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コネクションは大切

「この馬車をこのまま町の中を走らせる訳にはいかないな。マックス、身分証をチェックしてくれ」


 血の滴る馬車を見たバザックさんが指示を出す。

 すごいよね、車輪までたれちゃってるレベルだ。


「わかった。一人ずつカードを出してもらえるか」


 マックスさんは、商人一家の身分証を手早く調べた。

 バザックさんは先生に尋ねた。


「彼らは治療院に入れた方がいいのか?」


「いや、宿で休んでいればすぐに回復するだろうから、その必要はないな。信じられないが、これだけ出血したのに貧血の徴候が見られない。まったくすごい薬だよ」


 三人の男たちのまぶたの裏や脈を観察した医者が言った。


「そうか、よかったな。ええと、名前を聞いてもいいか? 何度か会ったことがあるな」


 バザックさんが馬車の中のおじさんに言った。おじさんは喉を撫でてから答えた。


「えー、あー、声が出る! いや、失礼しました。王都で店を開いている、ギヤモンというものです。この度はお助けいただきまして、ありがとうございました。一時は一家全員命を落とすことも覚悟しておりましたのに、素晴らしい薬でここまで回復させていただけて、言葉もありません」


 血まみれの馬車に乗った血まみれのおじさんが、丁寧に頭を下げた。

 奥さんやお嬢さんや、元気になった若者二人も頭を下げる。


「たまごさんは、治療師さまなのですか?」


 怪しさ満載のたまごに対しても丁寧なところは、さすが商人だ。


「違うよ、ランクC冒険者だよ。名前はリカ、愛のたまご戦士だよ」


「そうなのですか! ランクCとはお強い冒険者さまなのですね、お見それしました。わたくしどもにあのような貴重な薬を使っていただき、恐縮です。このお礼は、店を手放してでもいたしますので」


「いやいや、気にしないでよ! お店は大事にしなよ、あれはわたしの素敵な特技のひとつだからさ。ねえ、それよりも、そのスプラッタな姿をどうにかしようよ。泊まるところは決まってるの?」


 そのままお化け屋敷にバイトに行けそうなくらい血まみれだよ。魔物に切り裂かれたのか、ビリビリになってるしね。

 特に、お兄さんたちのビリビリっぷりが酷いけど、戦ったのかな。


 宿屋が受け入れてくれるといいけどね。


「常宿を予約していますので、そこに行けば大丈夫です」


「じゃあ、そこに行こうよ。先生、この人たちを歩かせて平気かなあ?」


「まだ回復しきっていないだろうから、担架で運んだ方がいいな」


「そんな、申し訳ないです」


「商人のおじさんは遠慮しないで運ばれていなよ。この人たちには後で肉でも奢っておけばいいから」


「なんだよたまご、その扱いは」


 冒険者のひとりが文句を付けたので、わたしはキリッとした顔で言い返した。


「ほう、一昨日の肉祭を忘れたか?」


 ワイルドターキーとワイルドブルとホーンラビットのお肉の食べ放題、表面が香ばしくカリッとなるまで炙ったのとか、噛むとじんわり旨味がにじみ出るとろとろお肉になるまで煮込んだのとか、かじるとじゅわっと肉汁が滴るステーキとかをお腹がパンパンになるまで食らいつくすあのパラダイスの記憶はもうお前の鳥頭から消えたのか、あん?


「……肉でお願いします」


 正直者は好きだよ。


「あ、ギヤモンさん、肉はわたしに依頼してくれれば、がっつり狩って来るからね」


 営業も忘れないよ。


「ギヤモンさんたちも、お肉食べた方がいいよ。だいぶ血が出ちゃったからね。そうだ、まだ飲めそうなら、もう一杯ずつ『すごいミルクセーキ』を飲んでおく?」


「ええっ、あの素晴らしい薬をですか? いいのですか?」


「あの素晴らしい飲み物を、また飲むことができるのですか! ありがとうございます、たまごさま!」


 商人一家の顔が輝く。

 そこまで美味しがってくれるとは、たまご冥利に尽きるね。

 特に、お嬢さんが巨乳を腕にはさんできゅん!と喜ぶ様子が可愛いから、わたしは私怨を水に流すよ。


「いいよ。わたしは親切なたまごだからね、しっかり飲んで早く良くなりな」


 薬草と毒消し草はたっぷり持ってるんだよね。

 わたしは次々と調合し、手渡していった。


「ありがとうございます、遠慮なくいただきます」


 それはそれは美味しそうにヒンヤリした『すごいミルクセーキ』を飲むギヤモンさん一家を、羨望の眼差しで見る冒険者たちと門番一同とギルド職員。

 お前ら、子どもかっ?


 わたしの顔と何度も見比べて、視線でおねだりするな。

 ごつい男がやってもかわいくなんてないんだからな。

 ……ライルお兄ちゃん、混ざらないで。お兄ちゃんだけはツンを貫いて欲しかったよ。


「……仕方ないな、ギヤモン一家に親切なみんなに、愛のたまご戦士が『すごいミルクセーキ』を分けてあげよう。わたしは太っ腹なたまごだからね!」


 いい大人が「わーいやったー」と叫ぶのは止せ。

 萌えるだろう!


 ため息混じりに『調合』した『すごいミルクセーキ』を飲んだ彼らは、身体にみなぎる無駄な力を発散させようと今日一日元気いっぱい働くのであった。






 まあ、こんなごたごたがあったために時間がすぎてしまい、わたしはミスリルタートル狩りを延期することにした。

 あんなに狂暴な魔物は早めに狩った方がいいかと相談したが、ライルさんが、一度暴れると二、三日はおとなしくなると言っているので、今の危険性は低いだろうという判断をした。


「そして、もう一回図書館で調べ直してから行け」


 パパに叱られました。

 素直なたまごだから、パパの言う通りにするよ。


 もともとケガのないお嬢さんことレニアさんと軽傷だった奥さんは、完全に元気な状態だったので歩いて宿に向かい、おじさんと双子の兄弟ニックとピートは担架で運ばれた。


「ギヤモンさん、大丈夫ですか? この度はとんだ災難でしたね」


 黒鹿亭の主人が、いたわるように担架の上の商人に声をかけた。

 上等そうな宿なのに、酷い身なりを見ても文句ひとつ言わないあたりがプロの接客だね。


「はい、でもこちらのたまご戦士さまの力で助けていただきましたから。この町には素晴らしい冒険者の方がいらっしゃっていいですね」


「リカさんですね、そうなんですよ、期待の新人さんで、またたく間にランクアップした実力者の方です。先日も鉱山で強い魔物に襲われる事件があったのですが、あっという間に解決してくださって、軽い怪我人しか出なかったのです。翌日から通常通りに仕事ができたと、働いているものはたいそう感謝していましたよ」


「なんと! そのような高名な冒険者さまでしたか! お近づきになれたのは不幸中の幸い、天はこのギヤモンを見放してはいなかったのですな、ははは」


「まったくですよ、いやはや、さすが大商人のギヤモンさま、運の良さは定評通りでしたな、ははは」


 いやあん、もっと言って!

 そして、わたしの評判をどんどんあげてちょうだい!

 口コミって大事だからね。


 担架に乗ったまま、和やかに会話をしているのはどうかと思うが、さっき飲んだ『すごいミルクセーキ』が効いていて運び手が無駄にパワフルなので構わないようだ。

 

「お前たち、疲れているところに本当に申し訳ないが、買い物に行く元気があるだろうか?」


「ええあなた、どういうわけか身体が若返ったように力が湧いて来るのよ」

 

「荷をすべて失ってしまったからなあ、ギルドで金を下ろして、服を買ってきてくれないか。このままでは、な。すまん」


「わかったわ。レニア、行ってきましょう」


「はい、お母さん」


 ああ、血まみれの衣類しかなくなってしまったんだね。

 他にもいろいろ、商売道具を含めて全部の荷物をなくしてしまったのかな、気の毒に。


 ギヤモンさんたちは、三人部屋のベッドに寝かされた。

 服は脱がされ、パンツ一丁だ。

 大丈夫、脱ぐときはちゃんと席を外したよ。

 わたしは恥じらいのあるたまごだからね。


「みんな大丈夫?」


「はい、今すぐ起きても良いくらいに力が湧いてきております。……ただ」


「どうしたの?」


「いえ、命が助かっただけでありがたいのに贅沢ですが……積み荷をすべてなくしてしまったことが、少々……」


「どのくらい損をしたの?」


「荷馬車2台分です」


 ニックの方が沈んだ声で答えた。


「そうか。商人が積み荷を失うのは剣士がいい剣を失うくらいにショックだよね」


 いくら命が助かったと言ってもね……あれ?

 嫌なことを思い出したよ、ミスリルの剣を折られた剣士の話とか!


「まあ、その、とにかく、一家で力を合わせてがんばれば、すぐに取り戻せるって! ……結構な額だったの?」


 あ、そうなんだね。

 その表情でわかったよ、気の毒に。


「そうだ、この町で高く売れそうな魔物を狩っていけばいいよ。リクエストがあったら、わたしが狩ってくるよ。ギヤモンさんのところは魔物素材も扱うんでしょ?」


「はい、多く扱っております」


「ねえ、王都にお店を持ってるんだよね? じゃあさ、高い魔物も買い取るお金あるかな。わたし、断られちゃったのがあるんだけど」


 『地獄の番人』がまだたまごボックスに入りっばなしなんだよね。あれ、買い取ってくれないかな?


「そうですね、ドラゴンをまるごと一匹ともなると難しいですが、たいていのものならば大丈夫ですよ」


「よかったそれは心強いね。引き取り所のおっちゃんが、お金が足りなくて買い取ってくれないのがあってさ、参っちゃったんだよ。エビルリザンって知ってる?」


「『地獄の番人』ですね。もちろん知ってますが」


 ギヤモンさんは怪訝な顔をした。


「伝説の災厄級魔物ですね」


「伝説なの? じゃあレアものってことなんだね。わーい、なんか高そうだね!」


 儲け話に喜ぶたまごだよ。


「どこかで目撃されたのですか? わたしは噂を耳にしていませんが」


「一匹持ってるんだ」


「……はい?」


「この前狩ったの。頭が五つも付いているから、こうやって、ゴンゴンゴンゴンゴーンって端からどついていくのが忙しいし、すごく固くて倒すのが大変だったんだよ。でもさ、鱗も毛皮もキラキラしてきれいだから、高そうな魔物だなって思ってたんだ。あんなにぼこぼこにしたのに、表面には傷がついていないのが不思議なんだけど、きっといい素材だからだね」


「……すみません、冒険者のリカさん、ナニヲイッテイルノカワカリマセン」


「だから、エビルリザンを買い取って欲しいの。ほら、」


 わたしはたまごアームでたまごボックスの中からエビルリザンの頭をひとつ、引っ張り出して見せた。


「コンニチハ、ボクリザン、ナカヨクシテネー」


 脇に抱えた巨大な金のトカゲの口をパクパクさせて、腹話術風に紹介してみたよ。


「白目剥いちゃってかわいくない顔をしてるけどさ、このピカピカ具合がキュートでしょ? ねえ、買ってよー、って、どうしたの? そんなに怖かった?」


 あれ、ウケなかった?

 たまご、悲しい。

 

 ギヤモンさんは大口を開けて目を見開いていたけれど、そのままエビルリザンみたいに白目になってしまった。


「おやじ、しっかりしろ!」


「王都のギヤモンだろ、おやじ、ポーカーフェイスはどこへやった、気をしっかり持てよ」


 息子たちに揺すぶられてぐたんぐたんしている。


「ありえない……まさか……『地獄の番人』をこの目で見るとは……」


 うーん、『すごいたまごアイス』でも口に突っ込んでみるかな?


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