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やな奴にはお仕置きだよ

「ライルお兄ちゃん、チアさん、ただいまー」


 わたしは意気揚々と冒険者ギルドの重い木の扉を開いた。

 ミスリルタートルを狩ってきたことを、これでもかと自慢するのだ。


 心配症のバザックパパにも、ぼこぼこになったミスリルタートルを見せて自慢したかったんだけど、今日は門番仕事はお休みだということでいなかったので、仕方がないのでお留守番のマックスさんにさりげなーく言ってみたんだけどね。

 あんまり真面目に聞いていなくて「そんな事より、たまごサブレとかいう食い物は持っていないのか」とか言い始めたので、ぷんぷんしながら置き去りにした。


 悪い子にはおやつあげません。


 ちなみに、がっかりするマックスさんに聞くところによると、バザックさんは王都に出張して防衛会議に出ているらしい。

 バザックさんは強い元冒険者で、大物門番なのだ。







「お帰りなさい、リカさん」


「リカちゃんお帰りー。どうだった? ひとりでおつかいできた?」


「できたもん。ちゃんと狩ってきたもん」


 カウンターで冒険者の対応をしていたライルさんとチアさんが手を止めて答えてくれたので、元気にお返事をするたまごだよ。

 ギルド内は、狩りから帰って来た冒険者でやや混んでいる。


 何事かと振り返ったカウンターの三人組の男たちが「何っ、たまごだと?」と驚いた顔をする。新顔だ。そして、悪い面構えだ。

 彼らはすぐに向き直り、カウンター越しにギルド職員に凄む。


「いいか、俺たちはわざわざ、この護衛のために来てやったんだぞ? 依頼が出ていないってのはどういうことなんだ?」


「ですから、どういうことも何も、もともと冒険者ギルドではそのような依頼はお受けしていないのですよ」


「お前らギルド職員が、賄賂でも貰って誰かにうまい話を横流ししてるんじゃねえのか?」


「そうだ、こんなおかしな話はねえよな」


「よお、兄ちゃん、俺たちにあんまりナメた口をききやがると、少々痛い目に逢うことになるがよう、構わねえか?」


 ああなんだかよくわからないけど、ライルお兄ちゃんをいじめる奴にはこのたまごが黙っていないよ!


「ちょっとあんたたち!」


「リカさん、黙ってなさい」


 うわーん、お兄ちゃんに黙らされたよ!


「なんだこのたまごは」


「ここのギルドでは魔物を飼ってるのか?」


「失礼だな! 魔物じゃないよ、たまごの冒険者だよ」


「冒険者だとぉ?」


 三人組は顔をわざとらしく見合せると、げらげらと笑い出した。


「わはははは、たまごかよ! この町はたまごまで戦わせなきゃならねえくらい冒険者のレベルが低いのかよ!」


「情けねえところだな」


「情けないのはあんたたちの頭でしょ、たまごのすごさも知らないくせに見かけで判断してレベルが低いとかばっかじゃないの? あんたたちみたいな判断力ゼロのからっぽ頭の冒険者なんてあっという間に魔物に喰われてあの世行きだろうね、おめでたいおっさん。邪魔だからとっととどっかへ消えなよ、ホーンラビットにでも遊んでもらってきな、その馬鹿でかいだけの役立たずな身体に角で水玉模様つけてもらってこい」


 やられたら倍がえしだよ!

 えっ、倍以上言ってる?


 ギルド内がしんと静まりかえる。

 ライルさんとチアさんがちらっと目配せあって、ため息をついた。


「なっ、なん、なんだとこらあっ!」


「てめえ、誰に向かってそんな口きいてやがる!?」


 真っ赤な顔になったチンピラ冒険者が、口々にがなり立てた。


「俺たちはランクCのパーティ、『ブラックベアキラー』だぞ!」


「へえ、そんなに頭が悪くてもランクCになれるんだね」


 なんたって、常識がなくたってなれるんだもんね。


「……このくそたまご野郎が!」


 チンピラ冒険者の代表者らしいヒゲ面の男が、剣を抜いた。


「ギルド内での刃傷沙汰は、ペナルティになります」


「ふん、腰抜けギルド職員が! たまご、外に出ろ!」


「お兄ちゃん、外なら何をしても平気なの?」


「冒険者同士のトラブルにはギルドとしては関わりません。しかし……」


 ライルさんが心配そうにわたしを見る。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん、可愛い妹の身を案じてくれるのはわかるけど」


「ギルドの前で惨殺するのはやめてくださいね」


「そっちかよ! ひどいやお兄ちゃん! リカ、グレちゃう!」


「リカちゃーん、一思いにヤるのがや・さ・し・さ・ね?」


「ヤらないよ! って、ヤるのが前提で話さないで、少しは心配しろよ! たまご悲しいよ!」


 もうやだ、ここのギルド職員。

 わたしの事を誤解しているよ。

 わたしはいたいけな女の子なのに、何この危険物扱い。


「おお、たまごがんばれよ!」


 居合わせた冒険者が無責任な声援を送る。


「『ブラックベアキラー』は結構強いと評判だぞ。悪評も有名だがな」


 あー、強いのを笠に着て威張り散らす、典型的な嫌われ者冒険者パーティなんだね。


「で、その強いおっさんたちが、この町に何しに来たの?」


「ギヤモン商店の帰りの護衛をしたかったらしいぜ。ギヤモンは金払いがいいらしいからな」


「あーそれ、わたしがギヤモンさんに直接頼まれたから、ギルドに依頼はでないよ」


 ギヤモンさんに、護衛しがてらエビルリザンとミスリルタートルを王都に運んでくれって言われてるんだよね。だから一応、旅路となる草原の強そうな魔物をレンジでたまごを試すついでに一掃してきたんだけど。


 それを聞いた『ブラックベアキラー』のメンバーが余計に怖い顔になる。


「なんだと! ……ちょうどいい、お前をぐしゃっと潰してやる」


「さっさと外へ出ろ。謝ったって許さねえからな、てめえには地獄を見せてやる」


 柄の悪いおっさんたちが、凶悪な笑顔になった。






 ギルドの前には人だかりができていた。

 建物内にいた人は、おそらく全員外に出ている。

 これでいいのかギルド?

 あ、チアさんが扉に鍵をかけたよ。

 休業するんかい!


 みんな本当にたまご対『ブラックベアキラー』の戦いを見たいらしいね。

 ご期待に応えられるといいんだけど。


「お兄ちゃーん」


「なんですか? 僕を巻き込まないでくださいね」


 げんなりした顔で腕を組んでわたしたちの果たし合いを見守るツン(デレがない!)ギルド職員が答える。


「これって、万一、万一だよ、相手を殺しちゃったら捕まるの?」


「いいえ、双方納得の上の戦いですから、何のお咎めもありませんよ。ですから、なるべくギルドの建物に血を飛び散らしたりせずに一息で」


「飛ばさないよ! ってゆーか、皆殺し決定みたいに言わないでよ!」


「あなたに手加減ができるとか……?」


 ぷっと吹き出すとか、失礼だな。


「ウルトラスーパーエクセレントビューティホーなたまごを見くびるなよ! ちゃんと非殺傷性の技だってあるんだからね!」


 使ったことはないがな!


「ごちゃごちゃ喋ってんならこっちからいくぜ!」


 ヒゲのおっさんが剣を構えて突っ込んできた。

 カキーン。

 たまごの殻が受け止める。

 もちろん、びくともしない。


「あー、おっさん、無理無理。諦めなよ」 


 何度か斬りつけられたけど、当然ながら傷ひとつ付かない。

 おっさんが突っ込むのに合わせて体当たりをしようかと思ったけど、ワイルドベアを瞬殺する効果があるから、おっさんも瞬殺しそうだし、やめておく。

 となると、何のアクションも取れずにここにじっと立っているしかない。

 

「化け物たまごめ、これを食らえ!」


 男のひとりが杖を構えて呪文を唱えた。

 空中に燃え盛る業火が現れ、わたしを包む。

 しかしながら、効果はない。


 だって、エビルリザンの魔法さえもなんともないたまごだよ?


「じゃあ、反撃しちゃうよ? 謝るなら今だよ」


「誰が謝るか、このくそたまごめ!」


「……そうかそうか。それじゃあ、この世のものとも思えない恐ろしい技をお見舞いしてやろうかな……『腐ったたまご』」


 わたしが唱えると、たまごアームにたまごがひとつ、握られた。

 剣を持ったヒゲのおっさんに投げる。


「あっ落ちちゃった」


 意外に飛距離の出ないそれは、目の前にぽとりと落ちた。


「……なんだそりゃ」


 ギャラリーが固唾をのんで見守る中、たまごから両手両脚が生えてきた。


「な、なんか気持ち悪いな……」


 誰かが呟く。

 その小さな手足は腐ったような黄色をしていた。

 四つん這いだったたまごは立ち上がり、やがてよろよろとヒゲ男の方へと歩いていく。たまごのゾンビのようだ。


「なんだ、ふざけやがって……?」


 ヒゲ男が剣で突き刺そうとしても、ふらあっとして避けて当たらない。


「気持ち悪いやつだな、くそっ! うわあっ!」


 剣の先に掴まった腐ったたまごは、そのままぺたぺたと上り、振り落とそうとするヒゲ男の手を避けて肩から頭にたどり着いた。


 ぐしゃっ。


 ヒゲ男の頭のてっぺんで、たまごが割れた。

 中から腐って緑色になったたまごが流れ出し、ヒゲ男の頭を覆った。


「う……うあっ、ぐあああああっ! 臭い!痒い! ぎゃあああっ、取ってくれ、頭が痒いーっ! 臭いーっ!」


 ヒゲ男は頭を抱えてのたうち回るが、ゼリー状のたまごは彼に密着してはがれる気配はない。


「助けてくれーーーーっ!」


「お、おい、」


「なにをしやがった!?」


「そのたまごは丸一日取れないよ。命には別状はないから、一日苦しむといいよ」

 

 非殺傷性の優れた武器だね!

 食らった本人にしか被害がないのもいい。


「なんならあんたたちにもぶつけてやろうか?」


「ふざけやがって! ぶっ殺す!」


 残りのふたりは戦意を喪失していないようだね。

 わたしはたまごボックスにたまごアームを突っ込んだ。


「ええと……麻痺毒の頭……っと」


 引っ張り出したのは、麻痺毒を牙から出すエビルリザンの頭だ。


「ふふふふふふふ、これ、なーんだ?」


「……なんだと!? そんなまさか……」


「嘘……だ、こんなものが……」


 さすがランクCの冒険者、ひとめで『地獄の番人』だとわかったみたいだね。

 わたしより常識があるようで、悔しいよ!


 わたしはたまごアームでエビルリザンの頭を操り、口をぱくぱくと動かしながら、三人のチンピラパーティの周りを踊りながら回った。


「ホーラホーラ、リザンダヨー、タマゴニサカラウ、ワルイコハー、カジッチャウヨー、パックンパックン、アハハハハー」


「やっ、やめろ! 近づくなっ!」


「生きながら腐る猛毒の牙だぞ、触るな、うわああああ!」


 違うよ、これは麻痺毒だよ。腐る毒は違う首だよ、ちゃんと本で調べたもん。

 ……たぶん。

 今度、首にリボンをつけてわかりやすくしておこう。


「パックン、パックン」


 リザン踊りは楽しいね!

 ちょっと獅子舞を踊るのに似てるかな?

 わたしは注目するギャラリーを意識しながら、ひらりひらりと華麗にたまご踊りをする。

 もちろん、白目を剥いたエビルリザンをキュートにパクパクさせるのも忘れないよ。


「いやだああああ!」


「がゆいいいいい、だずげでえええええ、ぐざいいいいいい!」


「来るなアアアアア!」


「ひいっ、ひいっ、」


 魔法使いは腰を抜かしたね。


 リザンを抱えてクルッとターン。

 華麗なたまごステップに、みんなくぎ付けだよ。


「パックン、パックン、ホーラホラー」


 チンピラの顔ぎりぎりまでリザンを近づける。

 真っ青な顔のチンピラは、地面にしりもちをついて、そのまま土下座した。


「お、俺たちが悪かった、なんでもやるからそいつを退けてくれーッ!」


 おお、わたしの素晴らしい踊りに改心したようだな。


「じゃあ、わたしの前から消えな。さっきの無礼の数々を許したわけじゃないからね、顔を合わせたら仕返しするつもりだよ、わたしは執念深いたまごなんだ。コンドアッタラ、パックンシチャウヨー」


 まだ転げ回っているヒゲ男を引きずるようにして、『ブラックベアキラー』の三人は町の出口へと逃げ出した。


『恐怖のたまご踊りを覚えました』


 アナウンスが鳴った。


「……華麗なたまご踊りの間違いだと思うよ」





 それからは、子どもを叱るときに、「悪い子にしているとリザンを連れたたまごが迎えに来るよ!」と言うようになったらしい。

 なまはげじゃねーよ!

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