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The Third Eyes  作者: WAIESU
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蒼き明暗(D)

 

 

「今日は、楽しかったです」

 買い物も全て終え、家に帰る途中。二人は絶えることのない人の群れに紛れて、家路を辿っていた。

 両手いっぱいのパンを抱えた主婦が、子供を連れて通り過ぎていく。敷物を敷いて露店を開いている親父が、腕を組んで寝ていた。

 空では、夕日が街を赤く染めている。

「こんなに充実した一日は、久しぶりでした」

 赤く照らされたウェルエーヌが、嬉しそうに隣を歩く。手には、エレンの花があった。

「俺は疲れたよ」

 苦笑しつつ、巻いているバンダナのずれを直す。正直なライの感想に、ウェルエーヌは微笑んだ。

 その微笑みで、すこし疲れがとれた心地になる。

 話しながら歩いていると、急ぎ足で来た男性がウェルエーヌの肩にぶつかった。


「きゃっ」

「おっと」


 はじかれたウェルエーヌを支える。男性の方は謝りもせずに行ってしまった。

「大丈夫?」

「あ……、は、はい……。ありがとうございます……」

 俯きながら、ウェルエーヌはライの胸に手を当てて離れた。頬が赤いのは夕日のせいだろうか。

「あの……」

「ん?」

 ぽつりと呟いたウェルエーヌに顔を向けると、数種類の感情が混ざった表情で、彼女はエレンの花を眺めていた。

「セリアさんからもらったこの花……」

「エレンの花、だったよな」


「はい。私の母が一番好きだった花が……この花なんです」


 彼女がどんな想いをその花に持っているかは分からない。ただ、とても大切なものだということはライに伝わってきた。

「綺麗な花だな……。見た目も、名前も」



 鮮明に心に映る、蒼い花びら。

 鈴の音のように耳にこだまする、その名前。



「なんだか……変な感想だけど、懐かしい感じがするんだ。始めて見たはずなのに」

「…………」



 気のせいだろうか。

 ほんの一瞬、ウェルエーヌの顔が痛切に歪んだように見えたのは。



「一つ、聞いてもいいですか?」



 ウェルエーヌが、足を止める。


 二歩ほど先に進んでいたライは、彼女に振り返った。



「なんだい?」






「セリアさんのこと……好きなんですか」



 

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