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第9話「誰かがいた証」


長らくお待たせしました。第9話です。






「さ、中へどうぞ」

「失礼します」


 慧音さんは部屋の戸を開けると、道を譲るように脇に退いてくれた。僕は慧音さんに一礼をして、部屋の中へと入る。僕が部屋の中に入ったのを見て、慧音さんも中に入り戸を閉めた。


「へぇ、こんな風になってるんだ」


 僕は部屋の中を見回してそう呟いた。部屋は和室のような所で、真ん中から少し後ろに下がった辺りに文机が置いてある。見るからに書斎だろう。

 部屋の隅には、色んな本が積み重なって置かれている。見た感じ、かなり昔の本だろうか。……なんか、見たくなってウズウズしてきなあ。後で読ませてもらおう。


「どうぞお座りください」

「あ、はい。失礼します」


 慧音さんは文机の後ろ側に行き、正座でその場に座った。僕もその辺の空いている場所に座り、松葉杖を横に置いた。僕が座ると、慧音さんがこちらを見て話をし始める。


「さて、改めて初めまして。私は上白沢慧音。ここ、寺子屋で主に歴史を子ども達に教えています」

「あ、ご丁寧にどうも。えー……僕ももう一度自己紹介しますね。僕は春霞桜花。こっちに来る前は大学生をしてました」

「大学生……ですか?」


 大学生はなんぞやと言わんばかりに、慧音さんは首を傾げる。そっか。幻想郷には大学はない……のかも。


「えっと、大学生って言うのは……というか大学って言うのは……まあ、昔で言う私塾や学問所みたいな所です。そこに通っていました」

「ああ、なるほど。私塾ですか。そんな所が外の世界にはまだあるのですね」

「はい。中々楽しい場所ですよ。自分のやりたいことが出来たり、学びことを専門的に学べるので。まあ、その代わりお金はかかりますけどね」


 僕は苦笑いをする。確かに自分のやりたいことができて楽しい場所だけど、お金がかかるのが苦なんだよな。まあ、仕方ないことなんだけど。

 ……そういえば、ここに永住することになったら、学費どうなるんだろう。……なんか後が怖くなってきたから、考えるのはやめとこ。


「そうなんですか。私が通っていた頃とは大分違うみたいですね」

「ええ、まあ……って、え? 慧音さんも大学に通ってたんですか?」

「はい。学問所の方に5年程度通ってましたよ。儒教を学ぶのが楽しくて楽しくて……気付いたら5年も経っていました」

「それは凄いですね……」


 僕は苦笑いをする。気付いたら5年も経っていたって……凄い。それ程、慧音さんは知識欲があるってことなのかな。


「さ、そろそろ本題に入りましょうか。これからどうすればいいのか、そんな話でしたよね?」

「え? あ、はい。そうです。こっちに暮らすにしても、まずは何から始めればいいのか分からなくて……」


 僕は頭をかいて苦笑いする。暮らすにしても、まず何をすればいいのかが分からない。例えば住民登録とか。……まあ、幻想郷にそんな物はないと思うけど。


「そうですね……とりあえず、まずは住む家でしょうか」

「ああ。住む家ですか……でも、あるんですか?」

「はい。あるにはありますよ。ですけど……」


 慧音さんはそこで言葉を切って、僕を見つめる。そして数秒した後に、また話を続けた。


「……1人暮らしだと、少し大変なのではないでしょうか?」

「大変? 何がですか?」

「基本的には家事です。後はその……ですかね?」

「? よく分かりませんが、家事とかなら大丈夫ですよ。僕、向こうでは1人暮らしでしたからし」

「え、そうなんですか?」

「はい。ですから心配はいりませんよ。料理もある程度できますし」


 一応、家事は一通り出来るし、料理も少しなら作れる。だから多分、こっちでもとりあえず1人暮らしは出来ると思う。

 心配があるとすれば、この時代の(江戸時代辺りの)道具を使えるかどうか。今まで見た感じ、今の(平成の)道具は一切見かけといない。だから多分、昔の道具が主流だと思う。それを使いこなせるかが、ちょっと心配だ。


「そうですか……まあ(ちょっと心配ですが)そういうことでしたら、大丈夫でしょう。それじゃあ早速、空き家を見に行ってみますか?」

「え、今からですか?」

「はい。何かこの後、予定でもあるのでしょうか?」

「いや、別にありませんけど……まあ、はい。分かりました」

「それでは早速案内しますね」


 慧音さんは立ち上がって戸の方へと向かい、部屋から出た。僕も松葉杖を手に取って立ち上がり、部屋から出る。

 僕が部屋から出ると、慧音は部屋の戸を閉じて、ついて来てくださいと言い、寺子屋の玄関へと向かい始める。僕は慧音の後をついて行った。







 ……。


「あれ?」


 僕は目の前の光景を見て首を傾げる。いや、別に目の前の光景が不可思議だったからとかじゃない。相変わらず、里の風景はため息が出るほど綺麗だ。

 ただ……なんか不思議だ。僕は後ろに振り返り、寺子屋があるのを確認してからまた前を向く。そして首を再び傾げた。


「桜花さん、どうかしましたか?」


 と、僕の様子が気になったのか、慧音さんが話しかけてきた。


「あ、いや……その、なんて言うか……空き家、すぐそこだったんですね」

「? ああ。そういえば、寺子屋のすぐ近くでしたね」


 僕らの目の前には、他の家とは違う家が建っている。僕が首を傾げた理由、それは空き家が意外にも、寺子屋のすぐ近くあったからだ。

 よくよく考えてみれば、そんな不思議に思うことではないのだろう。だけど、何故か不思議に思ってしまった。多分、無意識にそうリアクションしたのだろう。


「……まあ、どうでもいいか。ところで慧音さん。どうしてこの平屋だけ周りの平屋と違うんですか?」

「違う?」

「なんて言うか、他の平屋より近代的というか、洋風じゃないですか」


 目の前の平屋だけ、周りの家より近代的な感じがする。ちょっと場違い感あるというか、違和感を覚える。それと、ここだけなんで隣と少し離れてるんだろう。ま、それはどうでもいいか。


「ああ。確かに他の平屋とは色々と違いますね。多分、前に住んでいた人の趣向でそうなったのでしょう」

「前に住んでいた人?」

「はい。アナタと同じように、外の世界から来た人でした。その人が住みやすいようにと、色々と改装してこうなったのでしょう。そういうのが好きな方でしたから」


 慧音さんは何か思いふけるような顔をして、そう静かに語った。前の人が改装してこうなったんだ。うーん……改装とかが好きな人か……きっと、建築関係に詳しい人だったんだろうな。


「……そういえば、あの人と桜花って似ているよな……」

「ん? 何か言いました?」

「あ、いえ。何も言ってないですよ。それより中へどうぞ」

「? 失礼します」


 慧音さんは家の扉を開け、中へと入っていく。僕もその後に続いて、玄関の中へ入っていった。

 玄関の中へ入ると、開いたドアの先に茶の間が……いや、見た感じリビングルームかな? とにかく、そんな所が見えた。

 慧音さんは靴を脱いで中へ上がる。僕も一旦座って靴を脱ぎ、ハンカチで松葉杖の先を拭く。そして立ち上がって、中へと入っていった。


「うわあ、綺麗だな……」


 リビングルームに入って最初に出た一言がそれだった。家具などがないのはもちろんだが、埃やカビも切見当たらない。まるで新築の家と同じくらい綺麗だ。


「空き家なのに綺麗なんですね」

「ええ。たまに霧雨店の人が来て掃除をしているみたいなので、それで綺麗なんだと思いますよ」

「ああ、なるほど」


 それなら綺麗なのも頷ける。多分、家の隅々までしっかりと、丁寧に掃除してるんだろうな。だからこんなに綺麗なんだろうな。……って、ん? "霧雨"?


「あの慧音さん。今、霧雨って」

「あ、そうか。霧雨の親父さんにこのこと伝えなきゃいけないのか。桜花さんすみません。ちょっと出掛けて来ますので、少しゆっくりしていてください」

「え、あ……はい」

「それでは」


 慧音さんは急ぎ足で玄関に向かい、靴をはいて家の中から出て行った。大家さんに会いに行ったのかな?


「霧雨店かあ……」


 その言葉を呟いた瞬間、魔理沙さんの顔が思い浮かんだ。そういえば、彼女の名字は霧雨だった。何か関係があるのかな?

 そのことが気になって、慧音さんに聞いてみようと思ったんだけど……聞く前に行っちゃったや。まあ、また後で聞けばいいか。


「……ん?」


 ふと見た先にあった柱に、何やら文字が彫られていた。前に住んでいた人が彫ったのだろうか。僕は気になり、その柱に近づいてその文字を見る。


「えと『私がいた証をここに刻もう。いつか帰るために。春×××』ありゃ」


 春の次から文字が潰れていて、それ以上は読むことが出来なかった。でも、これが人の名前だとなんとなく分かる。多分、前に住んでいた人が、何かのためにこの柱に文字を彫ったのだろう。

 私がいた証……察するに、この家から出る時に彫られたのかな。こう、私はここに住んでいましたよ、みたいなことを残すために。でも『いつか帰るために』ってのがよく分からない。また戻ってくるよって決意で彫ったのかな。


「あ。まだ続きがある……」


 刻まれた文字の下を見ると、まだ何か文字が彫られていた。僕は腰をかがめて、そこの部分を見る。

 だけど、そこはほとんどの文字が潰れていて、何が彫られていたのかまったく分からなかった。何が刻まれたのだろう。すごく気になるなあ……


『ヒュー……コトン』

「ん?」


 ふとした瞬間に、上から何か落ちてくる音がする。音がした方向に振り向いてみると、そこには何かが落ちていた。僕は近づいて、落ちていた物を拾い上げる。


「……絵札?」


 僕が拾い上げた物は、木で出来た絵札のような物だった。中央には少女が泣きそうな顔で寝ている姿が描かれている。なんだろこれ。なんでこんな物がここに?


『おやすみ』

「え?」


 絵札を見た瞬間、どっからか声が聞こえた気がした。僕は絵札から目を離して、部屋の中を見渡す。……誰もいない。いるのは僕だけだ。もしかして、絵札から聞こえたのか? 僕はまた絵札を見る。


「……え?」


 絵札を見た瞬間、僕はおかしなことに気づいた。それは寝ている少女の顔が微笑んでいることだ。さっきは泣きそうな顔をしていた。なのに、今は微笑んだ顔になっている。なんで? どうして……


「あ……れ?」


 なんだろう……絵札を見てたら、段々と頭の中がぼんやりしてきた。視界がぼやけて、目の前が暗くなっていく。どうしてだろう……体がなんか軽くなって……


「あぅ……」


 ドサッと何かが倒れる音と一緒に、僕の思考は途切れ、目の前は完全に真っ暗になった。







\まさに寝落ちっ!/


……はい。すみません。


どうも。風心剣です。

2ヶ月近く更新せずに本当にすみませんでした。次はなるべく間が空かないように更新したいです。


さて、ラストがまさかの展開でした。絵札を見たら意識をなくしちゃったって……ありがちな展開ですよね((ねぇよ


それにしても、描かれていた少女の表情が変わったとは……まさか、何かの妖か!?なんて展開はないです(爆)


はてさて、意識を失ってしまった桜花君。次に目が覚めるとそこは……


次回、第10話「夢の少女」。


それではまた。



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