第8話「幻想の里」
途中で意外な人が出てきます。
※脱字があったので修正しました。そのついでに少し内容を追加しました。
そういえば、こっちの世界に来てから不思議に思ったことがある。それはやけに暑いこと。僕のいた世界は秋だったけど、どうやらこっちは夏のようだ。
「暑い……」
「そうねぇ。昨日よりちょっと暑いかもしれないわね」
霊夢さんは自分の目の前に手を翳し、空を見上げてそう言った。
空は雲1つない快晴。太陽の光がギラギラと僕らを照らす。そのせいか、さっきから額を流れる汗が止まらない。
「本当にあっつぃ……」
僕は額の汗を手で拭う。昨日は寒かったのに、今日は暑い。こんなに温度差があると、参っちゃうなあ……
現在、僕は霊夢さんの案内で、この先にあるという人里に向かっている。神社の石段をやっとの思いで下りて、今は人里へと続く獣道を歩いている最中だ。
この道は妖怪や妖精が出るらしい。妖精は悪戯する程度だから問題ないが、妖怪は人を襲う。だから安全は確保出来ない。そう霊夢さんから聞いた。
「それにしても、妖怪とか妖精の姿が見あたりませんよね」
「あたりまえでしょ。妖精はともかく、妖怪は基本的に夜に行動するの。まあ、例外的な奴ならいくらでもいるけど」
霊夢さんはため息混じりにそう言う。へえ。夜じゃなくても、行動する妖怪っているんだ。というかいたね。紫さんが。
紫さんみたいな妖怪なら、見た目は人となんの変わりもないから、いても妖怪だとは気づかないかも。
「……そういえば桜花さあ。さっきから気になってたんだけど、アンタがついてるそれって何?」
「え? あ、これですか?」
「そう。その銀色のヤツ」
と、霊夢さんは松葉杖を指差して、不思議な物を見る顔をした。霊夢さんは松葉杖を知らないのかな?
「ええと、これは松葉杖っていいます。杖と同じような物です」
「ふーん……随分と変わった杖ね」
「そうですかね?」
僕はあまり変わった杖だとは思わないけど。でも、初めて見たとすれば、変わった杖に見えるかもしれないか。
「なんか歩きにくそうねそれ」
「そんなことないですよ」
むしろ、これがないと歩くことが難しくなる。でも、慣れなかった頃は、確かに歩きにくかった。あの頃は今では考えられないほど不慣れで、しょっちゅう転んでたっけなあ。
「そう。なら大丈夫ね」
「? 何がですか?」
「なんでもいいでしょ。それより、そろそろ着くわよ」
「へ? あ、人里にですか?」
「ええ。あそこが入り口」
霊夢さんは道の先を指差す。指差された先には、茅葺き屋根の2階部分のある門が立っていた。門の左右には、外壁が設けられている。それら全ては木で出来ているような感じがあった。
「あの門が入り口……ですか?」
「そうよ」
「随分とがっちりした門ですね……」
「そりゃそうでしょ。一応、妖怪から里を守るための物なんだから」
「やっぱり、里を襲う妖怪っているんですね。怖いな……」
「は? そんなのいないわよ?」
「……え?」
一瞬、霊夢さんが何を言ってるのか、分からなくなった。里を襲う妖怪がいない……? それじゃあ、門がある意味がないんじゃないかな?
「えと……どうことですか?」
「幻想郷にいる妖怪は里は襲わない。というより、襲ってはいけないの。妖怪と人間が共存するためにね。あ、でも、里の中以外なら普通に人間を襲うわよ」
「そ、そうなんですか……」
幻想郷の妖怪は里を襲えない、か。どうしてかって疑問はあったけど、聞こうとは思えなかった。とにかく、妖怪は人間が共存するために、必要なことではある。そこだけは分かった。
それでも、里の中以外なら妖怪は襲ってくるのか……もし、この幻想郷で暮らすことになったなら、それだけは常に肝に銘じておこう。
「でもそれじゃ、やっぱり門がある必要はありませんよね?」
「いや、あるわよ。稀に幻想入りして間もない妖怪が、人里を襲おうとすることがあるの。その時に、ね」
「ああ、なるほど」
それなら門が必要か。備えあれば憂いなし、ということかな。
『おや、博麗様じゃないですか。こんにちは』
「あら、こんにちは」
「ん? あ」
と、上から男性の声が聞こえた。僕と霊夢さんは立ち止まり、門の2階部分を見上げる。そこには1人の男性がいた。男性は陽気な笑みを浮かべてこちらを見てる。
『今日は里に何か用ですか?』
「ちょっとね。あ、慧音今いる?」
『慧音さんなら多分、寺子屋にいると思いますよ』
「そう。ありがとう。ちゃんと仕事やりなさいよー」
『言われんでもやりますって』
霊夢さんはそれじゃと言って、また歩き始める。僕も後を追うように歩き出す。そのまま僕と霊夢さんは門を潜る。
「え……すごっ……」
僕は目の前の風景を見て驚く。門を潜り抜けると、そこには奇妙な町並みが広がっていた。
建物のは基本的に皆、江戸か明治辺りの風情を残している。しかし、中には現代造りのようなカフェがあったり、洋風造りの花屋があったりと、時代や国関係なく様々な建物が立っている。
町には用水路が敷いてあるようで、水が町中を流れている。水の流れる音は、小川のせせらぎに似ていた。所々、用水路を跨ぐように、小さな和式の渡り橋が架けられている。
その風景はまさに幻想的。またどこか知らぬ異郷へと迷い込んだ。そんな気さえする程に、この町並みは幻想的だった。
「綺麗な場所ですね」
「そうかしらね。外から来た人はみんなそう言うけど、私は普通だと思うわよ」
「まあ……霊夢さん達から見れば、普通に見えますよね」
いつもこの風景を見ながら生活しているなら、普通に見えてもあたりまえか。それでも僕から見れば綺麗な場所だ。
「……決めました霊夢さん」
「は? 何をよ」
「僕、幻想郷に住みます」
「そう。というか、そうしざるおえないでしょ」
「まあ、そうなんですけどね」
元の世界に帰れないんじゃ、結局そうなっちゃうんだけど。でも、こんな幻想的な場所で暮らせるなら、永住するのも悪くないかもしれない。
「あ、霊夢さんじゃないですか」
「あら、小鈴ちゃん」
と、目の前から少女が1人、こちらに歩いてきた。霊夢さんは立ち止まり、つられるように僕も立ち止まる。
少女の髪を束ねている所に小さな鈴がついており、少女が歩く度に鈴が音をたてている。なんとも不思議な人だ。霊夢さんの知り合いだろうか?
「この前はありがとうございました。色々と助かりました」
「別に気にしなくていいわよ」
「そうですか。ところで、アナタは?」
「え、あ、初めまして。春霞桜花です」
僕は少女に会釈する。すると少女はニコッと笑って、自身の紹介をした。
「どうも初めまして。私は本居小鈴っていいます。よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
少女は手を差し出す。それを見て僕も片方の手を差し出し、ぎこちない握手を交わした。あまり、人と握手をしたことがなかったので、少し緊張した。
「あの、つかぬことを伺いますが……その包帯巻きの顔と足はどうされたんでしょうか? まさか、妖怪に……」
「い、いや、違いますよ。これはこっちに来る前からです」
「こっち? もしかして……桜花さん、外来人なんですか?」
「そうみたいです」
「ほへぇ、外来人なんですが……私、外来人の方と会ったの初めてなんです。あ、よかったら鈴奈庵に来ませんか? 是非話を聞きたいので!」
小鈴さんは目を輝かせてそう言った。うーん……どうしよ。僕としてはそれでもいいんだけど、慧音さんって人と会わなきゃいけない気もする。どうしようかな……
「えっと……すみません。今度また機会がある時でいいでしょうか? 今はちょっと大事な用があるので」
「そうですか。それじゃあ、仕方ありませんね。また今度に。時間取らせてすみませんでした。それではまた」
「じゃね、小鈴ちゃん」
「はい。また」
小鈴さんは僕と霊夢さんに会釈して、振り向いて歩き去る。その後ろ姿は、ちょっぴり残念そうに見えた。なんだか悪いことしちゃったなあ……
「ほら、何ぼさっとしてんのよ。寺子屋に行くわよ」
「え? あ、はい」
僕と霊夢さんはまた歩き出す。まあ、今は気にしても仕方ないか。後で時間が出来たときに必ず行こう。
「そういえば、慧音さんってどんな人なんですか?」
「いきなり何よ」
「いや、どんな人が気になって」
「そうねぇ……一言で言うなら、堅苦しい奴かな」
堅苦しい人かあ……てことは、頑固な人なのか? 僕的には堅苦しい人は頑固な人ってイメージがある。もしかしたら、ちょっと苦手がタイプかも。
「ま、普通に話せば大丈夫よ。変なこと言ったりしなければね」
「言ったらどうなるんですか?」
「頭突きを食らうわよ。物凄く痛い頭突きを、ね」
霊夢さんは遠い目をする。その様子から察するに、霊夢さんも頭突きされたことあるのかな。物凄く痛い頭突きか……
「堅苦しいだけに頭も堅いのかな」
「それ、慧音の前で絶対に言うんじゃないわよ」
「へ? あ、き、聞こえてましたか?」
「ええ。今の言ったら、絶対に慧音に頭突きされるわよ。慧音の頭突き、見てる方も痛いんだからね」
「い、言いませんよ! そんな失礼なことは!」
ボソッと言った時点で失礼だと思うんだけど、そこは気にしないことにしよう。
「そう。まあ、どうでもいいわ。ほら、寺子屋に着いたわよ」
「どうでもいいって……って、うわぁ」
目の前に寺子屋が立っている。僕はそれを見て感嘆する。寺子屋は本の中でしか見たことがなかった。やっぱり、本で見る寺子屋と実際に見る寺子屋では、実際に感じられる物が違う。
「中に入るわよ」
「あ、はい」
霊夢さんは引き戸を開けて、寺子屋の中へと入った。僕も段差に松葉杖が突っかからないように気をつけて、寺子屋の中へと入る。その前にちゃんと松葉杖の先は、持っていたハンカチで拭いた。
「広いなあ」
中は思っていたより広く、穏やかでのんびりした雰囲気が漂っている。多分、子ども達がいたら、活発で活気に溢れた雰囲気になるんだろうな。残念ながら、今はいないみたいだけど。
「この寺子屋って広々してますね」
「まあね。ここは里で唯一の寺子屋だからね。里の子ども達は皆、毎日この寺子屋に来てるのよ」
里で唯一の寺子屋なんだ。それならこんなに広いのも頷けるか。きっと、あっちの学校とは違って、みんな仲良くやっているんだろうな。もし機会があれば、授業風景を見てみたいものだ。
「ん? あ、博麗。何してんの?」
横の教室のような場所から、犬耳を生やした少年が出て来た。おまけにきっちり尻尾も生えてる。きっと、妖怪か何かなんだろう。と、霊夢さんは少年を見ると、悪い笑みを浮かべた。
「あら、わんこじゃない。寺子屋で何してるの?」
「誰がわんこだゴラ。俺は犬神だ。バイトしてんだよ」
「そう。ちゃんと働きなさいよ。犬らしくね」
「だ、か、ら! 俺は犬じゃねぇ! 犬神だ! 神をつけやがれ!」
少年はそう叫ぶ。霊夢さん、絶対にわざとわんこって言ってる気がする。とりあえず、この人がわんこ……じゃなくて、犬じゃないのはよく分かった。
「はいはい分かったわよ。それよりさ、慧音いる?」
「絶対に分かってないだろ……慧音さんならその辺の教室にいるよ」
「そう。それじゃあね」
霊夢さんはそう言って歩き始める。僕も歩き出す。と、その瞬間、すれ違い様に犬神の少年が僕に耳打ちしてきた。
「お前の守護霊はやんちゃだな」
「え?」
僕は立ち止まって振り返る。犬神の少年は欠伸をしながら、終わった終わったと呟いて、玄関の方に歩き去っていった。
僕の守護霊はやんちゃ……あの人は何を言っていたのだろう。僕は気になりならがらもまた歩き出し、霊夢さんの後を追う。
「あの、霊夢さん。今の人は?」
「わんこよ」
「いや、そうじゃなくて、名前を聞きたいんですが……」
「ああ、名前ね。さあ。なんて名前でしょうね」
霊夢さんは悪い笑みを浮かべたまま、廊下を歩き続ける。名前くらい教えてくれてもいんじゃないかな……
「おや、博麗のじゃないか」
「ん? あ、慧音」
奥の教室から女性が出てきた。霊夢さんの今の言葉からすると、あの人が慧音さんって人なのかな? だとすると、想像していたのとまったく違う。
「貴女がここに来るとは珍しいですね。何か用ですか?」
「私は用ないわよ。あるのはこっち」
「ど、どうも……」
僕は慧音さんという女性に会釈する。なんか、本当に僕が想像していたイメージとは違う。体格ががっしりした人をイメージしてたんだけど……まったくもってその逆だ。淑やかで、礼儀正しい人に感じる。
「おや、君は……」
「は、初めて。春霞桜花って言います。えと、足と顔は別に妖怪に襲われたからとかでなく、こっちに来る前からです」
「ふむ。そうか。私は上白沢慧音です。よろしくお願いしますね」
「は、はい……よろしくお願いします」
僕と慧音さんは互いを見て会釈する。やっぱり、いい人だ。頭突きをかますような人だとは思えないや。
「それじゃ慧音。後は頼んだわね」
「うむ?」
「え? 帰っちゃうんですか?」
「そりゃそうよ。私がいても仕方ないでしょ」
「まあ……」
「そういうこと。それじゃあね桜花。たまには神社にお賽銭入れに来なさいよ」
霊夢さんは露骨な催促を言って、歩いて来た廊下を戻っていった。
「あー……えーと……」
霊夢さんがいなくなると、何故か一気に気まずくなった。何を言えばいいんだろ……とりあえず、なんで来たのかを言えばいいのかな。
「あのー……そのー……慧音さんに話があって伺いました」
「私にですか?」
「は、はい。実は僕、外の世界から来たんです」
「へえ、君は外来人なんですか。道理で見かけない顔だと思いました」
「それで色々とあって、こっちで暮らすことになりまして……その……」
「なるほど。それで、これからどうすればいいのか分からので私を訪ねた、ということですか?」
「はい。そうです」
僕は頷く。伝えたいことはちゃんと伝わったみたいだ。よかった。
「分かりました。ここで話すのもなんですから、こちらへどうぞ」
「あ、はい」
慧音さんは長い髪を翻して振り向き、廊下の奥に向かって歩き出す。僕も歩き始めてその後をついて行った。
はろはろ。風心剣です。
今回は人里訪問(?)の話でした。
人里の中の風景は個人的なイメージなのであしからず。幻想郷だから幻想的な里でも問題ない気がします。
さて、作中で出てきた本居小鈴ちゃん。新しい東方キャラクターです。
東方鈴奈庵を見た訳ではないので、あまり詳しい設定は知らないです。でもあまりに可愛いので出しました。
それとラストに出て来ましたねぇ。犬神と呼ばれない残念な人が。ちなみに彼はゲスト扱いなので、ストーリーには基本的に関係ないです。
では、今回はこの辺で。
それではまた。