ありがとう」


「こんなに早くミスリルを運んでもらって、助かりましたよ。すぐに職人たちに連絡しますので」


 くまさんがインゴットをひとつ手に持って、嬉しそうに撫でながら言った。


「これでビルテンの経済がより一層活気づきますからね、皆の暮らし向きも良くなるでしょう」

 

「役にたてて何よりだよ。これからもみんなに喜ばれるたまごとしてがんばるからよろしくね」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 にこにこ顔のくまさんと狐さんに別れを告げ、わたしは冒険者ギルドに向かった。







「ただいまー、たまごだよー」


 お昼であまり人気のないギルドの建物に入ると、カウンターにはライルお兄ちゃんとチアさんがいて、わたしを見てびっくりした。


「え? リカちゃんがなんで」


「なんでリカさんがビルテンにいるんですか! 今朝王都にいたでしょう! 誰かに転移でもされたのですか?」


 ライルお兄ちゃん、驚きすぎだよ。


「違うよ、空を飛んできたの。びゅーんて飛ぶと、ここまであっという間だったよ」


「あなたは空まで飛ぶんですか? この非常識なたまごを止められる者はいないのか……」


「あえていうなら、それはお兄ちゃんの担当かな?」


「やめてください! たまご担当者にされるなら追加ボーナスを冒険者ギルドに要求します」


「ライル、お金で片がつくならと、ギルド長は喜んでボーナスを出すと思うわよ。そして、お帰りなさいリカちゃん。いきなり驚いたりしてごめんね。王都でも大活躍してたんですって? 報告がきてるわよ」


 チアさんはそう言いながら、いつものお茶を入れてくれた。


「今の時間は誰も来ないから、テーブルでわたしたちもお茶を飲みましょうよ。王都の話を聞かせてちょうだい」


「もちろんだよ! そして、ここのみんなにもお土産を買ってきたからね」

 

 わたしはたまごボックスにたまごアームを突っ込んだ。

 お土産をカウンターに並べていく。


「これがたまご一推しの燻製肉。仕事が忙しくてごはんが食べられない時があるでしょ? お腹が空いたらかじってね。それからチアさんには素敵な魔石のブローチだよ。お出かけの時に使ってね」


 わたしはエメラルドによく似たグリーンの石が付いた、ミスリル細工のブローチをチアさんに渡した。魔石のまわりをお花と葉っぱのモチーフが囲む、繊細なデザインの品がいいアクセサリーだ。


「まあ、すごく光っているわね! とてもいい石だわ。いいの?」


 チアさんはブローチに光を反射させながら、嬉しそうに言った。


「チアさんにはいつもお世話になっているからね。それに、その石はわたしが魔物を倒して手に入れた石だからさ、魔力がたっぷりでよく光るやつを選んで工房でブローチにしてもらったんだよ。いい魔石をたくさん採ってきて持ち込んだら、工房のお姉さんが喜びのあまりうひうひ笑っちゃってたよ、せっかく可愛い顔してるのにさ!」


 『レンジでたまご』を使うと魔石を傷つけずに魔物を倒せるんだよ。メリンダおばあちゃんのお金が儲かる魔物リストを見ながら、綺麗な魔石が採れる魔物の狩りをしたんだ。

 なぜか一緒についてきたゼノにも、綺麗な魔石をひとつあげたんだ。将来誰かにプロポーズするときに使いなって言ってさ。複雑な顔で「お、おう」と言っていたのはなぜだろう。


 ああそうか、ゼノはわたしにプロポーズする気満々だったんだね!

 当の相手に魔石をもらってちゃ、男の立場がないものね、いやあん、たまごったら気が利かないコトしちゃったよ!


「……急におとなしくなって、なんの悪巧みですか」


 ライルお兄ちゃんが失礼なことを言う。


「ちょっと、たまごをなんだと思っているの? わたしはそんなに悪女じゃないよ、清廉可憐な15の乙女だよ! ちょっと彼氏からのプロポーズについて考えていただけ」


 すると、ライルお兄ちゃんは満面の笑みを浮かべて言った。


「ああ、そういえばゼノ副団長とお付き合いを始めたとか? 彼は真面目でなかなかいい人物だと思いますよ。王都では毎日片時も離れずにいたと聞いています」


「や、ま、ちが、それは違うよ。あのね、浮気なんかしてない……よ?」


 うろたえてしどろもどろになる。


「別にリカさんを責めているわけではありませんよ、そんなに挙動不審なたまごにならないでください。僕はあなたの兄貴分として応援しているだけです、王都に着いた早々早速恋人を捕まえるとは、さすがに狩りの達人ですね」


「やだ、ライルお兄ちゃんたら言葉にとげがあるよ! 笑顔で隠せていないよ!」


「僕にもお土産があるんですか?」


「そ、そうだよ、もちろんだよ! 大切なライルお兄ちゃんのことを考えて、一生懸命に選んだんだよ」


「そうですか、彼と一緒に選んだんですね」


「だってそれは、ゼノがわたしをひとりにしてくれないから」


「おやまあ、会ってすぐにそんなにも熱々になったんですか。まさか、夕飯まで一緒に食べたのでは……」


「……」


「ほう。食べたのですね」


「いや、その、それ、成り行き、とか?」


 わたしはたまごアームをわたわたと動かした。


「なんでわかったの! お兄ちゃんはたまごのことならなんでもお見通しなの!?」


 うわあん、お兄ちゃんの笑顔が怖いよぉ。


「リカさん、あなたはもっと警戒心を持ってください。危なっかしすぎです」


「ひい」


「確かにゼノ副団長は信頼に値する人物だとは思いますが、そんなことを考えたうえで夕飯までご一緒したのではないでしょう」


「なんでわかるのー」


「たまご取り扱い主任者だからです」


 いつできたんだそんな役職が!

 そしてそれはお兄ちゃんが嫌がるたまご担当者とどう違うの?

 たまご、わかんないよ。


「常識。そして警戒心。このふたつが身につくまでは、僕の目が届かないところで活動しないでください」


 えっ、もしかしてこれは、ライルお兄ちゃんがデレたの!?

 きゃあどうしよう、わたしったらふたりの男性をもてあそぶ悪いたまごになっていたんだね。

 これからアイドルを目指す身だというのに、こんなに罪作りなことをしてしまって、いけないたまごだよ。


「あなたの非常識は国を滅ぼしかねないので、常に監視が必要です。おそらくゼノ副団長も同意見でしょう」


 デレじゃなくて、危険物認定だったのか!


「……なんかよくわからないけど……お兄ちゃんの言うことをちゃんと聞くたまごになるよ」


「そうしてください」


 ああ、この嫌な空気を変えなくては……。


「ええと、じゃあ、お兄ちゃんに素敵なお土産を渡しまーす」


 わたしはたまごボックスにたまごアームを突っ込んだ。


「じゃーん! 『魔剣・紅蓮の神影』でーす! これは王都から少し離れたところにある邪神の洞窟の奥底にいるすごく強くて高く売れそうな魔物を倒してから宝箱を開けると出てくる伝説の魔剣で、ランクB以上の冒険者じゃないと扱えないすんごく強力でいい剣なんだよ」


 だから機嫌を直して欲しいよお兄ちゃん。


「きゃあああああっ!」


 チアさんの口から悲鳴が上がった。見ると、両腕で身体を抱えてぶるぶると震えている。


「うわあああああっ! なんで神話級の魔剣をお土産とか言って持ってくるんだよこの非常識たまご、しっかり止めろよゼノは! 何をやっているんだよ、たまごを野放しにするなよ! やりたい放題だろコレ!」


 やーん、お兄ちゃんが壊れたよ!


「ゼノ! なにやってたんだゼノ!」


「……タマゴノウシロデサケンデマシター」


「ぶっちぎられたのか! まだまだたまご扱いがなってないな!」


 ……ええと、それはゼノ副団長はたまごの彼氏としてライルお兄ちゃんに認められないってことなの?

 困ったな、パパには認めてもらった仲なのに、お兄ちゃんの反対にあうとはね。


 わたしはカウンターの上にそうっと魔剣を乗せて、えへ、と笑ってすべてをごまかそうとした。

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