言ノ葉師 5
~~「愛してる。」
新しく地上波になったテレビの中から聞こえてくるのは、
フィクションストーリーのラストシーン。
最早口説き文句でしかない台詞は、言の葉ならぬ枯れ葉のようだ。
もう現代に魂の入った言の葉は存在し得ないのであろうか…
ふと悲しく思うこの世に救いを求めるならば、
一体何だと言うのだろう。
~♪
奏でる音色に乗せた言の葉。
その聖なる人の心を乗せた音だったら、
きっと世界の中で1人は耳を傾けてくれるのではないか。
昔、1人の青年がギター片手に言の葉を唱えた。
思いを込めぬとその言の葉はただの無機質な音でしかない。
だから、言の葉を音に込めて贈るのだ。
そうして現代の“歌”が誕生した。
そう、言ノ葉師という存在が消えても、言ノ葉師の魂はまだ存在していたのだ。
しかし現在、それ故に多くのアーティストが存在する。
そのため、誰が本物なのかということもわからず、
また、それを見分ける者もいなかった。
彼もまた、その中の1人であるのかもしれない。
ギター片手に駅前の一角に座り込む1人の青年。
今までに書き上げた作詞作曲の紙切れは、全部ギターケースの奥に埋めた。
どんな格好いい言葉を並べても、それは一体、誰の心に響いているのだろう・・・。
青年は葛藤していた。
そんなある日・・・・
「ねぇ、これ、いい歌詞ね。」
え・・・?
ふと顔を上げると、一人の女の子がいた。
「ねぇ、知ってる?
本物の言葉はね、
想いを込めれば、人の心に必ず伝わるのよ?」
END
。




