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The Third Eyes  作者: WAIESU
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第三話 廻る鐘 mawarukane (A)

             

                             廻る鐘――――――――第三話


 

 ゆっくりと、意識が戻ってくる。



 どうやら寝ていたらしいと、ライはぼんやり思った。

 瞼が開きたくないと訴えている。最近色々あって疲れているので、もう少し休もうと思った。かすかに人の気配を側に感じながら、ライは再び眠りについた。

 しばらくして、充分睡眠を取ってすっきりしたライは、もう軽くなった瞼を開いた。


「ふああ〜、よく寝たな……」


「ライ!!」


「ん?」

 がばっと、誰かが抱きついてきた。温かくてやわらかい。半開きの目で見てみるとそれはセリアだった。

「ちょっ……!? セリア!?」

 完璧に目が覚める。柔らかな金髪からほのかに甘い香りがし、鼻をくすぐった。ライはぼっと赤面しながら戸惑った。



「……良かった……無事で……」



「え――――?」

 セリアは目に涙を溜めながら、ライの胸に顔を押しつけていた。ライはいつの間にか自分が自室のベッドで寝ていたことに気が付いた。

「そうか、俺は昨日……」

 昨夜の出来事を思い出す。謎の女から逃げ出して、そのままどこだかで意識を失ったのだ。

「ライ、大丈夫? 怪我とかしていない……?」 

「ああ。このとおり全然大丈夫。ごめんな、心配かけて」

「うん……」

 ライはセリアの頭を優しく撫でた。すると、微かに抱きしめられる強さが強まった。自分をこんなに心配をしてくれた事が、ライは嬉しかった。子供の頃も、セリアはライが怪我をして帰ってきたりすると、軽い怪我でも涙を流して誰よりも心配してくれた。


 と、その時、ガチャリと部屋の扉が開いた。 


「ライ! やっと起きたか! ……って、わりい、取り込み中だったか」

 アゼルが部屋に踏み入れた一歩をサッと戻して、そのまま出て行こうとする。

「邪魔したな。ごゆっくり」

「お、おい! 待て待て待て!」

 慌てて呼び止める。セリアが頬を染めて俯きながらライから離れた。

 少し名残惜しかった。

 しばらくして、ライが起きたということを聞いて、ウェルエーヌとボベックがやって来た。ボベックはライの元気な姿を確認するとほっとしたように肩を撫で下ろし、

「お前にもしもの事があったら、ミジェイに顔向けできん」

 と言って、すぐに仕事へ戻っていった。忙しい中、わざわざ様子を見に来てくれたのだろう。

「体は大丈夫ですか?」

 ウェルエーヌが心配そうにライの顔を覗く。ライは大丈夫と言って微笑んだ。


「おい、お前も入って来いよ」


 と、アゼルが後ろを向いて誰かを呼んだ。

 ずっと廊下にいたのだろうか。見知らぬ女性が入ってきた。


「ええっと、こんにちは。何か入るタイミングが掴めなくって」


 明るくさっぱりした感じで、どこか大人びている人だった。黒髪黒目。ボタンを開けた絹の服の下に、ヘソを覗かせた布の服を着ている。短いスカートと、露出された胸元がスタイルの良さを強調し、色は上下黒一色なのだが彼女には違和感なく似合っていた。

「俺も昨日会ったばっかりなんだが、魔法を使ってお前を助けてくれた女だ。名前は……えーとだな、忘れた」

「ちょっと! 失礼じゃない? これで四回目よ」

 女の子はアゼルに文句を言った後、気を取り直してライの方へ振り向いた。ポニーテールの長い髪がさらりと揺れる。

「始めまして。あたしの名前はリアナ、リアナ・ポートゥルよ。よろしくね、ライ・ハルヴァイサー君」

「ポートゥル? それってどこかで……」

 ライが反応すると、リアナは感心したように言った。

「あら、すごい! よく気が付いたわね。その通り。私はメテュリーナ姉さんの妹よ」

「娘か孫の間違いじゃないのか?」

 と、アゼル。場が一瞬しんと静まった。リアナが真面目な顔をしてアゼルの方を向く。


「今の……姉さんが聞いたらあなた、殺されるわよ」


 アゼルが押し黙る。ライも、同感だった。セリアとウェルエーヌはメテュリーナが誰だが分からないので首を傾げていた。

「まあ、それはさておき、早速聞きたいんだけど……昨夜、あの場所にいた理由」

 誰もが待っていた本題に入る。ライは寝起きでまだ冴えていない頭を回転させ記憶をたぐり、言葉を紡いだ。

 夜、何気なく外に出て、空を横切る誰かと目が合ったこと。

 その後意識がおかしくなってふらふらとどこかへ歩き出したこと。

「あれは『魅了の魔眼』だと思う。それで俺はあの廃墟に誘われたんだ」

「『魅了の魔眼』……?」

 セリアとウェルエーヌが、はてなマークを浮かべている。

「目が合うと心が奪われ、相手に興奮、欲情してしまうなどの効果を持つ眼のことね」

「簡単に言えばめちゃくちゃに惚れらせるってことか」

 知識があるらしいリアナと、分かっているのかどうか怪しいアゼルとがそれぞれ言った。

「そうだとしたら……よく理性を取り戻せたわね。よほどの意志の強さを持ってなければまず無理なことよ。誰かが肩をゆすったり頭を叩いたりすれば別だけど、あたし達がついた時、他に人はいなかったわ」

 疑問を持った視線をリアナが向けてくる。ライは黙った。

(セリアの声が聞こえた……とは言いにくいような)

 普通に考えるとそれは色々とまずい気がする。恥ずかしい気がする。別に言わなくてもいいだろう。

(よし、言わない!)

 だが、そう――――あの時、たしかにライの耳、いや『頭』に、セリアの声が響いた。何故かは分からない。ライもセリアも魔法は使えないし、テレパシーなんていう超能力は持っていない。

 ライが黙っているのを、『分からない』という答えに解釈したのか、リアナは追及してこなかった。

 それからリアナは三十分程で帰ってしまった。結局、ライを襲った女の正体については何も分からなかった。

 リアナがどうして街の外にある廃墟まで来たのか疑問だったが、彼女は廃墟にとてつもない魔力を感じて怪しいと思い来ただけらしい。メテュリーナの妹だけあって、魔力に関しては能力が高いようだった。ついでにアゼルは興味本位で彼女について行っただけのようだ。


 そしてライは、密かに思った。


 リアナ・ポートゥル。



 彼女は、あの廃墟にいた女について何か知っているのではないか、と。


  

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