廻る鐘(B)
夜になると、ライはすっかり体調も回復し、喉が渇いたので水を飲むために一階の台所へ向かった。酒場の方は今日もたくさんの人が入っているようだった。
マスターを始め、店の人が忙しそうに動いているのが見えた。
台所に入ると既に先客がいた。
「あれ、ウェルエーヌじゃないか」
「ライさん。体の方はもういいんですか?」
ウェルエーヌは椅子に座って、コップに入った水を飲んでいた。自分と同じ目的だったので、少し可笑しかった。
「この通り。それよりウェルエーヌ、さん付けは止めてくれって、前言っただろ」
「あ……ごめんなさい」
ウェルエーヌは恥ずかしそうに俯く。
「いや、謝らなくてもいいけど。ウェルエーヌこそ、体の方は大丈夫なのか?」
「はい。おかげさまで、もう大分治りました。痛みも消えましたし」
「そうか。なら良かった」
ライもコップを取り水を入れる。一気に飲むと喉が潤った。まだ物足りなかったので、水を入れてもう一杯飲んだ。
「あの……」
二杯目を飲み終えてコップを置くと、後ろからウェルエーヌが尋ねてきた。
「どうして……ライは私を助けてくれたんですか」
「どうしてって……。ほっとけなかったから」
「それだけ、ですか?」
真剣な表情。ライは戸惑いながらも思ったとおりのことを喋った。
「そうだ。あのまま放って置いたら命に関わるし、見つけてしまったからには助けるのは当然だろ」
「じゃあ、この指輪がどういう物か……知っていますか?」
話が変わる。ウェルエーヌは左手を掲げた。
細くて綺麗な指。その中指に指輪がはめられている。付けられた宝石が微かに光った。
「いや。魔道具だってことぐらいしか」
「今、ハンターの間では高値の報酬で探されているようですね」
「……知ってたのか」
ウェルエーヌはここへ来てから一度も外に出ていない。前から知っていたのだろうか。
「酒場から、たまたま会話が聞こえたんです」
こちらの考えを見透かしたようにウェルエーヌは言った。
酒場にはハンターもよく来るので、彼らの会話が聞こえたのだろう。