濡れた邂逅(C)
しばらく談笑していた。最近の街の様子やセリアが行っていた王都サンドリアのこと、ハンターの仕事のこと。こうやって三人でゆっくり話したのは久しぶりで、ライは少し、心が和むのを感じていた。
「今日、夕飯作っていっていいかな?」
ふと、セリアがそんな提案を出した。
「いいのか? セリア」
セリアは母親が料理上手だということも関係しているのか、かなりの実力がある。
「ええ。もともとそのつもりで来たから」
「ありがとう。なら頼むよ」
そう言うとセリアは嬉しそうに微笑んだ。すると、アゼルが肩にポンと手を乗せてきた。
「今日、夕飯食っていっていいかな?」
「帰れ」
「つー事でセリア、俺の分も頼む」
「人の話聞いてるか!?」
「まあまあ、ジュース飲ませてやったじゃねーか」
「あれは俺の店のだろ!」
「べ、別に一人分くらい増えても私は構わないから……、アゼルも食べていっていいよ」
「おっしゃあ!」
ガッツポーズで喜ぶアゼル。だが、ライには思い当たる事があった。
「……アゼル、ゲンロウ師範の夕飯はどうするんだ?」
アゼルの家は、剣や槍といった数種の武器を教える道場で、ライも小さい頃から通っていた。ゲンロウ師範というのはアゼルの育ての親である。二人暮しで、食事を作るのはアゼルが役割のはずだった。
「適当になんか食うだろ。それに、一食抜いたって人は死にはしない」
「そ、それは可哀想だよ……」
セリアが心配そうに言う。ライも同感だった。一見ゲンロウ師範を嫌っているように見えるが、仲が悪いというわけではない。アゼルが前に、ずっと寝ていて起きないゲンロウ師範を突然の発作か何かによる意識不明の危険な状態だと思い、必死になって医者の所まで運んだという出来事があるのを、ライは覚えていた。まぁそれが実は夜遅くまで酒を飲んでいたせいで、ただ思い切り爆睡していただけと知った時は、ゲンロウ師範を拳でぶっ飛ばしたそうだが。
「大丈夫だって。家に朝飯の残りとかあるしな。そんな事よりライ、今、仕事の依頼、何か受け持ってるか?」
アゼルが急に話を振ってきた。
「持ってない。どうした?」
「なら丁度いい。あとでメテュリーナのとこ行ってこようぜ」
「あ〜……苦手なんだよな、あそこ」
ライは困ったように呟いた。が、断る理由もないので仕方なく承知した。
「夕食前には帰って来てね」
セリアに分かってると答えてから、何となく窓の外に目をやる。
衰える事のない人混み。いつもの光景。
空を見上げる。
さっきまで晴れていたのだが、曇り空になっていた。