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The Third Eyes  作者: WAIESU
29/40

蒼き明暗(G)

  


     □



 豊かな街にある宿屋にしては少し簡素な部屋。四角い木製の机の上には数個の菓子と、幻想的な蒼を纏う花を挿した花瓶が置かれていた。



 ――――夢のように、楽しい時間だった。



 掃除された床に清潔なベッド。ウェルエーヌは、磨かれた窓の脇に立ちながら、夜空を眺めていた。

 夕方までは晴れていたのに、今は雲が星を隠している。月だけが、雲を寄せ付けずに輝いていた。


 今日一日を振り返る。


 彼と過ごした時間は温かくて、輝いていて、何もかもが楽しかった。


 こんな穏やかな日々が永遠に続いてくれたら、どんなに幸せだろうか。


(でも……私は……)


 現実を確かめるように、窓ガラスに左手で触れる。



 そう、分かっている。それは――――叶わぬ願い。



「私は……ここに居てはいけない……」



 ガラスに映る自分に言い聞かせるようにして呟く。



 本当は、もっと早くに姿を消さなければならなかった。

 彼に関わってはいけなかった。

 会うことすら、許されないことだった。



 苦しいほど理解していた。納得していた。



 ――――それでも、



『綺麗な花だな……。見た目も、名前も』


『大丈夫か? ウェルエーヌ?』


『さん付けは止めてくれって、前言っただろ?』



 ……居たかった。


 ただ、少しでも長く――――彼の側に居たかった。

 優しい笑顔を、瞳を、見ていたかった。


 

 そして――――もしかしたら、思い出してくれるかもしれないと、



「なんて、自分勝手――――」

 白銀の光を放つ月が、カインドネスという街を照らしている。

 外を歩いている人はいないようだった。

(いつまでもここにはいられない。近いうちに、どこか遠いところへ行かないと……)

 彼は薄々何かを感づき初めている。名前を誤魔化したのは正解だった。

 本来なら明日にでも、今すぐにでも姿を消さなければいけない。

 

「でも……もう少しだけ、ほんの少しだけ……」






 ――――彼を、見ていてもいいでしょうか?






 切実に願った、その時だった。


 許されざる罪に罰を与えるかのように、


 頭痛が起きた。



 ――――ズキン。



 針で頭を刺したような痛み。

 何かが蠢き始め、頭の中を広がっていく。



 ――――ズキン、ズキン。



「っ……!?」



 ――――ズキンズキンズキン。



 それは脳から体へと、血管や肺や心臓へ侵入していく。

 だんだんと、頭痛が耐えがたいほどの激痛になっていく。

 それを必死に抑えるように、頭を抱えてしゃがみこんだ。


「だ、駄目……! まだ……私は――――!!」



 ――――ヨコセ。



 ズキンズキンと、

 いつもならすぐ消え去る痛みは、一向に治まる気配がない。


(どうし、て……? 抑え…こめない……)


 瞳から、涙が零れた。


「……ライ……」


 視界が暗転する。

 自分が倒れたことも分からずに、彼女の意識は、


 消えた。


  

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