第6話「塞ぎ札」
やっと幻想郷の主人公登場です。
誰もがいつかは夢見たこと。空が飛べればいいなという夢。僕はたった今、その夢を叶えた。いや、叶えてもらった。
だけど……空を飛ぶことがまさか、ここまで怖いことだとは思わなかった。
「ちょ、霧雨さん! もうちょっとスピードを落としてください!」
「何言ってんだ。スピードはパワーなんだぜ!」
「意味が分からな――うわぁっ!?」
霧雨さんは落とすどころか、更にスピードを上げた。僕は落ちないように更に踏ん張る。そのスピードはもはや、ジェットコースターよりも速い気がする。
「ほら、見えてきたぜ」
「え? あ、あそこですか?」
「そうだ。しっかり掴まってろよー!」
「うわぁぁあっ!?」
下の方に神社な場所が見えた。霧雨さんはそこを目掛けて急降下し始める。いきなりに急降下したため、吹き飛ばされそうになった。だけど肩をしっかり掴んでいたので、なんとか踏ん張れた。
「ちょ、霧雨さんこのままじゃ」
「よいしょっ!」
「わっ!? いでっ!?」
地面に激突すると思った瞬間、霧雨さんは急にブレーキをかける。あまりにも急にだったので僕は踏ん張りきれず、そのまま箒から振り落とされた。
「いててて……」
「おいおい大丈夫か?」
「なんとか……」
霧雨さんは箒から降りると、僕の側によってきて、苦笑しながら大丈夫かと聞いてきた。僕は地面にぶつけた所を押さえながら大丈夫だと言う。
幸いにも地面が近かったので、大したことはないけど……それでもやっぱり痛い物は痛いな……
「ま、大丈夫ならいいか。ほれ」
「あ。ありがとうございます」
霧雨さんは笑いながら手を差し出す。僕は松葉杖をついて、その手を握り立ち上がった。
「さて、なわけで着いたぜ」
「ここが……ですか?」
「ああ。そうだ」
霧雨さんは左に向く。僕もつられて左に向いた。そこにはさっき、空の上を飛んでたときに見た神社が佇んでいた。
「あら。誰か来たと思ったら、魔理沙じゃないの」
と、後ろから女の子の声がする。僕が振り向くと、巫女服のような服を着た少女が箒を持ったまま僕たちを見ていた。
「よう、霊夢。今日は珍しく境内の掃除でもしてんのか」
「いつもやってるわよ。それより……今ここに来るより、今すぐ永遠亭に行った方がいんじゃないの?」
霊夢とかいう少女は、僕をまじまじと見てそう言った。霊夢さんが何を言ってるのかは分からないけど、暴言に近いことを言われたような気がした。
「いや、桜花のはこっちに来る前かららしいんだ」
「こっち? ……ああ、なるほどね。妖怪に襲われてとかじゃないのね」
と、霊夢さんは霧雨さんの言葉を聞いて勝手に納得する。
「ま、それならそれならでいいわ。で、ここに来たってことは、外の世界に帰りたいわけね」
「まあ……そうなりますね」
「そう。じゃ、結界を開いたから、そこの鳥居を潜るといいわ」
霊夢さんは淡々と話し、気だるそうに後ろに立っている鳥居を指差した。
なんか……この少女に対しての第一印象はあまりよくはない。まったく人に対しての興味を持ってなさそうな感じだ。
「……えっと、あそこの鳥居を潜ればいんですか?」
「ええ。そうすれば帰れるわよ。あ、その前にはい」
「え?」
霊夢さんは何故か手を差し出す。まるで何かをよこせと言わんばかりの手だ。僕は不思議に思って顔を傾げると、霊夢さんはため息をついて言った。
「お賽銭はないのかしら?」
「はい?」
「だーかーらーお賽銭よ。お、さ、い、せ、ん」
「……」
……今、僕は思った。あの少女がこの神社の巫女だとすれば、それはきっと何かの間違えたのだろうと。
とりあえず、持っていたお金は昨日全部使っちゃったし、お賽銭は出せないな。
「えー……そのー……今はお金を持ってないんですが」
「あら、そうなの? なら、お賽銭はいいわ」
霊夢さんはあっさりとそう言った。別にそこまで、お賽銭に固執してる訳じゃないんだ……
「……まあ、いいや。それじゃあ霧雨さん、色々とありがとうございました」
「おうよ。気をつけて帰れよな」
「はい」
僕は霧雨さんと霊夢さんに一礼して歩き出して鳥居へと向かう。
「……なんか、実感が湧かないなぁ」
そう僕は呟いた。異世界に来たとはいうものの、こうも簡単に元の世界に帰れるじゃあ、異世界に来たという実感がいまいち湧かない。
まあ、魔法使いみたいな霧雨さんがいるから、異世界に来たことは間違いないんだろうけどね。
「……」
あっという間だったけど、普通じゃ経験できない不思議な体験ができた。それだけでよかったと思う。また来れれば……いやあ、もうそれはいいかな。
「さ、帰ろう」
僕は鳥居を潜ろうとする。と、その直後の出来事だった。
『ピシッ』
「え? ! うわっ!?」
鳥居を潜ろうとした瞬間、目の前に稲妻のような光が走る。その途端に僕は吹き飛ばされた。
「桜花!?」
「いたたた……」
僕が吹き飛ばされたのを見たのか、後ろにいた霧雨さんが側に駆け寄ってくる。
「おい、大丈夫か!?」
「はい……大丈夫です」
「そうか……よかった。でも、今のはなんだったんだ?」
「分からないです……」
一瞬の出来事だったため、何が起きたのか僕にもよく分からなかった。
ただ、あの光が僕を吹き飛ばしたことだけはなんとなく分かった。まるで僕が鳥居を潜るのを拒絶するかのように。
「結界の穴が……塞がってる?」
後から来た霊夢さんは、鳥居の真ん中の空間を見て驚いた顔をした。霧雨さんは怪訝な顔をして霊夢さんに話しかける。
「塞がってるって……なんだよそれ」
「分からないわよ。さっき開けたはずの結界の穴が塞がってるの」
「お賽銭をもらえなかったから、わざとやったんじゃないのか?」
「そんな訳ないでしょ! とにかく、結界の穴が塞がってるのよ。それにさっきのあの光は一体は……」
「ああ、あれか……」
霊夢さんと霧雨さんは、鳥居の真ん中の空間を見つめる。今更なんだけど、結界ってなんのことだろう。
「とりあえずもう一回、結界を開く……あれ?」
「どうした?」
「あれ? なんで? 結界が……開かない?」
「はあ!?」
霊夢さんは難しい顔をしながら、手のひらを見る。その隣にいる霧雨さんは霊夢さんに問いかけた。
「ちょ、霊夢! それってどういうことだよ?」
「わ、私にも分からないわよ。どうしてかしら……結界が全然開かない……」
「おいおいマジかよ……」
霧雨さんは強張った表情をする。霧雨さんと霊夢さんは、さっきからなんの話をしてるんだろ? 僕にはなんの話なのか、さっぱり分からない。
「……よいしょっと」
『カラン』
「ん?」
松葉杖をついて立ち上がると、側から何かが落ちる音がする。横を見るとそこには何かが落ちていた。
「なんだろこれ」
僕は足元に落ちている物を拾う。それは木で出来た絵札だった。札には道を塞ぐ光のような物が描かれていた。
僕は何を思ったのか、札をポケットの中へとしまう。そして2人の方を向いた。
「あのー……それで、僕は帰れない……のかな?」
「結界が開かないんじゃそうなるわ。ここは癪だけど、紫に頼むしかないわね」
「紫にか……なんか心配だな……」
「仕方ないでしょ。まったく」
「紫さん?」
霊夢さんはため息をつくと、手を軽く翳す。するとその手の中に、とても淡い光が現れた。淡い光はしばらくすると消る。それと同時に、霧雨さん達の後ろの空間に切れ目のような物が入った。
「え?」
切れ目は段々と広がり、そこから金髪の女性が出てくる。僕はその光景を見て唖然とした。空間の切れ目の奥には、何やら不気味な目が無数に輝いている。
女性は空間の切れ目から出てくると、霊夢さんに話しかけた。
「こら、霊夢。勝手に結界を緩めるんじゃないわよ」
「アンタを呼ぶために緩めたのよ。ところで悪いんだけどさ、そこにいる子を外の世界に帰してきてくれない?」
「いきなり何よ……って、アナタは!」
「え、え?」
空間の切れ目から現れた女性は、僕を見た途端に驚いた顔をする。
あれ? よく見れば、誰かとそっくりな顔だな。誰だろ……あ、ハーンさんだ。ハーンにそっくりな顔だ。
「ど、どうしてアナタが……」
「あ? 紫、桜花と知り合いなのか?」
「……いいや、知り合いじゃないわ。ただの人違いだったみたい」
女性は驚いた表情から、何かを思い返すような表情になった。
なんでろう……さっきは気のせいかと思ったけど、あの女性の声、どこかで聞いた覚えがある。どこで聞いたんだっけ……
「? そうか」
「それで……外の世界に帰りたいのはアナタね?」
「は、はい。そうですけど……」
「そう……それじゃあ、帰り道には"気をつけなさい"よ」
「え? ちょ、いきなり何を」
「じゃ、さよな――あれ?」
金髪の女性は突然、疑念の声を出す。そして何故か、僕の足元を見て難しい顔をした。僕の足元に何かあったのかな? 僕は足元を見てみるが、何もなかった。
「? 紫、どうしたのよ?」
と、女性の異変に気付いたのか、霊夢さんが話しかける。
「……おかしいわ。あの子の足元にスキマが開かない……」
「え!?」
「はあ!?」
女性の言葉を聞いた途端、霧雨さんと霊夢さんは驚いた。僕はスキマってなんだろと思いながら、3人の話を耳を傾ける。
「ちょ、紫もかよ!?」
「スキマが開かないって……なんで?」
「分からないわ……別に境界線がない訳でもないし……本当になんでかしら……」
「なんだよそれ。霊夢に続いて紫まで……一体、どうしたんだよ?」
「だから、分からないわよ。あの子の近くにだけスキマが開かないのよ」
「近くだけ……まさか」
突然、霊夢さんは鋭い目つきをして僕を見た。僕は少しビクッとする。霊夢さんはいくらか、そのままの目つきで僕をじっと見つめる。
「……いや、そんな訳ないわよね」
霊夢さんはそう言って、さっきの気だるそうな表情に戻った。いきなり鋭い目つきで見られたから、何か文句でも言われるんじゃないかとドキドキした。
「とりあえず、結界もスキマも開かないんじゃ、帰しようがないわよね」
「結界が開かない? 霊夢、それどういうことよ」
「さっきその子を帰すために、結界を開こうとしたのだけど、結界が開かなかったのよ。まあ、詳しくは神社の中で話すわ。魔理沙、その子の案内よろしくね」
「あ、ああ……」
霊夢さんはため息をつくと、神社の入り口があると思われる方へと歩き出した。
金髪の女性は霊夢さんが歩き出したのを見て、空間の切れ目の中へと潜った。
「一体、何があったんですか……?」
「さあな……とりあえず、私らも神社の中に入ろうぜ」
「あ、はい」
僕と霧雨さんも、霊夢さんの後を追うように歩き始めた。
どうも。風心剣です。
なんか大変なことになりました。スキマや結界が開かないって……
それと、あの絵札はなんだったのでしょうかね。道を塞ぐ光……ん?
とりあえず、魔理沙が魔理沙っぽくない気がしました。なんとなくですが。
とりま、これからどうなっていんでしょうかね。
それではまた!