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第7話「深まる謎に」


今更ながら主人公紹介を。


●春霞桜花

京都の大学に通う一年生。黒い短髪。瞳は澄んだ黒色。

ちょっと暗い性格で、あまり自分から進んで人とふれあおうとはしない。

趣味は読書と星空ウォッチング。好きな物はシャチ。






「はいお茶」

「ありがとうございます」


 霊夢さんはお茶を僕の目の前に置く。熱いためか、お茶からは湯気が立ち上っている。こんな暑いのに熱いお茶って……なんて言える立場じゃないか。


「おいおい霊夢。こんな暑い日に熱いお茶なんか出すかよ普通」

「冷たい麦茶とかはないのかしら?」

「うっさいわね。そんなこと言うなら自分達で用意しなさいよ!」


 霊夢さんは怒鳴る。まあ、用意した物に愚痴をつけられちゃ、怒鳴りたくもなるよね。でも……霧雨さん達の言うことも頷けるんだよな。

 そんなことを思いながら、僕はお茶をズズッとすすった。


「あちっ」


 案の定、お茶は熱かった。


 僕は今、神社の中にお邪魔している。本当は神社の鳥居を潜り抜けて、元いた世界に帰っていたはずなんだけど……どうしてか帰れなくなった。

 なんでも、開けたはずの結界が閉じちゃって、外の世界へ続く穴、道のような物がなくちゃったかららしい。

 どうしてそうなったのかを詳しく説明するので、とりあえずということでお邪魔することになった。


「あ。そういえば、まだアンタの名前を聞いてなかったわね」


 霊夢さんは座りながら、そう僕に言ってきた。そういえばまだ霊夢さんやその隣にいる女性に自己紹介してなかったっけ。


「僕は春霞桜花って言います」

「春霞桜花ねぇ……女の子らしい名前じゃない」

「そうですか……」

「私は博麗霊夢よ。この神社の巫女をしてるわ」

「巫女の仕事は殆どしてないけどな」

「うっさい!」


 霊夢さんは横槍を入れた霧雨さんに突っ込む。やっぱり巫女さんだったんだ……でもなんでか、霊夢さんが巫女さんだと納得できないな……ん? 博麗?


「……あの、霊夢さん」

「何かしら?」

「変なことを聞くんですが……もしかしてここの神社って、博麗神社って名前だったりしますか?」

「ええ、そうよ。それがどうかした?」

「あ、いえ。気になったので聞いてみただけです」

「そう」


 博麗神社……本来なら今日、蓮子さん達と一緒に行くはずだった神社……


「……」

「桜花、どうかしたか?」

「え? あ、いえ。別になんでもないですよ」

「? そうか」


 僕は霧雨さんに返事をしながら茶の間の中を見回す。

 蓮子さんが言ってた博麗神社とはまったく違うなあ。厳かな雰囲気がある古ぼけた神社だって聞いたけど……そこまで古ぼけてないし、厳かな雰囲気は全然ない。

 まあ、きっと名前が一緒なだけで、まったく違う神社なんだろう。


「あ、アナタの名前は?」


 僕は霊夢さんの隣に座ってる女性に問いかける。そういえば、まだこの人の名前を聞いてなかった。


「私かしら?」

「はい」

「そう。私は八雲紫。妖怪よ」


 紫さんはそう答えてくれた。紫さんは人間じゃないんだ……まあ、あの時から普通の人じゃないとは、なんとなく分かってたんだけど。でも、まさかの妖怪かあ……


「……」

「じっと見つめたりして、どうかしたのかしら?」

「え? あ、いや、なんでもないです」


 うーん……どっからどう見ても、美人さんにしか見えないんだよなあ。妖怪になんて見えやしない。それでも紫さん本人が言うんだから、妖怪になんだろう。


「あの、紫さん」

「何かしら?」

「紫さんは妖怪なんですよね? 妖怪が神社に居たりしていんですか?」

「どうしてそう思うのかしら?」

「だってほら、妖怪って神社に近づかないらしいじゃないですか。それに退治される側みたいだし……」


 本や伝承で、妖怪が神社や寺の人に退治される話が多い。それもあってか、妖怪は神社や寺には近づかない。近づくのは、わざわざ自分から退治されに行くような物だと聞いたことがある。


「確かにそうね。でも、この神社にそんなことは関係ないのよ。人間だろうと妖怪だろうと神だろうと、この神社は誰でも受け入れるの。この幻想郷のようにね」

「へぇー、そうなんですか」

「ちょっと紫、嘘言うんじゃないわよ」


 と、紫さんの話したことに、霊夢さんが突っ込む。


「確かに幻想郷はなんでもを受け入れるけど、ここはなんでも受け入れないわよ。受け入れられるのはただの人間。お賽銭を入れてくれる人だけよ」


 強い口調で霊夢さんは紫さんにそう言い返す。すると僕の横にいた霧雨さんは笑って、こう霊夢さんに対して言った。


「でも、霊夢は来る奴を拒んだりはしないよな。なんやかんや言って、追い出そうともしないし」

「はあ? 何を言って」

「魔理沙の言う通りね。現に妖怪である私を追い出そうとしないもの」

「そ、それは!」

「それは何かしら?」

「ぐっ……なんでもないわよ!」


 霊夢さんは顔を少し赤くして、そう言い返した。霧雨さんと紫さんはそれを見てクスクスと笑う。

 あまり感情を表に出さない人かと思ったけど、意外とそうじゃないんだ。


「コホン。そろそろいいかしら? 話を始めたいのだけれど」


 霊夢さんは咳払いをして、違う話を始めようと言う。それと同時に霊夢さんは真面目な表情をするが、顔はまだ少し赤い。


「そうね。話を始めましょう」

「それもそうだな」

「じゃあ、始めるわ。その前に桜花に説明しなきゃいけないことがあるわね」

「へ?」


 話が始まった途端に、霊夢さんは僕に話を振る。僕に説明しなきゃいけないことってなんだろう?


「まずはこの世界……と言っても、外とはちゃんと繋がってるのだけど。ここは幻想郷って言うの」

「幻想郷……ですか?」

「そう。外の世界に在るモノが、人々から忘れ去られて"幻想"になると、この世界にやって来るのよ。言わば、忘れ去られたモノが集う世界って所かしら」

「へぇ……」


 忘れ去られたモノが集う世界、幻想郷かあ。ようするに、ニライ・カナイとかみたいな、理想郷なのかな? ここが理想郷なのかは、まだ分からないけど。


「あれ? だとすると、僕は向こうの世界の人達に忘れ去られて、この幻想郷に来たってことですか?」

「さあね。私は分からないわ。なんせ、幻想郷に来るのは、幻想になった奴だけじゃないし。自ら望んで来るのもいれば、生きる希望を失って迷い込む奴もいるから」

「生きる希望を失って……?」

「ええ。そういうのが時たま、再思の道辺りから幻想郷に迷い込んでくるの」

「そうなんですか……」


 生きる希望を失って……それって死にたいと思っているのと同じこと? 僕は自分からここに来た訳じゃない。だとすれば僕は……いやいや、それは考え過ぎだ。そんな訳はない。


「あ。そういや、桜花を見つけた場所は再思の道だったな」


 と、霊夢さんの言葉に反応した霧雨さんがそう呟いた。霊夢さんはその呟きを聞いて、霧雨さんに問いかける。


「え? 魔理沙。それ本当?」

「ああ。確か、道の入り口辺りで倒れていたのを見つけたんだよ」

「そうなの桜花?」

「いや、僕に聞かれても……でも、霧雨さんにはそう聞きました」

「ふーん。アンタ、運がよかったわね」

「へ?」

「彼処ら辺はねぇ、よく妖怪がうろついてるのよ。運が悪いと妖怪にバッタリあっちゃってパクってね」

「……え?」

「だからアンタは運がよかったの。よかったじゃない。無縁塚に行かずにすんで」

「えぇ……」


 運が悪かったら妖怪に襲われていた。そう思った途端、全身から力が抜けた。やっぱり、妖怪は人間を食べちゃうのか……

 そういえば、霧雨さんの話では、僕も妖怪に襲われていたらしけど……僕は助かったのか。だとすれば、本当によかった。


「そういえば、紫がたまに外からを連れてくることがあったわね」

「え? 紫さんが?」

「そういやそうだな。あ。もしかして、紫が向こうから桜花を連れてきたんじゃないか? んで、面白そうだからって」

「そんな訳ないでしょ」


 紫さんは霧雨さんの言ったことをすぐに否定した。


「いくらなんでも、この子を幻想郷に連れてきたりしないわよ」

「ふーん。じゃあ、紫が連れてきた訳じゃないのか」

「あたりまえよ。私だって、ちゃんと見極めてこっちに連れてきてるんだから」


 紫さんはため息をつく。今、さりげなく爆弾発言っぽいこと言わなかった? 見極めて連れてきてるって……最近、行方不明者が出たってニュースが多かったけど、まさか紫さんが原因?

 それと紫さんの言った言葉に、何か引っかかっることがあった。でも、それが何かは分からない。僕は一体、何に引っかかったんだろう?


「ま、何がともあれ、桜花は幻想郷に来たってこと。分かった?」

「なんとなくは……」

「そう。ならいいわ。それで、ここは博麗大結界って結界に覆われてるの」

「結界? えっと、それって領域を区切ったりするときに使う物でしたっけ?」

「まあ、大体そんな感じ。ここはその結界によって、外の世界と隔てられてるの。だから向こう側からは、この世界を見ることも認識することも出来ないわけ」

「そりゃまたすごいですね……」


 今のとさっきからの話を聞いて、改めてここが異世界だと痛感した。結界によって隔てられてる世界か……いかにもファンタジーの話の中に出てきそうな世界だ。


「で、向こうに帰るには、その結界を越えないと行けないの」

「結界を越える?」

「ええ。そのために、結界に意図的な穴を開けて道を創るのよ。その道を通ることで幻想郷から向こうの世界へ帰れるわけ。でもどういう訳か、その穴が塞がって開かなくなってしまったのよ」

「だから僕は帰れなくなった……ってことですか?」

「そんなところね」


 霊夢さんはそう言って、お茶をズズッとすする。

 なるほど。今の霊夢さんの話で、ある程度のことは理解できた。つまり、結界を越えるための道がないから、向こうの世界に戻ることが出来ないってことか。


「ん? だとすると、紫さんのあれはなんだったんですか?」

「あれ? ……ああ、スキマのことね」

「スキマ?」

「ええ、スキマよ。百聞は一見に如かずってね」

「……え?」


 紫さんが指で空間をなぞる。と、そこに切れ目が走って空間が開く。切れ目の奥には無数の眼が光っている。不気味な空間が広がっているように見えた。


「それがスキマ……?」

「そう。これがスキマ。私だけが自由に出入り出来る空間よ」

「不気味……」

「まあ、そうよね。でも、中々便利よこれは」

「はあ……それで、それがさっきのことと何か関係してるんですか?」

「そうねぇ……」


 紫さんが切れ目に手を入れ、中から扇子を取り出す。そしてその扇子を広げる。すると空間の切れ目はみるみるうちに、消えていってしまった。


「私はね、色んな境界線を操れるの」

「境界線?」

「ええ。簡単な例をあげれば、さっきのスキマを使って、空間を自由に行き来出来るの。つまり、私は霊夢がさっき言った結界関係なしに外の世界へ空間を繋げることが出来る」

「空間を繋げる?」

「そうよ。そうすれば、わざわざ結界の道を経由しなくても、外の世界へ帰ることが出来るのよ」

「へぇ……」


 なんか、便利な能力だなあ。それなら行きたい場所にすぐさま行けるし、他の空間に行くことも出来る。


「……でもね、何故か分からないのだけれど、貴男の周りの空間にスキマを開くことは出来なかったの」

「だからさっき、あんな驚いた顔をしてたんですか?」

「ええ。恥ずかしながらもね。でも、なんで結界の穴が塞がったり、この子の周りだけ、スキマが開かなくなったりしたのかしら?」


 紫さんに不思議そうな顔をして、霊夢さんに話しかけた。


「私にも分からないわよ。けど、分かったことは1つだけあるわ」

「分かったこと? なんだよそりゃ」

「桜花の周りに、何か見えない力がまとわりついてるってこと」

「え!?」

「は!?」


 霊夢さんの言葉を聞いて、僕と霧雨さんは一緒に驚く。僕の周りに見えない力にまとわりついてる……?


「それってどういうことだよ?」

「そのままの意味よ。それが何かは分からないわ。ただ、その力が、桜花を護っているように感じるのよ」

「護っている? 僕を?」

「ええ」


 霊夢さんは頷く。僕は見えない力で護っているのか……それって、僕自身に何か特別な力があるってことなのかな?


「霊夢。もしかして、その力が原因で、結界が塞がたり、スキマが開かなくなったってことか?」

「その可能性も否定は出来ないわね」

「おいおいマジかよ……桜花にそんな力あったのか……」

「いえ。ないわよ」

「は?」

「え?」


 霊夢さんの言葉を聞いて、霧雨さんはきょとんとする。それにつられて僕もきょとんとした。


「ないってどういうことなんだよ」

「魔理沙にも分かるでしょ。桜花からは魔力も霊力も神力も感じられないでしょ」

「はあ? ……ああ、確かになんにも感じないな……」


 霧雨さんは僕を見てそう言う。そうなんだ。僕には、なんの力もないんだ。少し残念だな……

 でも、それだと僕を護っている見えない力ってなんなんだろ。


「だとすると、その力ってのは一体なんなのぜ?」

「だから私にも分からないわよ。紫はどう思う?」

「私も霊夢達と一緒。何がなんだがさっぱり分からないわ。ただ、これだけは言えるわね」


 紫さんはそう言うと、扇子を閉じる。そしてニコッと笑ってこう言った。


「桜花。貴男、しばらく幻想郷に暮らしなさい」

「……は?」

「それじゃあ、霊夢と魔理沙。後はよろしくね」

「え? あ、ちょ、ちょっ紫さん!?」


 紫さんはスキマをまた開いて、そそくさと中に入っていった。ちょ、いきなりここで暮らせとか言われても困る……


「まあ、結果的にはそうなるわよね」

「だな。帰れないんじゃ、帰れるまでここで暮らすしかないからな」

「そ、そんなぁ……」


 僕はガクッと肩を落とす。そんな暮らすだなんて……やらなきゃいけないことが沢山あるし、それと大学もあるのに……


「ま、そう気を落とすな。この世界はいい場所だから、桜花も気に入ると思うぜ」

「そんな単純なことで、気を落としてる訳じゃありません……はぁ……」


 僕は深くため息をつく。異世界に来てまさか、暮らす羽目になるなんて……運がいいのかよくないのか、分からなくなってきたや……


「ま、暮らす暮らさないは後回しで、とりあえず人里に行くといいわ」

「人里?」

「ええ。この先にあるのよ。魔理沙、案内してあげて」

「あー……わりぃ。この後、アリスと約束があるんだ」

「そう。じゃ、私が案内するわ。ほら、行くわよ」

「え!? もう!?」

「そうよ。ほら、立った立った」

「はぁ……」


 もうどうにもでもなれ。僕の頭の中にそんな言葉が浮かんだ。あきらめるしかないのだろう。そんな気さえしてきた。

 とにかく、僕は霊夢さんの言われるがままに、立てかけてあった松葉杖を取って立ち上がる。とりあえず、人里に行くだけ行ってみよう。そこでどうするか決めればいいか。

 ……まあ、最終的にどうなるかはなんとなく分かるんだけどね……







はろはろ。風心剣です。


今回は(主に)幻想郷の説明でした。ちょっと簡単な気もしましたが。


さて、一体、桜花君を護っている見えない力ってなんなんでしょうかね。気になります。あ、作中でもあった通り、桜花君に特別な力はありません。普通の人間です。


はてさて、次回は人里へゴー!

それではまた。



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