象牙の塔(C)
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カツカツと、階段を上る音が響く。壁はぼろぼろであちこちに蜘蛛の巣が張り巡らされている。天井は今にでも崩れてきそうだった。いくつかの階段を上り終えると、通路に数個の扉が並んでいる。
その中の一つを開けた。
室内は、完全な闇だった。何も見えない。
だが、そこには確かに何かがいる気配があった。
「時間ちょうどだな」
声だけが聞こえる。男の声。
「……ああ」
簡単に答える。敬語を使う事に彼は慣れていない。使う気になった事すらもない。
すると、真っ暗な視界に丸い光が輝き、人間の顔と文字が浮かび上がった。
「ターゲットはこいつだ。居場所はカインドネスの街。詳しい居場所は自力で探せ。他の二人はとっくに向かったよ」
「……了解」
彼はそれだけ言うと部屋を後にした。扉から出るとき、背中から声がかかる。
「一応言っておくが、手段は問わない。必要なら誰を殺しても構わん。まあ、責任は取らないがな」
返事はしなかった。ただ相手からの命令を聞き、任務を遂行するのみ。少なくとも今は。
外に出る。深い森。複雑に絡み合う枝のせいで空はよく見えない。夜になれば、この森は魔物の住処と豹変するだろう。
首にぶら下げている十字架のネックレスに手をやる。
昔の映像が、脳裏をよぎった。
それは温かくて、同時に残酷なほど冷たい、過去の記憶。
後ろを振り返ると、森と同化しているような廃城の姿があった。