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The Third Eyes  作者: WAIESU
8/40

濡れた邂逅(G)

 それから、ボベックに言われて手伝いを中止したセリアを、ライが家まで送っていく事になった。

 少し寒い夜だった。

 昼間の喧騒も、夜になれば陰を潜める。空は雲が一面を覆っていて、月は見えなかった。

 建物や街灯の明かりに照らされながら、ライとセリアは歩いていた。8

「大丈夫だったか?」

「うん……助けてくれてありがとう」

 ライの問いかけに、セリアはふわりと微笑んだ。

「夜の酒場はああいう客がよく出てくるんだ。女性は絡まれやすいから、気をつけろよ」

ただでさえセリアは容姿が可愛いのだから……と言いそうになって言葉を飲み込む。

「はい。今度からは気をつけます……」

「よろしい。それにしても、腹減ったなー」

 言いながら腹をさする。それを見て、セリアが拗ねたような視線をよこした。

「夕食前には来てねって言ったのに。もう冷めてるから、自分で暖めて食べてね」

「……悪い。少しいろいろあったんだ」

「アゼルはどうしたの? マスターの分も合わせて三人分作っておいたんだけど」

「ああ、あいつはいつもの病気だ」

「病気?」

「金に目がない奴だからな」

 セリアは頭に?マークを浮かべていた。それから、しばらく色んな話をして歩いた。

 他愛もない話だったが、そんな時間がライは心地良かった。話したいときに話し、沈黙しても気まずさなど感じない、それほど身近で親しい関係。

ふと会話が止まった時、ライは何気なく隣を歩いているセリアに目をやった。


 小さい頃から、ずっと見てきた。


 ライから見ても、セリアはかなり可愛い部類に入る。綺麗という表現も当てはまる。知り合いの若いハンターが、惚れ込んだ事もあった。

 暗闇の中で光るセリアの綺麗な蜂蜜色の髪が、ふわりと風に流れていた。時たま耳に手をやり、自然に髪を掻きあげる仕草にどきりとする。

 と、不意にセリアと目が合った。すると、セリアはにこりと笑顔を浮かべた。

 一際大きく、心臓が跳ねる。

「久しぶりだね……こうやって歩くの」

「そう、だな。一ヶ月ぶりくらいか?」

 平常心を保つ。しばらく会っていなかったせいか、彼女の笑顔は一段と眩しく見えた。

「うん。長いよね、一ヶ月って」

「人それぞれだろ」

「私は……長かったな」

「……セリア?」

 急に雰囲気が変わったセリアを見つめる。と、

「あ、雨……」

 ぽつり、ぽつりと。ゆっくりと雫が降ってくる。

 そのまま、雫は瞬く間に数を増してきた。

 地面の色が次々と黒く染まっていく。

「ライ! 傘持ってる!?」

「見れば分かるだろ! 手ぶらだ! 走るぞ!」

「あっ、待って!」

 二人で走り出す。幸いセリアの家はもうすぐだった。周囲の人々も傘を持っていないのだろう。面食らった顔をして慌てている。そんな夜のカインドネスの街。

「全く、ついてないな」

 溜息をつきながら、傍らを走るセリアを窺う。必死についてきているようだった。

 


 ――――大切な存在だった。



「もう少しゆっくり行こうか」

「え? でも濡れちゃうわ」

「もうこんなに水浸しなんだ。これ以上濡れても濡れなくても変わらないさ」

「ふふ……それもそうね」

 そう言って微笑んだセリアは、何故か楽しげだった。



 ――――どんな心のわだかまりも消し去る、その笑顔が。



「やっと着いたか……」

「ごめんなさい。雨の中送ってもらって」

 安全地帯に到着し、互いに髪や服を絞って水気をとる。

「はは、気にするなよ。その代わりまた料理、作ってくれ」

 ライの言葉に、セリアは嬉しそうに頷いた。

「……ええ、そんな事でいいなら喜んで。あ、せっかくだからあがっていって、ライ」



 ――――自分の名を呼ぶ、透き通ったその声が。



「……ん?」

 ふと、隣の古ぼけた家に視線がいった。家自体に違和感は無い。だが、最悪と言える視界の中で、その家の物陰に隠れて、何かが横たわっているのが見えた。

 いや、正確には、倒れていた。

「あれは……人!?」

 ライはすぐさまそこへ飛び出した。セリアが驚き、心配げに叫ぶ。

「えっ、ライ!? どうしたの!?」



 ――――何よりも暖かい、全てを癒してくれる、その優しさが。



 今も、この想いは変わることなく、

 これからも、決して変わりはしない。



「息はある! セリア、この人を頼む! 俺は医者を呼びに行って来る!」

「えっ!? ラ、ライ!!」

 雷が鳴り始めた。暗い雲に覆われた空。雨はどこまでも降り続く。

 まるで、永遠に止まないのではないかと思わせるほどに。



――――そう、この出会いが、幕開けの合図。

 

 

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