第一話 濡れた邂逅 nureta kaikou (A)
濡れた邂逅――――――――第一話
鐘が鳴る。一日の終わりを告げ、同時に始まりを告げる音が、夜空に響いた。
その音に溶け込み、一人で人気の無い道を走る。まるで何かから逃げるように。ずっと走り続けていたせいか息はひどく乱れていた。足はもう感覚を失っている。
(ここは……街の中……?)
さっきまで森の中を走っていたと思ったら、周囲の景色にはいつの間にか点々と民家が建っていた。
(良かった……これで……少しは、休めるかな……)
とりあえずどこかで休息をとる事にして、吸い込まれそうな意識を必死で保ちながら街の中を歩いた。
外は少し寒いが、今はそんな事を気にしている余裕は無かった。何気なく、辺りを見回す。周りにある民家の一つ一つでは、家族という温かいものを持った人々が、幸せそうに眠っているのだろうか。
それは当たり前の事なのに、
今の自分にとっては夢のような事。
(……寒いな……)
寝床に選んだ場所は、古びた家の物陰。
そこで意識は途切れ、少女は倒れこんだ。
一滴の涙を、瞳から零して。
□
鐘が鳴る。妖精が紡ぐ歌のように、心地良い音が街に響く。昼と夜の十二時に一回ずつ紡がれる、教会の鐘の音。
「はっ!」
地面を思い切り蹴って相手との間を詰める。太い腕の一撃をかいくぐり、持っている武器を突き刺す。
だが、このくらいで敵は倒れない。
反撃を食らう前に一旦間合いを開ける。俗に言うヒットアンドアウェイ。彼の最も得意とする戦い方である。敵は既にかなりのダメージを受けていた。
再び、地面を蹴る。
最初はキレの良かった敵の攻撃も、今は鈍い。
軽々と少年は相手の懐に飛び込んだ。
「これで――――とどめだ」
ドスッという音と共に、鋭い刃が突き刺さる。
血が飛び散り、体長二メートル程の大きな体が倒れる。
魔物。
人に害をなす怪物。その一匹の息の根が今、止まった。
「さてと……」
魔物を倒した少年が呟く。ツンツンに逆立った金髪、額に白いバンダナ。強い意志を秘めたような瞳はどこか優しい雰囲気も携えており、つんとした鼻や引き締まった唇など、整った顔つきは全体的に爽やかな印象を受ける。
少年は魔物に背を向け、カインドネスの街のざわめきの方へと歩き出した。
(任務終了。帰るか)
ライ・ハルヴァイサー。それが少年の名前である。