蒼き明暗(B)
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「ありがとうございました。また、来てくださいね」
セリアの元気な挨拶が聞こえる。ライとウェルエーヌは街へ戻り、今はセリアの家に来ていた。
「あとは薬屋だけだな。もう少し経ったら行こうか」
ボベックに渡された買い物リストと書かれている紙をしまう。
今朝ライが丘に行くついでに、ボベックから頼まれたものだった。一人で行く予定だったのだが、ウェルエーヌに一緒に行きたいとお願いされたので、街の案内がてら二人で行くことになったのだ。手袋をはかせたのは、指輪のことを警戒したからである。
「栄えているんですね。朝よりも人が多い」
窓際にあるテーブル、ライの向かい側に座っているウェルエーヌが、窓から差し込む太陽の光を浴びながら、紅茶に口をつけた。その仕草はさながらお嬢様といった風で、思わず見惚れてしまう。
セリアの家の表では花屋を開いていて、ごくありふれた花から、他国でしか咲かない貴重な花まで、多くの種類を扱っている。
ライとウェルエーヌは店の奥の客室に居た。ここからでは売り場の様子は伺えないが、セリアの元気な接客の声が聞こえてくる。
「サンドリア王国内でも三本指に入るくらいだからな。これでも王都に比べたら規模は半分ってところだけど」
ここ数日は、まだ殺人事件や行方不明は続いているものの、平和だった。
セリアは家に戻ったが、昼間酒場に来て夕飯まで作っていくのだから大して変わっていない。
ボベックはいつも通り酒場のマスターとして忙しく働いている。ライもハンターの仕事を再開していた。
おかしなことがあるとすれば、アゼルがここ数日一度たりとも姿を見せないことぐらいだった。
「そうなんですか? この街だって、こんなに広いのに」
そして、ライはウェルエーヌとよく話をするようになった。
「ウェルエーヌは、王都に行ったことがないのか?」
「はい……。私は村から出たことが無かったので……」
ウェルエーヌは悲しそうに遠くを見つめる。その先に、魔物に襲われて既に壊滅した村があるのか。
きっと、平和で穏やかで、いい村だったのだろう。
ライはふと、彼女に出会った雨の日を思い出した。
壊れそうなほど傷ついて倒れていた、あの姿を。