端的に物事を語れるほど、僕らは現実を知らない。
いつも見る悪夢がある。
大抵は覚えてないんだけど、起きるといつも胸が締め付けられるような衝動にかられるんだ。
分かっているんだ。
君がいないことは。
分からないんだ。
どうして君がいないんだ?
「嫌いじゃない」
とか
「好感を持ってる」
とかじゃ駄目なんだ。
ただ一言でよかったのに…。
「好きだよ」
ねぇ、君が好きなんだ。
好きなんだよ。
愛していたんだ。
その一言を、君に伝えられたら、何か変わっていただろうか。
物言わぬ君の亡骸を抱き締めながら、僕はただただ後悔の念にかられていた。
「こんな事になるのなら、もっと早く…っ!!」
でも僕は、こんな事になるなんて思いもしなかった。想像すらしなかった。出来るわけないじゃないか。僕には君だけなのに…っ!!
何故ただそれだけの事なのに、あなたに伝えられなかったのかなぁ。
カサリと紙が捲られた。
伏せられた睫から覗く君の瞳を見つめながら、ただただその時を待つ。
カサリ
「あんたさぁ…。」
「ん」
諦めのように溜め息を溢された。自然に肩に力が入るのを感じる。
「何が書きたかったわけ?」
来た…。
「何が言いたいのよ?」
「はぁ…。」
「はっきりしないわね。この文と同じだわ。だらだらだっらだっら書き綴れば良いってもんじゃないのよ。大体何?このまわりくどい説明。」
そう言って僕の前にドンっ!!と紙の束を投げ出した。
「書きなおしてらっしゃい」
「はぁ…。」
また駄目だったかと僕は溜め息をついた。もうやめようかな。無意味だよ。才能がないんだ。
「あと…。」
立ち去ろうとした僕を、彼女は呼び止めた。まだ何か言い足りない事があるのだろうか。勘弁してほしい。「前回よりは確実に上手くなってる」
そうして彼女は柔らかく笑むのだ。
「がんばれ」
その一言で、僕は気分が浮上する。我ながらなんて単純…。
まったく…。僕は、確実に君の掌で踊っているよ。なんていう事だ。
完。