廻る鐘(D)
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遠くから、虫の鳴き声がした。雲は無く月が良く見える。
星も数え切れないほど瞬いていた。
もう少しで満月だなと、アゼルは思った。街道を歩く彼の周りには誰もいない。草木や名も知らない花が所々に生えているだけ。ついさっき短剣や棍棒を持った野盗が数人現れたが、アゼルは全員地面に寝かせてあげた。その時たまたま拾った小銭入れの袋を片手で弄びながら明日の予定を整理する。
(残った依頼はあと三つかー。午前中に泥棒退治のやつ済ましちまって、午後には届け物と……)
仕事の依頼を引き受けて近くの村まで行っていたアゼルは、報酬とは別に、依頼者の家族から夕飯のご馳走まで頂いてしまって機嫌が良かった。街の人と村の人との違いはここである。カインドネスで仕事をして報酬以外に何かもらったことなんて、全然と言っていいほど無い。
(感謝の気持ちが足りねーんだよな)
街の入り口までやって来ると、誰かが壁に寄りかかっていた。
リアナ・ポートゥルだった。
「あら、奇遇ね」
わざとらしい。アゼルは無視してやり過ごそうとした。
「あっ、ちょっと! 待ってよ!」
リアナが正面に回りこむ。逃がしてはくれないようだ。アゼルは露骨に嫌そうな顔をしながら口を開いた。
「何だよ。この前といい、あんたは俺のストーカーか?」
「こんな可愛い女の子のストーカーなら大歓迎でしょ」
「おもしれー冗談だ」
アゼルはリアナの脇を通り過ぎようとする。
「ウェルエーヌ」
「……あ?」
その名前を聞き逃すことができず、アゼルは立ち止まった。
「彼女は危険よ。これ以上関わらない方がいいわ」
「なんでだよ?」
リアナは僅かに考えるそぶりをした。
「それは――――」
「ちょっと、いいですか?」
会話が遮られる。
声に振り向くと、背後から見知らぬ人が近寄って来た。