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いよいよ試験だ

 ミラさんはけっこう早く走れたので、その横にぴったりついてとっとと森に向かって駆けていく。

 草原にはたいした魔物は出てこないのだ。


 スピードアップしてどこまでついて来れるか試してみたいと悪戯心もわいたけれど、うっかりミラさんを怒らせてしまったらランクアップさせてもらえないかもしれないので、Bボタンを長押ししたくなる右手を抑えて我慢した。

 ランクアップするまでは、とりあえず下手に出ておこうとするわたしである。なんならこっそり美味しいたまごのおやつを渡して印象を良くしておくのも良い。餌付けだ餌付けだ虎の餌付けだ。


 いろいろ失礼なことを考えて走っていると、あっという間に森に着いた。


「体力はありそうね」


 いやいや、あれだけ走って息を乱さない虎姉さんの方がすごいっす!

 さすがCランクの冒険者っす!


 それにしても……。


「なによ?」


「すっぽんぽんのわたしよりちょい隠しのミラさんの方が色っぽいのはなぜでしょう」


 がこーん。


 全身を舐めるように見てミラさんに一発どつかれたわたしは、空中できれいに一回転した。くるんと前転するたまご。

 すごい力である。

 獣人というのは筋力がただの人間よりもずっと強いということがわかった。


「あんたメスって聞いたけど、実はスケベオヤジ?」


「いいえ、ぴっちぴちの15歳女子です。大丈夫、ミラさんはお色気担当、わたしはいたいけな少女の愛らしさが売りということで、住み分けはできていますから」


「いたいけなイメージはみじんもないね」


 速攻で否定された。

 しまった、印象を良くしておく作戦が頓挫してしまう。

 わたしは心の声がうっかり漏れてしまう傾向があるので、今後気をつけよう。


「ええとミラさん、たまごサブレをおひとついかがですか?」


 たまごアームでたまごボックスからたまごサブレを取り出して渡す。

 これはみんなが喜ぶ美味しいおやつなので、たまごボックスに常備しているのだ。


「……唐突に、なに?」


「賄賂です」


「あんたバカ? 賄賂を賄賂って言いながら堂々と渡す?」


「わたしはいろいろ誤解されやすいので」


「しかも、お菓子ひとつ?」


「気にいったなら、お代わりあげますよ」


「そういう問題じゃ……ああなるほどね、ライルが変な忠告言う訳だわ」


 ミラさんがため息をついた。

 セクシー美女はため息まで色っぽいね。

 わたしもつられてうふうんと言っちゃうとこだったよ。


「ライルお兄ちゃんがわたしのことを噂したんですか、んもう、冷たいようで陰で可愛い妹自慢をするなんて、とんだツンデレお兄ちゃんですね! で、なんと?」


「まともに相手をすると疲労感が半端ないのでスルースキルをフル活用するように」


「酷いやお兄ちゃん!」


 わたしはくねくねと怪しく身体を揺らした。


「じゃ、いろいろスルーってことで、試験を始めるよ」


 残念、相手をしてくれない。


「内容は簡単、余程危ないことがない限りあたしは手を出さないから、あんたは好きなように魔物を狩りなさい。あんたの戦い方を見て、実力を判断させてもらうわ。二段階のランクアップに相応しい様な強いやつを狩るのよ、いい?」


「了解っす!」


 わたしはたまごアームでびしっと敬礼した。





 わたしはたまご索敵を活用して、獲物を探した。


「あっ、あっちに魔物の群れがいますね、この動きはワイルドウルフっぽいな、行きますよミラさん」


 わたしは滑るように森を進み、ミラさんは忍び足で後からついてくる。


「ワイルドウルフは10匹いますから、まとめていきます」


 わたしは魔物の前に躍り出た。

 一気に加速して、片っ端から体当たりでなぎ倒した。

 あれだね、進路が自在なボーリングだね。ちょうど10匹だし。

 もちろん、たまごボールでストライクだよ!

 そしてわたしは、ボーリングのピン、ではなくワイルドウルフをたまごボックスにしまう。


 今のは面白かったかな? ワイルドウルフがぽーんぽーんと飛ぶところはなかなか楽しかったと思うんだけど、ミラさんにウケたかな。

 やっぱさ、2ランクアップとなると戦い方にもちょっとしたユーモアが必要だと思う訳よ。


「じゃあ次に行くね」


 たいていの魔物は体当たりで倒した。

 わたしの体当たりはアイアンゴーレムとの戦いでかなりパワーアップしたらしく、森の魔物はひとたまりもない。一撃必殺である。

 ホーンラビットの群れに突っ込んだ時は、余りにもわたしの勢いがありすぎて、たまごの全面にぺちゃんこになったウサギが8羽も張り付いちゃったんだよ。

 わたしが止まったとたん、8羽一斉にポトッと落ちたところはけっこう面白かったと思うんだけど。

 ぺちゃんこウサギはもちろんたまごボックスにしまったよ。

 あっさりしたお肉でシチューにすると美味しいんだ。

 今日のランクアップパーティーは、ウサギとワイルドターキーで決まり、かな?


 と、そこでたまご索敵が反応した。


「ミラさん、今度こっち!」


 わたしが赤い光の点滅の方に進むと、そこには大きな牛の化け物がいた。


「わーい、牛肉ゲットだぜ!」


 わたしはBボタンで加速しながらAボタンを押して連続ジャンプをして、ぽんぽんぽーんと飛び上がり、そのまま空中で逆さになり「たまごホーン!」と叫んだ。


 さくっ。


 巨大な牛の頭にたまごの角がさっくりと刺さり、そのまま牛の魔物は横に倒れた。


『ワイルドブルを倒しました』


「ミラさーん、これ美味しいの?」


 わたしはうんしょうんしょとワイルドブルの頭から角を抜きながら聞いた。


「……あ、ええ、うん、美味しいわ」


「良かった! これならみんなでお腹いっぱいに食べられるね。そうだ、味にばかりこだわっていないで、もっと強い魔物を仕留めないと2ランクアップはできないよね。どこに行けばいるかなあ」


 ミラさんが返事をしてくれない。

 弱い魔物ばかり倒してるから、あきれられちゃったのかな?

 それはヤバいな!


「たまご索敵で、強い魔物だけピックアップできないかな」


 索敵画面を触ったら、設定画面が出てきたので、強さレベルというのをいじってみた。


「これでいいかな……あっ、いたいた、これきっと強いよ! 行こう!」






「なんだろこれ。全然美味しそうじゃないけど、強そうだからいいかな?」


 わたしは目の前の魔物を見てミラさんに言った。

 身体はライオンで、金色に光る鱗で覆われたトカゲみたいな頭が5つも付いている。

 進みたい方向はどうやって決めるんだろうね。

 やっぱ多数決かな。


「これは、『地獄の番人』……なぜこんなところに?」


 なんかきらっきらして、強そうな感じがするよ。かっこいいね!


「アイアンゴーレムよりは軟らかそうだから、大丈夫だなきっと。じゃあ行ってくるよ」 


「駄目! 待ちなさいリカ! リカ! リカ! リカーッ、このバカたまごーっ!」


 なんか悪口言われたけど気にしないよ。

 ミラさんはツンデレキャラだもんね、ふふっ。

 わたしは加速した。


「たまごアターーーック!」






「いやあ、強かったね! これ、珍しそうだから高く売れるかな? この毛皮とか、鱗とか、きらきらして豪華だからいい素材になりそうじゃん、儲かりそう」


 わたしは守銭奴っぽくうひうひ笑った。


 ミラさんが『地獄の番人』と呼んだ魔物は、エビルリザンという名前の魔物だとたまごがアナウンスした。


 けっこうタフで、わたしは何度も体当たりをして、最後は心臓の辺りをたまごホーンでひと突きしたら、魔石を貫いたのか倒すことができた。

 全身打撲でぐたぐただけど、毛皮には傷がないから良かった。売値的にね!

 わたしはホクホクしながらエビルリザンをしまった。


「儲け、儲け、儲かったー。さて、ミラさん、もっと強そうなのを……どうしたの?」 


「……力……抜けた……」


「大丈夫? 具合が悪くなっちゃったのかな」


 わたしは木に寄り掛かって崩れ落ちるミラさんの額にたまごアームを当てた。


『熱はありません』


 アナウンスを聞いて安心する。


「……大丈夫よ。ちょっと精神力が削られたっていうか、脱力しただけ。そして、ライルに正座をさせて小1時間問い詰めたいだけよ……ねえ、もう帰りましょうか」


「え? まだ半日しか経ってないよ。試験は?」


「終了。試験官の判断で終了。わかった?」


「……うわあ、帰ったらドキドキの結果発表なんだね! どうしよう、もう緊張してきたよ! わたしはナイーブなたまごだよ!」


 ミラさんは立ち上がったけど、少しふらついたので、わたしはたまごアームでミラさんの胴を掴んでたまごの上に乗せた。


「やだ、なに?」


「早く帰ろう。すぐ結果を聞きたいよ。じゃないと、わたしのガラスのハートがドキドキ感で粉々に砕けちゃうよ!」


「きゃっ、きゃああああああーっ!」


 わたしはBボタンを押して加速し、森を抜けて草原を駆け抜けた。

 さあ、ドキドキの合格発表だよ!







 そして今、冒険者ギルドの床にミラさんがうずくまっている。


「うううううう、ぎぼぢわるい……」


 ギルドの建物内に居合わせた人たちは、ミラさんの惨状を気の毒そうに見守る。チアさんが濡れタオルを持ってきて、ミラさんの顔を拭いてくれた。


「ごめんねミラさん、まさかたまご酔いしやすい体質だとは思わなかったんだよ!」


 たまごの全力疾走で、すっかり気持ちが悪くなったらしいミラさんは、青い顔をして目を閉じている。


「ちょっと待ってね、今酔い止めの薬を作るから」


 わたしは万一の時のためにたまごボックスにしまっておいた薬草と毒消し草をたまごアームで持って言った。


「ミラさんのたまご酔いが治る薬を『調合』!」


 たまごアームの先が黄色く光った。

 棒付きアイスを握っている。


 さて、鑑定するか。




『すごいたまごアイス 〈気分を爽快にするアイス。乗り物酔いにも効果があり、効き目は1日持続する。おやつにも最適』




 もうなにも言わないよ。


 わたしはぐったりと横たわってしまったミラさんの口元にアイスを近づけた。


「……これは、なに?」


「わたしの調合した酔い止めの薬だよ。おやつにもなるし、気分がすっきりするから、わたしを信用してくれるなら一口舐めて?」


 ミラさんは、『すごいたまごアイス』の匂いをふんふん嗅いでから、ペロッと舐めた。


「!」


 食いついた。

 なんかかわいい。


 ミラさんはアイスを受けとると起き上がり、しゃくしゃく音を立てて美味しそうに食べた。


「なに……おいし……おいし……」


 あっという間に顔色が良くなった。

 アイスを食べる虎姉さんは、セクシーというより無邪気でかわいかったので、見守るみんなでほっこりとする。


「すげ……美味そう……」


 えっ、そういう意味で注目してたの?


「『すごいたまごアイス』を食べたい人、手を挙げてー」


 ギルド内にいた人たちが、一斉に手を挙げた。

 あ、チアさんとライルお兄ちゃんも手を挙げているね。


 わたしは薬草と毒消し草をたくさん取り出して『すごいたまごアイス』を人数分調合した。

 みんなでものも言わずしゃくしゃく食べた。

 わたしも食べた。


 うん、すごい美味しいや!

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