濡れた邂逅(E)
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夕日も沈み、外を闇が覆い始めた頃、人気の無い裏路地にある『占い屋』に客は入っていなかった。さっきまで叫んでいた客が帰ってから三十分程はたっただろうか、朝も夜も太陽の光が入ることの無いこの部屋には相変わらずロウソクの炎が揺れている。
その中で、豪華そうな装飾をした椅子に彼女は座っていた。両親が魔道士のため魔道の血を引いている自分の体。だが普通の人と比べて血の色が赤いとか緑色だということは全く無く、むしろどこに違いがあるかという疑問が浮かぶほどである。
組んでいた足を逆に換えながら、闇の魔法を操る女魔道士は形の良い唇を静かに開いた。
「リアナ、出てきなさい」
「……はい。ここに」
突然、彼女の視線の先から一つの人影が現われた。まだ若い少女の声。ロウソクの炎では明るさが足りないせいか、または顔を伏せているのか、影になり表情は分からない。だが、きっと無表情だろうと彼女は思った。さすがにニヤニヤなどしていたら気味が悪いし、何よりこの少女が自分の前でそのような態度を取ることは無いということを、彼女はよく知っていた。
「例の件はどうなっているかしら?」
ゆっくりとした口調で問う。
「その件に関してですが、『彼女』はもうこの街に来ているようです。幸い『奴』はまだ『彼女』を発見できていないようで、四六時中捜索しているようですが……時間の問題かと思われます」
名をリアナという少女は、身動き一つせずにそう答えた。
「そう。でもまだ『彼女』が見つけられていないのは救いね。『指輪』の方は?」
「そちらも今は無事です。ですが……これからどうなさいますか?」
放たれた問いに、メテュリーナ・ポートゥルは視線を動かさずに答えた。
「とりあえず、このまま様子を見るわ。何か変化があったら教えて頂戴」
「分かりました」
リアナはそう言うと、音も無く姿を消した。暗い部屋に一人残される。
今日は心なしか気分が良い。いつもより客が多かったというのもある。
だが、一番の理由は……。
(フフ……面白くなりそうね)
心の中で微笑み、メテュリーナは立ち上がった。