第3話「独りになるから」
お待たせしました。3話目です。
……。
「おーい。おーかー? 聞いてるー?」
「……へ? あ、すみません。聞く気がないので聞いてませんでした」
「ちょ、一応サークルの打ち合わせもしてるんだから、聞きてなさいよ」
「はいはいー」
僕はパフェを食べながら、蓮子さんに生返事をする。それを見た蓮子さんは、軽いため息をついた。
「はぁ……まあ、いいや。で、さっきの話を繰り返すけど」
「明日、この3人で博麗神社に行く話でしたよね?」
「……聞いてるんじゃない」
「ええ。聞く気がなくても、自然と耳には入りますからね。ごちそうさま」
「はぁ……」
また蓮子さんはため息をついた。なんだかんだ言ってるけど、話はちゃんと聞いてますよ。ただ、今はパフェを食べることに集中していただけです。さっき食べ終わっちゃったけどね。
大学から歩いてた5分の所に、小さなテラスがある喫茶店がある。僕たちは今そこでお茶をしながら、サークルの打ち合わせをしているところだ。
そうそう。僕が入ってるサークルは『秘封倶楽部』と言う。いや、正確にはお世話になっているだろうか。
僕の専攻は民族学なため、時たま資料を借りに来たりしていた。それ所以か、いつからかサークル活動に参加するようになった。そしていつの間にか、メンバーの一員にされていたのだ。
「それで、なんで博麗神社に行くんでしたっけ?」
「そこは聞いてなかったの?」
「はい。不思議なことに」
「はぁ……繰り返すようだけど」
「博麗神社を調べに行くため。だったよね蓮子?」
「……そうだよメリー」
蓮子さんが理由を話そうとしたとき、ハーンさんが先に理由を話した。ああ。そういえばさっき、そんなことを蓮子さんが言っていたな。
「でも、行って何を調べるんですか?」
「夢を、かしら」
「はい? 夢を……ですか?」
「ええ。夢を、よ」
うむ……夢を調べに行くとは、どう言う意味なのだろう……あ、そういえばハーンさんはよく、不思議な夢を見るとか言っていた。なんでも、この世界ではない世界の夢らしい。もしかして、それと何か関係があるのかも。
「なんて嘘」
「えっ?」
「単にピクニックしに行くだけよ」
「……」
……やられた。とは言わないが、あんなことを考えていた自分が、少し恥ずかしくなった。そうか。ただピクニックをしに行くだけなのか。
「ちょっとメリー。ピクニックしに行くわけじゃないわよ」
「あら。あまり変わりないじゃない」
「……まあ、そうなんだけどね」
蓮子さんは苦笑する。確かにハーンさんの言うとおり、ピクニックとはあまり変わらないかもしれない。僕も何度か一緒したことはあるが、サークルらしい活動はしていなかったと思う。
「でもほら、行くことに意味があるじゃない」
「行って何もしなきゃ、意味はないと思いますけどね」
「……コホン。それで、いつ行くかなんだけどね」
蓮子さんは小さく咳払いをして、話を続けた。きっと分が悪くなったから、話を続けて誤魔化そうとしたのだろう。
ま、これ以上突っ込むのも野暮だし、僕も話を合わせようか。
「いつ行こうかな?」
「私はいつでもいいわよ」
「講義がない日ならいつでも」
「そっか……じゃ、明日でいい?」
「私は構わないわよ」
「明日……ですか?」
「うん。もしかして、無理?」
明日か……まあ、特に用事はないし、別にいいか。いてもどうせ、部屋でゴロゴロしてるだけだろうし。それならたまには遠出するのも悪くないよね。
「……いえ、大丈夫ですよ」
「そう。それじゃ決まりね」
「あ、ただ遅いからって、置いていったりしないで下さいね」
「そんなことしないよ。そうなったら、おんぶしてあげる。おーかちゃん♪」
「……遠慮しておきます」
僕は顔を逸らして、蓮子さんにそう言い返した。まさか、冗談を冗談で返されるとは思わなかった……なんでだろう。おーかちゃんと言われた瞬間、寒気がした。
「別に遠慮しなくてもいいのに」
「誰だって遠慮しますよ。ですよね、メリーさん」
「私も桜花をおんぶしてみたいなあ」
「……え?」
「ほら、桜花って小さいじゃない。だからかな? おんぶしたいかなって」
「な……ち、小さい言うな!」
僕は叫ぶ。小さいと言わないでくれ。それは僕のコンプレックスだから。
僕の身長は158cmしかない。この歳の平均よりか、中学生の平均身長さえいっていない。いわゆるチビだ。
「あ、ごめんなさい。もしかして、気にしてたの?」
「ええ……まあ、いいですよ」
「別に気にする必要なんてないんじゃないの? 可愛ければ全てよしだよ」
蓮子さんは笑いながらそう言った。そんな訳がない。背が低いと、色々と困るんだよ。……蓮子さん今、可愛いとか言わなかった? ……いや、気のせいか。
「とにかく、博麗神社に行くのは明日なんですね。えっと、集合場所はどこに?」
「桜花のマンション近くの駅でいんじゃないかしら?」
「そうだね。そこにしよう」
「え? あ、いや。そこだとハーンさんたちが遠回りになるんじゃ……」
ハーンさんと蓮子さんは、いつも上り電車で通学しているらしい。僕は下り電車で通学している。博麗神社は上り電車に乗って行くそうだから、これではハーンさんたちが遠回りをしなければならなくなる。
「別に大丈夫よ」
「いや、でも……」
「桜花は気にしなくていいよ。私達はなんともないからさ」
「はあ……」
「ま、そういうことだから、明日は桜花のマンション近くの駅に集合ね」
うーん……気を使わせてるみたいで、なんか釈然としないな……まあ、蓮子さんたちはあのように言ってるし、気にしないでいい……のかな? いや、いいか。
「分かりました。それでは僕はこれで失礼しますね」
「あれ? もう帰るの?」
「ええ。パフェも食べましたし、話も終わったので」
僕は横に立てかけてある松葉杖を取って立ち上がる。目的は果たしたし、話もまとまったようなので、これ以上ここにいる必要はないだろう。
「あら、もう帰っちゃうの? つれないわね」
「別にいいじゃないですか。明日だって会うんですから。それにほら、もうすぐで正午になりますし」
「え? あ、本当ね」
僕は携帯を開き、現在時刻をハーンさんたちに見せる。携帯の時計は11時47分を表示していた。後20分足らずで正午になる。
「そっかあ。じゃあさ、それならみんなでどっか食べに行かない?」
「あ、それいいわね」
「え? 今からですか?」
「うん」
「……いや、僕はいいです」
「えー! なんでよー!」
蓮子さんは落胆したような顔で、僕にそう言ってきた。僕は立ち上がったまま蓮子さんを見る。
「なんでよって……別にいいじゃないですか。まだやらなきゃいけないことがあるんですよ」
「さっき、用事はないって言ってなかったかしら?」
「ぐっ……いや、まあ、本当はそうなんですけど、僕はいいです。遠慮します」
「だからなんでよー」
「他人と一緒にご飯を食べるのは好きじゃないんですよ!」
その言葉を聞いた2人は、一瞬だけ言葉を失ったかのように静かになった。その様子を見た僕はしまったと思った。ついつい本音を強く言ってしまった。
「あ……いや、その……」
「あー……うん。そうだね。桜花は1人の方が好きなんだよね。ごめん。なんか無理に誘っちゃってみたいで」
「いや、別に無理には……」
「そうね。ごめんなさい。桜花には桜花の気分があるものね」
「いや、だから……」
僕はそのまま無言になる。だからの後に続く言葉が見つからない。こんなとき、なんて言えばいんだっけ。えっと……やっぱり分からない。言葉が思いつかない。
「うん。それじゃ、今日はこの辺で話し合いはお仕舞いにしようか」
「そうね。これ以上話すこともないし」
「……」
「それじゃ桜花。またね」
「明日、駅前に集合ね」
蓮子さんとハーンさんは椅子から立ち上がって、僕の前から去っていく。僕は何も言わずにただ、去りゆく2人の後ろ姿を見ているだけだった。
「……はぁ」
2人の姿が見えなくると、僕は深いため息をついて崩れるように椅子に座った。その際に手から離れた松葉杖は倒れ、ガシャンという大きな音を立てたが、僕は気にはしなかった。
「まただよ……」
僕は座るとまたため息をつく。また。まただ。またやってしまった。そんな思いが頭の中を駆け巡る。
「どうしていつもああなるのかな……」
相手は善意で言ってるのに、僕はそれを受け止められない。むしろ、突き放すような言葉を返す。いつも……いつもそうなってしまう。
「……最低だな僕は」
最低という言葉しか思いつかない。どうしていつもそうしてしまうのか。そんな理由は分かってるのに、すぐに何故かと考えてしまう。それに何より――謝ることができなかった。たった3文字の言葉を言えばいいだけなのに……僕は言えなかった。
「……僕も帰ろう」
僕は倒れている松葉杖を両方手に取って立ち上がる。そして卓上に置かれてるはずの代金が書かれた紙を探す。しかし、その紙は見つからなかった。
「ああ……」
状況から察するに、蓮子さんたちが僕の分まで支払ってくれたのだろうか。だとすれば、僕はなんて最悪な奴なんだろう。恩を仇で返すような真似をして……
「本当に最低な奴だな。僕は……」
できるなら、自分を自分で殴りたい。今すぐこの場で。でもそれはできない。そんなことをすれば、周囲の人々は僕を奇怪な目で見るだろう。下手をすれば、顔の包帯が取れて、醜い僕自身を周囲の人々は見なきゃならないだろう。
結局、あんなことを言ってても、僕は自分が可愛いだけなんだな。
「……」
僕は考えることを止めて歩き出す。歩く度に揺れる右ズボンは、まるで今の空っぽな僕を表しているようだった。
はろはろ。風心剣です。
主人公、背低いですね。158なんて。
あ、今更ながら主人公の名前は春霞桜花です。
全て春に関する季語からきています。好きな物は鯱だとか。
さて、後半のよく分からんパート。一体、何をしたかったのかが分からん。
とりあえず、今回はこの辺で。次話辺りでついに彼方へゴー!
それではまた。