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The Third Eyes  作者: WAIESU
16/40

象牙の塔(G)

 

 

     □


 頭が、


 体が、


 全てが熱い。



 とても熱い。






 このまま、溶けてしまいそうなほどに。






「いらっしゃい。久しぶりね。貴方から会いに来てくれるなんて、嬉しいこと」


 女が何か言っている。魅惑的な声が脳に直接響き、興奮させる。



 ――――なんて、美しい。



 意識が、

 女に集中する。

 視線を女から外せない。外したくない。

 近くに行きたい。近付きたい。

 肌に触れたい。抱きたい。


 欲望が、暴れだす。


 ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン。


 鼓動は休まることなく鳴り続く。



「さあ、おいで……」



 女が両手を前に出す。吸い込まれるように、ライは歩き出した。


「貴方は私の物よ……」


 ピシャピシャと、

 水溜りを踏む音がする。


 血で足が赤く染まったが、どうでもいい。

 人間の死体を蹴っても、転がっている内臓を踏み潰しても、気にならない。

「さあ……早く……」

 女の目の前まで来た。


 差し出された腕の中に倒れこむ――――



『ライ……』



 ふと、

 閃光のように、

 小さく、しかしはっきりと誰かの声が聞こえた。眼前の女ではない。幼い頃からの、聞き慣れた優しい声。




 それで、醒めた。




「―――――――――!!!」

 体が反射的に動いた。倒れこみながら強引に体をひねり、女の腕を逃れる。そのまま地面を転がり反動を使って起き上がった。服やバンダナが地面の血を吸って赤く染まっていく。


「俺に……暗示をかけたな……!」


 相手から距離をとる。軽く眩暈がして無理矢理振り払った。

 妖しい微笑を崩さず、女は目を細める。

「あともう少しだったのに。残念」

「何のつもりだ!」

「何のつもり? そうねぇ……」

 女は、顎に手を添えて考える仕草をする。

「復讐、といったところかしら」

「復讐?」

 疑問に思って、ライは記憶をたどった。今まで出会った人の顔はそれなりに覚えているつもりだったが、

 

 この女を見た事は無かった。無いはずだ。


(でも、この女性……どこかウェルエーヌに似ているような……)

 冷静に観察すると、顔が心なしかウェルエーヌに重なる。髪の色に至っては同じ蒼色だった。

「アハハ!! おしゃべりはおしまい。方法は変わったけれど、あなたを殺してあげる」

 女が手を挙げると、空間に異変が生じた。この気配にライは覚えがあった。

(魔法!?)

 突如、黒い波動が自分の立っている場所に飛んでくる。ライは真横に跳んだ。さっきまでいた場所の地面がえぐれ、穴が開いた。

(まずい……! こっちは武器が無い。素手で勝てるか……!?)

 再び黒い波動が襲ってくる。今度は三つ。

「くっ!」

 横一列に並んで放たれたそれを、飛びのいてかわす。幸い、俊敏さと回避力には自信があった。だが、このまま避けていれば、いずれ体力は無くなる。接近戦に持ち込もうと相手に近寄るが、魔法で牽制された。

 女はさっきから微笑を崩さない。

「この程度? あの時のあなたとは大違いだねぇ。どうしたの?」

 何の事を言っているのかライには分からない。

 ライの頭はこの状況をどう突破するかでいっぱいだった。思考を巡らせていると、突然女がシャボン玉のような球体に包まれた。

「今のうちに逃げて! あれが相手だと結界は一分も持たないわ!」

 遠くから声が聞こえた。助けてくれるらしい。ライは心の中で感謝した。

「……くだらない真似だこと」

 女はその球体の中から出られないようだった。ライはこの期を逃さず、全力でその場を駆け出した。


 消えない頭痛を、振り払いながら。

 

 

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