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冒険者ギルド

お読み下さってありがとうございます! 淡々とたまご話が続きます。

設定の甘さはスルーでお願いします。

 スキルのおかげで文字が読めて、いろいろ助かる。お店の看板とか町の掲示板とかを見ながらわたしは町を観光しつつ冒険者ギルドを探した。

 たまごの姿が珍しいのだろう、すれ違う人にじろじろ見られたり「たまごだ」「たまごだな」「まあ、たまごよ」なんていう囁きも聞こえたけど、急に攻撃されたりいじわるされたりといったことはなかった。


 町を行く人を見るとさすがにたまごはいないけれど、獣っぽい人やトカゲっぽい人や、わたしの腰くらいの背の人もやたらときらきらしてる耳の尖った人もいる。

 とてもファンタジックな世界のようだ。


 看板に『冒険者ギルド』と書いてあったので、すぐに見つけることができた。

 もう夕方なので、冒険から帰ってきた人でにぎわっている。

 混んでいるところに申し訳なかったなと思いつつ、長い列に並んだ。

 わたしの姿を見て、皆一瞬目をむいたけれど、ここでも絡まれる事はなかったのでほっとする。


 ギルドは石造りのしっかりした建物で、入り口は重い木の扉だ。中にはカウンターがあり、受付のお姉さんとお兄さんが並んでる。お姉さんの方が列が長いね。


 壁には依頼書が貼り出されていて、腕を組んで読んでいる人がいる。

 広い所には椅子とテーブルが置かれていて、そこで飲み物を飲めるようだ。


 周りを観察していると、わたしの番がまわってきたらしい。列の短い方に並んでいたので、お兄さんの方が担当だ。


「こんにちは、初めてなんですけど」


「そのようですね」


 彼も初めてたまごを見たようだが、顔には驚きは出ていなかった。むしろ隣のお姉さんがぎょっとした顔をしている。

 わたしは門でもらった仮の通行証を出して言った。


「バザックさんから、ここで身分証を作るように言われたんですけど」


「わかりました。冒険者登録の場合は無料ですが、身分証の発行だと費用がかかります。どうしますか?」


「冒険者登録でお願いします」


 お金がないので選択の余地がない。

 誰かが「たまごの冒険者かよ」と小馬鹿にした。ぷっと吹き出す声もする。

 まあ、仕方がないかな。たまごだからね。


「ギルドの説明はどうしますか? 冊子をお渡しする事もできますが」


「あ、冊子をください。じっくり読みたいので。後でわからないことがあったら教えてください」


「はい、ではこれを。一応またステータスの確認をしたいのですが、いいですか?」


「はい」


 受付のお兄さんが、門で使ったものよりも大きな板を出した。

 わたしはがしゅるりとたまごアームを出すと、お兄さんはさすがに身体を引いた。仕方ないけど、ちょっと傷つくなあ。


 板の上にたまごアームの先を乗せると、ステータスが浮かび上がった。


「……女性だったんですね」


「メスのたまごだってよ!」


 メスじゃないよ、女の子だよ!


「間違いなければ、このデータでギルドカードを作らせていただきます」


 お兄さんが板を操作すると、カードが一枚出てきた。


「どうぞ。初めてなので、ランクは一番下のFになっています。詳しくは冊子をお読みください」


「たまごに字が読めんのかよ」


 いちいちうるさいやつがいるね!


「ギルドカードクローズ、と本人がいうと収納されて、ギルドカードオープンといえば出てきますよ」


 わたしがそう唱えると、確かに出たり消えたりした。


「最初は無料ですが、紛失すると再発行に5000ゴルかかりますので、なくさないようにしてください」


 これで発行手続きは終わった。


「あの、ひとつ聞いていいですか?」


「どうぞ」


「ワイルドウルフとワイルドベアを持っているんですけど、売れますか」


「それなら、引取り所がこの建物の並びにありますから、そこに行ってもらえればいいですよ。両方とも常時受付の討伐対象ですから、依頼を受けた事にできますよ」


「お願いします」


 わたしはギルドカードオープンを早速唱えると、出てきたカードをお兄さんに渡した。


「何匹ですか」


「ええと……」


 わたしはたまごの表示を操作して、アイテム欄を確認した。


「ワイルドウルフが35、ワイルドベアが3です」


「……間違いないですか?」


「はい」


 周りがざわめいた。


「たまごが魔物を倒せんのかよ、インチキじゃねえのか」


「ワイルドベアを3頭だと? ぜってーねえよ」


 本当にうるさいね。そして、魔物だったんだね。


「それでは、このカードに仮記入しましたので、引取り所に行ったら見せて本記入してもらってください」


「はい、ありがとうございました」


 わたしはカードを受けとると、ギルドを後にした。






「すいません」


 引取り所に行くと、がたいのいい男の人が受け付けてくれた。


「たくさんあるんですけど」


「……おお」


 顔色は変わらなかったけど、返事が遅れた所を見ると、たまごに驚いたようだ。


「解体済みか?」


「いいえ」


「それじゃあ、奥のテーブルに出してくれ」


 わたしが手ぶらでも不審に思わないのは、この世界ではアイテムボックスが常識だからなのだろう。

 男に続いて奥に行き、大きなテーブルの上に獲物を積み上げていく。


「あ、待て、ちょっと待て。一体いくつあるんだ?」


「ワイルドウルフが35とワイルドベアが3だけど」


「じゃあ、あっちの貯蔵庫に頼む。こんなに捌ききれないからな」


 わたしは場所を移して、たまごアームで残りの魔物を出した。


「すごいな、新人。これならあっという間にランクアップするぜ」


 わたしのカードに書き込みながら、男は言った。

 どうやらFランクにしてはいい仕事をしたらしい。

 体当たりしかしてないんだけどね。


「買い取り金だ。ワイルドウルフが一匹500ゴル、ワイルドベアが一頭10000ゴルだから、47500ゴルだ。カードに入れるか?」


 どうやらギルドカードには貯金機能も付いているようだ。

 わたしはとりあえず5000ゴルを銀貨でもらい、あとはカードに入れてもらった。なんだか急にお金持ちになって気分がいい。


 わたしはお礼を言って引取り所を後にした。





 さて、夜を迎えて問題がある。

 わたしはこのたまごから出られない。

 どうやって夜を明かせばいいのだろうか。


 たまごの中で身体はふわふわ浮いているので、このままでも寝られそうな気はする。でも、横になりたいなあ。


 何か良い機能は付いていないのかと壁を探る。


「何もないか……あっ、装備が増えてる」


 わたしは画面に触れた。


装備 たまご>

   たまごハウス レベル1〈ワンルームタイプの家


 どうやら家が出るらしい。

 でもこれ、装備なのか?


 やたらな所で家に変形できないので、わたしはいったん町の外に出る事にした。

 

 門に行くとバザックさんがいたので、仮の通行証を渡してギルドカードを見せた。


「おお、たまごか」


「名前はリカですが」


「すまん。早いな、明日でも良かったのに」


「町の外に出るのでついでです」


「夜の狩りは危険だぞ?」


「違いますよ。町の外で夜を過ごすんです」


「野宿か? それこそ危ないからよせ」


「家は持ってますので、大丈夫です」


「……家?」


 バザックさんは首を傾げて「たまごだからか? 家が?」と呟いている。


「たまごだから宿屋を断られたとかではないんだな?」


「はい、自分の家の方が落ち着けるんで」


「わかった。じゃあ、家を見て納得させてもらう」


 心配症だな。でも親切な人だ。


 バザックさんは奥にいる人に声をかけて、わたしと一緒に門の外に出た。

 通行の邪魔にならなそうな、少し離れた所に行った。


「そんなに大きくないと思うんで、このあたりにいいですか?」


「ああ」


 バザックさんから離れて、装備のコマンドに触れた。

 たまごは大きくなり、球形のまま窓の付いたワンルームに変わった。

 わたしが窓の外をそっと覗くと、口をぽっかり開けたバザックさんが見えた。





 たまごの中はワンルームマンションのようだ。シャワールームが付いているのが嬉しい。

 狭い部屋を探検してみる。クローゼットの扉を開くと、そこには何もなかった。手は入るけど身体は入らない黒い空間だ。

 不思議に思っていると、空中に小さな画面が浮かんだ。


アイテムボックス なし


 なるほど、アイテムボックスだったんだね。

 じゃあ、たまごの時にアイテムボックスの中に食べ物とか服とか入れておけば、部屋で出して食べたり着たりできるわけだ。


 シャワールームには、嬉しい機能が付いていた。


クリーンボックス あらゆるものを清潔にできる


 洗濯機の進化版だ。

 わたしは服を脱いで全部クリーンボックスに入れた。中で衣類がくるくると回っているのを確認して、シャワーを浴びる。

 たまごリンスインシャンプーで背中まである長くて黒い髪を洗い、たまごボディソープをたまごスポンジにつけて身体を洗った。身体中すべすべである。


 備えつけのタオルで髪と身体を拭き、綺麗になった下着と服を身につけてドライヤーで髪を乾かし、大変快適である。


「あー、ご飯どうしよう」


 一度たまごに戻らないとだめかな?


 ポーン、と電子音がした


『お食事の用意ができました』


 壁から小さなテーブルが出て、そこにオムライスとサラダが乗っている。


「うわあ、たまごかけご飯じゃないんだ!」


 わたしは小さな椅子に座り、ウキウキとスプーンを握った。


 オムライスは美味しかった。

 主役のオムレツがふわとろなのはもちろん、香ばしく炒めた鶏肉とマッシュルームがアクセントになって、食べごたえのある逸品となっていた。

 わたしは歯を磨くと、ふかふかのベッドに潜り込んで朝までぐっすりと眠った。

 たまご、すげーな。

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