象牙の塔(E)
『痛み』に襲われたのではない。
『衝撃』だ。
「っ……!?」
――――――ドクン。
頭痛とも、心臓の鼓動とも聞こえる音がライの中に響く。
だが脳にも心臓にも病気など持っていない。むしろ、風邪さえ滅多に引かない体質だった。
音がするたび、物凄い激痛がライを襲う。
――――ドクン、ドクン。
「な、なんでっ……!?」
一体、この身に何が――――
「あ、ああ、ああああアア、ア、ガ」
何、が――――
「あああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
――――痛い。
あまりにイタクテ耐えられない。
混乱する。
暴走する。
錯乱する。
「………………」
アタマが破裂しそうだったからか、
「………………………………」
中からグシャグシャになりそうだったからか、
「………………………………」
朦朧とする意識の中、
痛みから逃れるように、足が勝手に動いた。
――――ドクン、ドクン。
ヒタヒタと、
夜のマチを、
歩いている気がした。
どこをどう歩いているのかは、
解らなかった。
自分が何をしに行こうとしているのかも、
ワカラナイ。
導かれるようにただひたすら、
歩いた。
――――ドクン、ドクン。
気が付けば、誰もいない廃墟に立っていた。
――――ドクン、ドクン、ドクンドクンドクンドクンドクンドクン。
鼓動が早まる。
荒れた地面を踏み、瓦礫の山を通り越した。進むにつれ、濃厚な香りが漂ってくる。
知っているにおいだった。
地面が赤くなっていた。
ああ、綺麗だなと、
ライは思った。
目の前には赤い大きな水溜り。あちこちに肉塊が散らばっていた。
死体の山。
手や足だけのパーツ。
えぐられた内臓、頭蓋骨……
全て、人間のものだった。
「――――いらっしゃい」
そして、血の水溜りの中央で、
不気味な笑みをたたえた女が待ち構えていた。