聖なる夜に
クリスマスに触発されて息抜きに書いてみました。
初短編です。
後半主人公がすごくネガティブです。
苦手な方はご注意を。
遅ばせながらメリークリスマス!
白い粉雪がちらちら舞う季節
今日は聖夜
恋人たちの日だ
けれど私には関係ない
何故なら恋人がいないから
会う約束をしているのはもちろん友達
ただし異性なんだけれど恋人とかでは全くない
待ち合わせ場所は地元でも有名なイルミネーションスポット
行くさながら周りを見回すと見事にカップルだらけだった
雪が降り始めた
奴はもう来ているに違いない
急がねば
待ち合わせ場所に着くと奴はもう着ていた
「ごめん、待たせた」
「俺も、今来たとこだから」
″今来たとこ″これは嘘だ
どんなに待たせても笑顔で″今来たとこだから大丈夫″と言うのが奴の癖だ
証拠に鼻の頭が少し赤くなっている
奴の癖は幼稚園児の頃から何も変わらない
私にだけは何でも笑って大丈夫と言う
無性に私を心配させる奴なのだ
「寒かったでしょ?」
「全然寒くないよ」
またクセがでた
小刻みに震えながらもよく嘘をつけるものだ
ため息を吐きつつ自分の巻いていたマフラーを奴に巻いてやる
「寒いから俺はマフラーなんてしなくていいんだよ」
慌てるあまり支離滅裂なことを言っている
「黙って付けときなさい」
ビシリと言い放つと奴はにへらと相好を崩した
何だかんだ言いつつ寒かったのだろう
奴が約束の30分前には必ず集合場所に来ることを失念していた
行こうと促すために腕を引く
不意に指先が触れ合う
奴の指は氷のように冷たかった
まさかとは思うがいつも以上に早く着ていたのではあるまいな
呆れ半分に自分の右手の手袋を取り奴の右手に嵌める
手の大きさが合わないのは仕方がない、我慢してもらおう
奴の左手を右手で取り重ねて奴のポケットに滑り込ませる
これで少しは体温が戻るはずだ
歩き出すと奴は立ち止まったままその場を動かない
右手で顔を覆ったままぽつりと何事かを呟いた。
「反則だろぉ…」
吐息ほどの声は私の耳には届かなかった。
「どうしたの?」
奴の顔が心なしか朱くなっている気がする
早く温かいところに行かねば凍死してしまうかもしれない
「アンタが凍死する、早く店に行こう」
のろのろと動き出す彼を強引に引きずってでも連れて行く
待ち合わせ場所から少し離れたところにあるレストランに来た
今日は恋人がいない寂しい私と奴でクリスマスを祝うのだ
寂しい独身同士慰めあおうという影の名目もあったりする
コース料理が運ばれてくる
とても美味しい料理に舌鼓を打って奴に話しかければ半分上の空で碌な返事をしない
どうかしたのだろうか
先ほどから朱くなったり蒼くなったり百面相している
奴が苦手な食べ物は出ていないはず
いったいどうしたんだろう?
食べ終わってレストランを出る
あとは帰って寝るだけだ
すると突然「公園によってもいい?」と奴が恐る恐る聞いてきた
そういえば公園には大きなツリーがライトアップされていたんだっけ
だから食事中行きたくて、どう切り出そうか悩んで上の空だったのか
納得納得
公園まで他愛ない話をしながら歩く
何故か手は繋がれたまま
すると不意に奴が気になることを聞いてくる
「ツリーのジンクスって知ってる?」
「何それ?気になる」
私はジンクスや伝説が大好きなのだ
前のめり気味で問うと曖昧に濁されてしまった
着いてから教えてあげる、だそうだ
楽しみも増えでご機嫌で道をゆく
公園に着くとまばらにカップルの人達が居た
リア充爆ぜろ
そんな暴言を吐きたくなるほど傍から見ても空気がラブラブパッションピンク色だった
思わず呟いてしまった私は不可抗力だ
隣で奴が声をかみ殺して笑っている
笑いが収まると真面目に表情を改めて奴はサンタもびっくりな爆弾を落とした
「好きなんだ、俺と付き合ってください」
突然のことで頭の中が真っ白になる。
何も考えられない
それはずっとずっと欲しかった言葉
ずっとずっと言いたかった言葉
友達だからと一生諦めていた言葉
関係を壊すのが怖くて言えなかった言葉
私はずっと奴が好きだった
思わず瞳から暖かい雫が落ちる
自分でも気づかないうちに泣いていたようだ
はらはらと次から次へと止め処なく溢れていく
″嬉しい″という感情しか感じられない
でもふと思う
私の″好き″と奴の″好き″は同じ感情なのだろうか?
小さな不安は瞬く間に大きくなった
何処かに付き合って欲しいだけなのかもしれない
考えれば考えるほどそうとしか思えなくなってきた
さっきとは違う意味で泣いてしまいそうだ
「何が好きなの?何処かに行くなら付き合うよ」
涙を拭きつつそう言ったとたん奴の顔は真面目から
一変ものすごく不機嫌そうな顔になった
「何言ってんの?俺の告白をどう聴いたらそうなるわけ?」
滅多に怒らない奴だけに威圧感が半端じゃない
奴はキレると口調が荒っぽくなるのだ
「こく、はく?」
何故怒っているのだろう?
告白ってどういう意味だっけ?
「俺はお前に愛してるって言ってんの」
″愛してる″
「嘘だ!」
奴が私を愛してる?
そんなことがあるわけない
自慢じゃないけど私は男勝りな女だ
今まで女に見られたことなど一度だってない
たから誰かが私を好きになんてなるわけがない
だからきっと奴も何かの間違いに決まってる
気の迷いだ
無意識に口に出していたのだろう
奴の顔がすごい剣幕だ
私のことをぎゅっと強く強く抱きしめる
奴はぶっきら棒に泣き笑いのような顔で言葉を紡ぐ
「初めて会った時から好きだったんだ…俺の本気信じてよ」
最後の方は懇願するように
奴は私の肩口に顔を埋めて頭を擦りつけばがらお願いと静かに涙を流していた
そこまでされて信じないわけにはいかない
涙を拭い奴の瞳を覗き込みながら精一杯の笑顔を見せる
奴がこれ以上不安にならないように
「私もアンタのこと愛してる」
くしゃっと歪めた泣き顔がただ愛おしい
抱きしめ返しながら想う
これから奴を目一杯愛そう、二人で幸せになろう
聖夜、恋人たちの日
私たちは初めてキスを交わした
甘くて優しい、ほんのちょっとだけしょっぱい
一生忘れることができないだろう思い出
キスの後、奴が照れながら教えてくれたツリーのジンクス
“ツリーの前で愛を確かめ合ったカップルは永久に共に居られる”
これからはたくさん思い出を創ってゆこう
永久にともに……
読んでくださりありがとうございました。