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第4話「暗闇より」


最近、寒くなってきましたね。


※一部、不謹慎な描写があったため、削除しました。不快な思いをされた方、申し訳ございませんでした。






 昔、よく読んでいた本があった。タイトルはもう覚えていない。だけど、内容ならまだ覚えている。


 人と向き合えない少年がある日、異世界へと迷い込む話だった。少年はその世界の人々とふれあい、最後には人と向き合うよいになれる。


 一見、ありふれた話に思えるが、僕にとっては特別であった。だって、僕も人と向き合えないから。


 たがら僕はいつの日からか、その少年と自分自身を重ね合わせていた。そして自分もいつか、この少年みたいに人と向き合えるようになれると思っていた。


 けど、何年経ってもなれなかった。人と向き合おうとせず、ただ自分が傷つかないようにしているだけ。


 結局、僕は自分が可愛いだけだ。自分がよければ他人と関わる必要なんてない。そう心の中では思っているのだろう。




「寒いなあ……」


 吹き抜ける秋風が肌寒い。秋となればやっぱり、夕方も寒くなってくるか。昼間は暖かかったから、つい半袖で外に出てしまった。


「はぁ……」


 僕は空を見上げてため息をつく。空は夕陽によって紅く染まっている。後もう少しで太陽は沈むだろう。そして夜になる。僕の好きな時間がやってくるんだ。


「……馬鹿らしい」


 今、自分で思ったことを自嘲する。夜が好きだなんて馬鹿らしい。けど、それでも僕は夜が好きなんだ。誰とも会わなくていい、独りきりになれるから時間だから。


「……」


 僕は下を向き歩き続ける。別に周囲の目が気になって下を向いたんじゃない。なんとなくそんな気持ちになったからだ。




 喫茶店から出た後、僕はマンションには帰らず大学の図書館へと行った。特に行く理由はない。ただ、心のモヤモヤを紛れさせるために行ったんだと思う。


 それでとある本を見つけ、それをずっと読んでいた。そして気付いたら、もう夕方近くになっていた。あんなに集中して本を読んだのは、久しぶりだった。


 僕はさっき駅から出て、今は帰り道を歩いている。相変わらず僕を見る周囲の目は冷ややかというか、怪奇な物を見てるような感じだ。まあ、それは今に始まったことではないので、気にもしないけど。




「……寒い」


 やっぱり、半袖で外に出るんじゃなかった。肌寒くて仕方がない。明日からは長袖を着て外に出よう。


「あ。そういえば明日、何時に駅前に行けばいんだったけ」


 そもそも何時に駅前に行けばいいのか決めたっけ? ……いや、確か決めてなかったな。あちゃー……うっかりしてた。集合場所を決めても、集合時間が分からないんじゃ行くに行けないなあ……


「あ、そうか。蓮子さんに電話を……」


 僕は立ち止まり、ズボンのポケットから携帯を取り出そうとするが、ふとした途端にそれをやめる。携帯に手が触れた瞬間、さっきの2人の言葉が脳裏を過ぎった。


『あー……うん。そうだね。桜花は1人の方が好きなんだよね。ごめん。なんか無理に誘っちゃってみたいで』

『そうね。ごめんなさい。桜花には桜花の気分があるものね』


 ……僕はポケットから手を出し、また歩き始めた。気づけば辺りはもう薄暗い。太陽は西の空に沈みかけている。後ものの数分で夜になるだろう。


「……ああ、寒いなあ」


 薄暗い空を見上げて僕は呟く。夜になるにつれ、寒さは徐々に増していく。いよいよ冬の到来だろうか。でも何故か、時々セミの鳴き声のような音が聞こえる。やっぱり冬の到来はもう少し後かな。


「……幻の唄に誘われて・・・」


 僕は小声で詩の一節を詠い始める。こうでもしなきゃ、寒さが紛れないと思った……というのは嘘で、本当は独り歩く寂しさを紛らわせるために詠い出した。

 さっき、独りきりになれるから夜が好きとか言ってたのに、独りだと寂しいだなんて、なんだか矛盾してるなあ……


「紡ぐは儚き調べ・・・」


 そういえば、この詩ってどこで知ったんだっけ。うーん……分からないな。小さい頃からよく詠ってた詩なのに。きっと、もう忘れちゃったんだろう。


「辿り着くは幽遠なる夢幻の彼方・・・ん?」


 詩の一節を詠い終えると同時に、右の方から奇妙な感覚がした。僕は不思議に思い左足を止める。そして奇妙な感覚がした方向に顔を向けた。


「あれ、なんだろ?」


 向いた先に何かが立っていた。僕は目を凝らしてよく見る。薄暗いのでちょっと見えづらいが、あれは……


「鳥居?」


 先に立っている何かは、鳥居のように見えた。僕はもう一度、目を凝らしてよく見る。……間違いない。あれは鳥居だ。

 でもおかしいな……あんな場所に鳥居なんて立ってなかったはずなんだけど……


「……」


 僕は鳥居に向かって歩き始める。何故だろう。鳥居に――鳥居の先にある"何か"に誘われているような気がする。


「うわっ。かなりボロボロだ」


 さっきまでいた場所から鳥居まではそんなに距離はなかった。ここに来て気付いたのだが、鳥居はかなりボロボロだった。

 赤い塗装は剥げ、木は痛んでるように見える。でもちゃんと立ってるあたり、意外と問題ないのかもしれない。


「あれ?」


 またあの感覚だ。さっきのあの奇妙な感覚を、今度は鳥居の奥から感じた。なんなんだろうこの感覚は……まるで僕について来いと言っているようだ。


「……行ってみよう」


 僕は歩き出す。この奇妙な感覚はなんなのか、鳥居の先には何があるのか。それらを知りたいなら行くしかないだろう。僕はそう思って鳥居を潜る。

 鳥居を潜ると周囲は更に暗くなった。まるで月の明かりも届かぬ闇の中に入ったかのようだ。僕はより足元に注意して奥へと進む。


「……なんか怖いな……」


 目の前に続く真っ暗な道を見て僕はそう呟いた。暗いから怖い……という訳で呟いたのではない。

 僕が怖いと呟いたのは、自分自身がこの暗闇の中へと消えてしまう……そんな気がしたからだ。まあ、そんなことはないだろうけど。


「……ああ。もう夜か」


 僕はふと空を見上げる。空はもう真っ暗で――いつの間にか夜になっていた。夜空には星おろか月さえ輝いていない。

 道理で更に暗くなった訳だ。街灯のような物も見当たらないし、恐らくこの先の道も真っ暗なのだろう。


「……」


 それきり僕は無言になり、真っ暗な道を歩き続ける。そういえば今さっき気付いたのだが、どうやらここは林か森らしい。周りの黒いシルエットは皆、生い茂る木々のようだ。

 それとさっきから、セミの鳴き声が聞こえる。ここにはまだ秋は訪れていないのだろうか? そういえば、ほのかに暑いような気がする。


『カランコロン』

「ん?」


 と、どこからか、何かがぶつかり合う音が聞こえてきた。その音はゆっくりと僕の方に近付いてくる。

 僕は立ち止まって辺りを見渡す。……何も見えない。辺りは真っ暗だ。それでも音は此方へとゆっくり近付いてくる。


「……」


 僕は固唾をのむ。一体、何が近付いてくるのだろうか。それははたして、なんなのだろうか?

 正体の分からない音に僕は、恐れのような感覚を抱いた。無理もない。何も見えない場所で正体の分からない物が近付いてくれば、誰だって恐れを抱くだろう。


「……あれ?」


 あの音が聞こえなくなった。僕はもう一度辺りを見渡す。……やっぱり何も見えない。何も聞こえない。いや、蝉の鳴き声は聞こえてくる。

 僕はあの音が聞こえなくなったのを確かめると、何故かホッと安堵した。緊張が一気に解れた為だろうか。


「あの音、なんだったんだろ……」


 さっきの何かがぶつかり合う音は、一体なんだったのだろ。そして何故、急に聞こえなくなったのか……


『気になる?』

「え?」


 今度は後ろから、若いの声が聞こえてきた。僕は振り返る。しかし……


「……誰もいない?」


 振り返り見た先には誰もいなかった。確かにこっちから声は聞こえてきた。なのに人の姿おろか人影さえ見当たらない。


『今の音が気になる?』


 今度は僕がさっき向いていた方から聞こえてきた。僕はまた振り返る。……やっぱり誰もいない。一体、どこからこの声は聞こえてくるんだ。


『気になるならついて来るといいよ』


 どこからか聞こえる声がそう言うと、またあのカランコロンという音が聞こえてきた。それも今度は僕の真横から。僕は真横を向くが、当然の如く何もなかった。


『さあ、おいでよ』


 声は僕は誘う。あの音は目の前に続く真っ暗な道を歩くように聞こえてくる。これは……僕について来いと言っているのだろうか?


「……それならついて行こう」


 僕は意を決して歩き出し、あの音の後を追う。一体、これらはなんなのか……こうなったら意地でもその正体を暴こう。僕はそんな思いで真っ暗な道を歩き続ける。


『ついて来てくれたね。よかった』

「え?」


 声は何故か嬉しそうに言った。なんで嬉しそうにするんだろう。ついて行ったのは君……というか、声と音が僕をそうさせたからだろう。それなのに何故、あの声は嬉しそうに言ったんだ?


『これでずっと一緒だよ』

「は? ちょっと待って! それはどういう意味ですか!? それに君は一体、誰なんですか!?」


 僕は見えぬ声の主に問いかける。ずっと一緒とはどういう意味だだろう。何故、声は――声の主はあそこまで嬉しがる? 訳が分からない。


『意味? そうだなぁ……君とずっと一緒にいたいから、かな』

「いや、だから! そういうことじゃなくて」

『分かるよ。君の言いたいことは。でも大丈夫。私はいつでも君を守ってるから』

「え?」

『それじゃあ、またね。次は――どこかで会おう』


 それを最後に声と音は途切れた。僕はその場に立ち止まった。いつでも僕を守ってる……どこかで聞いた覚えがある……


「……なんでだろう……」


 何故だろうか。あの声に懐かしさを感じた。それについ最近、どこかで聞いたような気がする。あの声は……一体、なんだったんだろう……


「……戻ろう」


 僕は振り返って来た道を戻り始める。あの声と音が途絶えてから、辺りは不気味に静まり返っていた。いかにも何か出そうな雰囲気だ。


『ゴッ』

「えっ……?」


 ふと後ろから、鈍い音が聞こえた。それと同時に頭に激痛が走り、目の前が真っ暗になった。







はろはろ。風心です。


秋でも時たまセミの鳴き声が聞こえてきたりしますよね。え?そんなことないって?

さて、独り帰り道を歩いていた桜花君。ふとしたことから、鳥居を潜り林か森の中へと行ってしまいました。


そういえば、鳥居はたまに異世界への入り口になったりすることがあるとか。ん?


とりま、この先桜花君はどうなっていくんでしょうかね。


それではまた。



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