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冒険者ギルドに行ってみよう

「……で、これからどうするつもりだ? 今後の予定を大まかに話してみろ」


 いやん、そういうちょっと上からの話し方は、わたしを友達として懐に受け入れてくれたということだよね。たまご、嬉しいよ。

 わたしは熱い視線で副団長とかいう役職のゼノを見た。

 たまごには表情はないけど。


「ギヤモンさんとはいったん別れて、まずは冒険者ギルドに挨拶に行ってくるよ。そうしろってライルお兄ちゃんに言われたからさ。あ、ライルお兄ちゃんはね、ビルテンの町のギルド職員で、わたしはめでたくその妹分を名乗らせてもらえるようになったんだよ。フツメンなのにすっごいツンデレなの! しかもデレが微量すぎて判別するのには特殊な技術を要するほどなんだよ」


「ライルは知っている」


 おやおや、ライルお兄ちゃんったら意外に名前を知られているんだね。こりゃあわたしもうかうかとしていられないよ。王都の人気者になるのはこのたまごだよ!


「それで?」


「そのあとはまたギヤモンさんに合流して、今度は商業ギルドに顔を出すよ」


「商業ギルドにある引き取り所で、ミスリルタートルとエビルリザンを引き渡していただくのですよ」


 ほくほく顔のギヤモンさんがお茶を飲みながら言った。

 対象的なのは、ゼノさんの表情だ。

 硬い。そして、引き攣っている。


「……ランクアップ試験でひとりで『地獄の番人』を倒したという非常識な冒険者というのはやはり……」


「はーいはーい、わたしだよー」


 わたしは元気よくたまごアームを上げた。


「キラキラしていい魔物だよ。たまご踊りには欠かせないし、頭はオブジェになりそうないい表情をしてるんだよ。白目を剥いてるけど。ギヤモンさん、頭の剥製はどのくらいでできるの?」


「リカさんの依頼ですからね、もう妻が職人の手配を済ませていると思いますので、三日以内には仕上げますよ」


「うわあ、スピード仕上げだね! ありがとう、ギヤモンさん」


「いやあ、なんのこれしき」


 和やかに会話を交わす前に座り、苦い表情のゼノが言った。


「では、商業ギルドに行けば、リカはもう物騒なものは手放すのだな。それまでは、ミスリルタートルもエビルリザンも絶対に出すなよ。わかったか?……出すなよ?」


 あっ、二回も言ったね。

 わかったよ、やるなよって言って、やって欲しいというあのパターンだね!


「そうか、ゼノもリザンを見たいんだね! ごめんね、気が利かないたまごだったよ」


「いや違う!」


 わたしはリザンの頭をひとつ出して、口をぱくぱくさせる。


「ほーら見て見てー。ボクリザン。オウトニコレテ、ウレシイナー、オトモダチニナッテネ! どう、可愛い?」


 わたしが腹話術を披露すると、ゼノはざっと剣の柄を握って中腰になり、そのあと椅子に崩れ落ちて頭を抱えた。


「……いいか、今のはノーカウントにしておく。今後はそれを出すな。出したら、場合によってはリカを逮捕する」


「きゃー、お仕置きつきなの? わかったよ、踊る時以外は出さないでおくよ」


「そうしてくれ」


「ゼノ、顔色悪いよ。おやつをもっとあげようか?」


「いや、もう充分だ。ただ、リカを野放しにするのは非常に危険だと本能が警告してくるだけだ」


 可愛いたまごをいじめる人がいるの?

 そういえば、エドもわたしが王都でいじめられるんじゃないかと心配していたなあ。


「心配してくれてありがとう、ゼノ! でも、わたしはひとりで身に降りかかる火の粉を払えるたまごだよ、からんできたやつはすぐにぶちのめすからさ」


「そこだ!」


 ゼノはわたしをびしっと指差した。


「自信と強さと非常識! 三つ揃うとろくなことがないと俺の勘が叫んでいる。俺の今日の予定は各部署の視察だったが、予定を変更してリカと同行することをたった今決めたぞ。少しここで待て、手配をしてくるから」


「うわあ、ゼノは優しいね! 王都に初めて来たおのぼりさんのたまごがいじめられたりしないように、案内してくれるんだね」


「……この認識のズレは、なぜ起こるのだ?」


 ゼノが呟いた。






 ギヤモンさんと別れて、わたしはイケてる空手部部長こと副団長のゼノさんと連れ立って冒険者ギルドに向かった。


「あっ、ゼノ副団長だ……たまご?」


「ゼノさん……と、たまご?」


「なっ、た、たまご、……副団長?」


 どうやらわたしたちは異色のカップルとして目立っているようだ。

 ゼノは有名人だったんだなあ。

 とりあえず、王都に暮らす人たちの印象を良くしておくチャンスなので、わたしはにこやかにたまごアームを振って答えた。表情はないけど。


「ゼノはなんの副団長なの?」


「警備兵団だ。主に王都の警備を担当している。俺は副団長だから、団長の補佐をしながら警備全体の状況を把握するのが仕事だ。だから、各地の冒険者ギルドや門番とも関わりがある」


「じゃあ、バザックパパとか、うちの冒険者ギルド長とも知り合いなんだね」


「……パパ? いや、いい。その情報はいらん。そうだ、バザックやセラールとは先日も王都の会議で会ったぞ」


 あん、パパと娘の愛情のこもったつながりについて語りたかったのにぃ。


「有事の際は、力のある冒険者にも応援を仰いで対応をしている。何かあったら、リカにも是非とも協力してもらいたい」


「もちろんだよ、友達に頼まれたら、いくらでも協力するよ。気軽に声をかけてね。わたしは無敵のたまごだし、足もすっごく早いから、いち早く現場に駆けつけられるのも強みだよ、覚えておいてね!」


「ああ、頼りにしている」


 そう言うと、ゼノはふっと笑った。

 わあ、笑うとまたイケメンっぷりがあがるね!


「ゼノは彼女いるの?」


「……唐突になんだ?」


「ちょっと、露骨に引くのは止めてくれないかな、別にたまごは口説くつもりはないからね。単なる乙女の好奇心だよ」

 

 まったく、ちょっとかっこいいからって自意識過剰さんだな!


「そういう、特定の女性はいないが」


「ええっ、不特定多数のお付き合いなの!? いやあん、ゼノったら不潔!」


「そういうのもしとらんわ!」


「えー、しんじらんなーい。副団長でイケメンだなんて、モテっこ要素がたっぷりなのにさ。まさか、男……」


「こらたまご!」

 

「サーセン」


 怒られた。

 ゼノは真面目なイケメン部長のようだ。

 きっと、忍ぶ恋でもしているのだろう。相手は人妻なのだろうか。

 それとも貴族のお姫様なのだろうか。

  道ならぬ恋に夜な夜な悶々として、たぎる思いを仕事にぶつけて犯罪者だとか魔物だとかをめった斬りにしているのだろう。

 恋の病に効く薬を調合してやろうかな。

 それとも媚薬の方が……。

 

「おいたまご、今ろくなことを考えていないだろう?」


「サーセン」


 なんだよ、勘のいい男だな!






 イケメン副団長の恋愛模様を妄想しているうちに、冒険者ギルドに到着した。

 さすが王都だ、ギルドの建物も町に比べて倍くらいの大きさだ。ビルテンだって、結構大きいなと思っていたのに。


 わたしはおのぼりさんらしく少しだけ緊張しながら、ゼノの後に続いてギルドの扉をくぐった。


「おや、副団長じゃないですか」


 カウンターからお姉さんの声がした。


「どうだ、変わりはないか?」


「おかげさまで……あら、そちらは?」


「安心してください、副団長の新しい女ではありません」


「たまご! いちいち誤解されるような発言をするな!」


「この場を和ませるちょっとした冗談だよ。ゼノにはそういうウィットみたいなものがもっとあるといいね。これを今後の課題にしましょう」


「上から目線でうわごとを言うな! ギルド長はいるか? 連絡が来ていると思うが、ビルテンからの冒険者だ」


「少しお待ちくださいね」


 お姉さんはそういうと、カウンターの奥に消えた。

 カウンターも広くて、四人くらいは立てそうだ。

 今は空いている時間なので、ふたりしかいなかったけど。

 そして、椅子とテーブルのあるスペースも結構広い。


 冒険者の姿がちらほらと見られるが、中には柄の悪い男達もいる。

 ゼノが一緒だからかあからさまに喧嘩を売っては来ないけれど、ちらちらとこっちを見ては仲間同士でニヤニヤしているのが感じ悪いよ。


「なんだあのたまごはよ?」


「ゼノに捕まった魔物じゃねえか」


「割れたら臭そうだな。割ってみるか」


「おいおい、外で割れよぉ」


「うひひひひ」


 柄が悪いしすごく失礼だね!

 臭いのはあんたたちだよ!


 わたしが言い返そうとしたら、カウンターにいたお姉さんが戻ってきた。

 後ろにおじさんをひとり、連れている。


「やあ、はじめまして。王都にようこそ。ギルド長のクルトだ」


 背は高いけど普通のおじさんはそう言うと、わたしのアームと握手した。


「期待の新人だって? さあ、こっちにどうぞ」


 わたしはカウンターをぐるっと回るとおじさんの方に行った。


「ゼノ、ちょうど良かった。王宮の魔法省から至急来てほしいという連絡があったぞ。魔法使いからの報告があるらしい。団長は出張なんだろう?」


「そうです。ひとっ走り行ってきますよ。すぐに戻ると思いますので……」


「戻るまでリカはここで預かる」


「助かります!」


 ゼノはわたしに片手を上げると出て行った。

 手の上げ方までかっこいいんだな、イケメンは!

 わたしもなるべくかっこよく見えるように、しゅたっとアームを上げた。





 クルトと名乗ったおじさんはわたしを部屋に案内してくれて、お姉さんがお茶を運んできた。

 今日はよく接待される日なのだ。


 このギルド長は獣の血も混ざってなさそうな本当に普通の人間で、肩はがっしりしているけどムキムキではない。

 ビルテンの熊っぽい商業ギルド長の方がずっと強そうである。


「ギルドカードを出してくれるか、リカ」


「はい、どーぞ」


 わたしは失礼な紹介状付きのギルドカードをクルトさんに差し出した。


「先に言っておくけどさ、その紹介状はかなり事実が歪曲されているからね。わたしは強く優しく美しい愛のたまご戦士なんだよ。それを、心配性のライルお兄ちゃんがあることあることいろいろ書き綴っちゃってさあ、わたしはそんなに危険なたまごじゃないんだよ」


「ライルお兄ちゃん?」


「そうだよ! ギルド職員のツンデレお兄ちゃんだよ。わたしは妹分なの。認めてもらうのに大変だったんだよ。でも、なんだかんだ言っても面倒見のいいお兄ちゃんでさ、わたしはご褒美に二着もワンピースを買ってもらったんだよ。美味しい串焼きのお店も教えてくれたよ。早く彼女ができるといいんだけどね、それだけが心配だよ。フツメンだけど、わたしは妹としてあえてイケメンだと断言するよ!」


「手合わせをしたらライルが手も足も出なくて、その上ミスリルソードを粉々に砕いたんだって?」


「そんなことないよ、今まで戦った中で一番始末におえないのがお兄ちゃんだったよ!」


「ほう」


「頭がいいし、隙がないんだもん! すばしっこいしさ、ほんとやりにくかった。本気でヤる気で弱らせて隙をついたらようやく剣を砕けたんだよ。何なのあのギルド職員は! エビルリザンの方が全然楽だよ」


「『地獄の番人』が?」


「だって、リザンはばかなんだもん、あんなの固いだけで楽勝だったよ。全身をめった打ちにして、頭も五つどつきまくったら、時間はかかったけど苦もなく倒せたもん。また見つけたら狩りたいな。お兄ちゃんはもうやだ、面倒くさいから戦いたくないや。ミスリルソードと一緒にお兄ちゃんのガラスの心も粉々に砕いちゃってさあ、すごい落ち込んだ顔になって、いたたまれなかったよ。剣を壊したお詫びにミスリルの装備一式をドワーフのサンダルクのおっちゃんとその愉快な仲間達に作ってもらって、お兄ちゃんにあげるんだ。それで機嫌をとっておくの。それもあって、ミスリルタートル狩りをがんばったんだ」


「そうだな、あれはよくがんばってくれたな。あんなに早く討伐できるとは思わなかったから、本当に助かったよ、リカ、ありがとう」


 わーい、クルトさんに誉めてもらったよ!


「それから、ライルが世話になってるみたいだな。あいつが女性に服を贈るとはなあ。ああ、ライルはわたしの息子だよ」


「ええっ!? そうなの?」


 そうだったのか!

 クルトさんの普通っぽさが誰かに似ていると思ったら、ライルお兄ちゃんだったのか。


「はははは、まさか『地獄の番人』よりも手ごわいと言ってもらえるとはな! やつもがんばっているんだな」


「クルトさんてもしかして、ライルお兄ちゃんよりも強いの?」


「ランクAだ」


 うげ。

 ここにいたよ、ランクAのスーパースターさまが!

 オーラも何も出ていない普通のおじさんだけど。

 あれだね、ライルお兄ちゃんと一緒で、戦うと1.7倍くらいイケメン度がアップするんだね。


「……大変だ!」


「どうした?」


「クルトさんがライルお兄ちゃんのパパだってことは、わたしのパパってことだよ! クルトパパだよ!」


 パパがふたりになっちゃったよ。

 ……別にいいか。


「よろしくね、パパ」


「……ああ、よろしくな。本当に可愛いたまごだな」


 クルトパパは笑いながらわたしの頭を撫でた。

 なにこの大人の包容力。

 撫でポるよ、わたしは!


「クルトパパ!」


 わたしはたまごアームでパパの両手をがっしりと握った。


「なんだ、リカ?」


「わたしと結婚して!」


「……え?」


 これは理想の夫だよ、フツメンだけど包容力のあるかっこいい大人だよ!

 まさかこのたまごをオジサンスキーの道に引き込むなんて、侮れない男だね!


「ま、そ、そうきたかっ!?」


 手を引っ込めようとするクルトパパとがっしりと握って離さないわたし。


「俺はパパ認定ではないのか?」


「いいの。愛人的なパパ?」


「そっちか! いや、駄目だ、俺には可愛い嫁と息子がいる!」


「えー、やっぱり愛人にする気なの?」


「違う! いや、そうじゃなくて、とにかく俺は普通のパパにしておけ。そうだ、リカはライルと結婚すればいい、そうすれば娘だろう?」


「だめ、速攻で却下されたの」


「じゃあゼノはどうだ? 腕もたつし、真面目でいいやつだぞ? 歳も確か22、3だったような……15歳のリカならゼノの方がいい、俺は45だからな、離れ過ぎだ!」


「……そうかなあ……」


「うんうん、ゼノも若いが面倒見がいいし、包容力もあるぞー、今なら彼女もいないしな、どうだ?」


「……そうかなあ……そうかなあ……」


 わたしの手がゆるんだ隙に、クルトパパの手が引っ込んだ。


「まあ、知り合ったばかりだからな、おいおい話を進めるといい」


 クルトパパは、わたしの夫候補から仲人にシフトチェンジした。

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