夢幻戦夜(B)
完全に相手が動かなくなったのを確かめてから、リアナはその場にへたり込んだ。
「は、あ……」
静かに呼吸を整える。
「あたしも……まだまだね……」
疲れた声でリアナは呟いた。魔法の扱いには自信があったが、実戦経験がまだ甘い彼女にとって、A級犯罪者のオイディプスはかなり手ごわい相手だった。
「途中でいなくなったと思ったら、こんな所にいたんだな」
自分の身が無事だったことに安堵していると、占い屋の入り口にアゼルが立っていた。
伸ばされた赤い髪。その後ろでしっぽのように結ばれた髪がゆれている。
「大丈夫か? 自分の力量くらい考えて戦えよな」
見ていたのだろうか。痛い一言。だが同時にアゼルの言葉にリアナは少しカチンときた。
「むっ、それくらい自覚してるわ……!」
そこまで言ってから、ふと気付く。
「……もしかしてさっきの魔法って」
「ああ、俺だ」
こともなげにアゼルは認める。
「……嘘でしょう?」
「何でそんな嘘をつかなきゃならねーんだ?」
「だ、だって……じゃあこの前あの男二人に襲われたときどうして……」
「あー、あの時か。面倒だったんだ。魔法使うと疲れるしな。だからお前を頼ったというわけだ」
「――――」
平然と言い放つ赤い髪の男。どこかでプチッという音が鳴った。
「あっ、あなたねぇ〜〜〜〜〜〜」
「誰のおかげで助かったんだろうなあ?」
「うっ……」
怒鳴ろうとしたがそれを言われては何も返せない。リアナは押し黙った。
「はっはっは。分かればいーんだ。分かれば」
ものすごい悔しさが精神を襲う。
「ところでちょっと聞きてぇんだけど」
こちらの気持ちも気にしないまま、アゼルは声音を低くした。
「……何?」
「メテュリーナが戦えば手っ取り早かったんじゃねえか? お前が出なくても、襲撃者が近くにいたことぐらい、あの女ならとっくに気付いてるだろ」
その問いがくることは、大体予想していた。
「確かに、姉さんならあたしよりも早く察知できてるでしょうね。でも……」
一拍の間。
メテュリーナという女性について、様々なことが頭によぎる。
「いろいろとね……都合があるの」
「へ?」
――――人には、生まれつき特殊な能力を持つ人がいる。
それは力であったり、才能であったり、病気であったり。
リアナは大きく溜息をついてから、思い出して話した。
「……そうだ、この男が言ってたんだけど、ウェルエーヌの居場所がばれたみたい。早く何とかした方がいいわよ」
「あ? 居場所が? そうか、分かった」
予想していたよりずっと冷静に返事をされ、リアナは呆気にとられた。
(心配じゃないのかしら)
「それよりだな……」
アゼルが、すっとリアナを指さす。
「? なに?」
「……前、隠したほうがいいぞ。ま、俺はそのままの格好の方がすげー嬉しいんだけど。意外とあるんだな、胸」
直後、リアナの闇魔法が放たれた。