表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生と…  作者: 秋華(秋山 華道)
転生と…
7/89

小さな恋の終わり

学園にもなれ、同好会活動も始めた、ある日曜日。

俺は、山下さんとヨシツネと共に、街へと向かっていた。

先日、山下さんにゲーム同好会の話をしたら、家に古いゲームが沢山あるからいるかと聞かれ、俺は欲しいと即答していた。

そして今それを、山下さんの家に取りに向かっているというわけだ。

管理室のとなりのドア、山下と表札がでていたので、そこに住んでいるのかと思っていたが、必要な時だけ泊まる部屋だということだった。

家は森ノ宮駅の向こう側にあるらしく、話を聞いたところ、義経だった俺の伯父の家だった所と近そうだった。

 達也「今日はせっかくの休みなのに、すみませんね」

俺は、ヨシツネに引っ張られている山下さんにお礼を言った。

 山下「全然オッケーだよ!てか、どうせ暇人、つまらない毎日過ごしてるし、こっちのが楽しいよ」

本当にそのようで、山下さんは終始笑顔が絶えなかった。

駅を越えてからしばらくして、山下さんがそろそろだと言った。

その景色は、前に伯父の元家を見にきた時に見た景色だった。

何か予感があった。

いや、ただドキドキしていただけかもしれない。

とにかく、今あの家に向かっている確信があった。

俺が教育実習をしていた時、数週間生活していた家。

今目の前に見えてきた。

近づく。

そして、少し前を歩いていた山下さんが、まさにその家の前で止まり、俺を振り返った。

 山下「ついたよ」

偶然なのか。

いや、森学に来てからの出会いの多さは、偶然では片づけられない数だ。

だから全てに何か意味があるのかもしれない。

そんな事を考えていた俺は、ただ立ちつくしていた。

 山下「どうしたの?」

山下さんが不思議そうに俺の顔を見上げた。

俺は我を取り戻し、笑顔をつくった。

 達也「いえ、なんだか趣のある良い家だなぁと思って」

 山下「そう?なんだか嬉しいな。この家は私の大切な家だから」

ヨシツネが庭に入って駆け回っていた。

ふと振り返って、俺を見ていた。

なんだかお帰りって言っている感じがした。

それを見て、俺は完全にリラックスした。

 山下「ささ、入って」

 達也「おじゃまします」

山下さんが玄関の鍵を開けて、俺を招き入れてくれた。

あの時と何も変わらない、靴箱も同じ、ついている電灯も同じ、臭いも風も同じだった。

俺は2階の奥の部屋に案内された。

物置として使われているらしいその部屋は、昔伯父さん夫婦が使っていた部屋だった。

中には段ボールが沢山あって、山下さんが片っ端から明けて、ゲームを探してくれていた。

俺も許可を得て、段ボールを明けた。

1時間くらい探していただろうか、古いテレビゲームや、ボードゲーム、カードゲームなどが見つかった。

俺は許可を得て、それらを持ってきた鞄に入れていった。

 山下「ちょっと休憩しよっか」

 達也「そうですね」

そう言った山下さんに、別の部屋に案内された。

そこはかつて俺が使っていた部屋で、今は山下さんが使っているらしい部屋だった。

部屋の真ん中には、コタツ布団がかけられていないコタツがあった。

 山下「お茶入れるから、適当に座って待ってて」

 達也「ありがとうございます」

山下さんが部屋から出ていくのを確認して、俺はコタツに向かって座った。

そして部屋の中を見回す。

もう記憶にはほとんどなかった部屋だが、見ていると色々思い出してきた。

俺は感慨無量モードを満喫していた。

ふと、デスクの上にある写真立てが目に入った。

俺はなんとなく立ち上がって、写真立てに近づいた。

写真立てには1枚の写真が、クリア板とネジによって固定されていた。

俺はそれを見て、今日二度目のフリーズをした。

とにかく驚いた。

そこに写っているのは、かつての俺を中心に、女生徒が4人写っていた。

もちろんそのうち1人は山下さんだった。

庭のベンチの前で撮った写真だった。

俺は真ん中で照れた笑顔をして、かろうじてカメラ目線。

そして写真の中の山下さんが、その俺を見ていた。

人生40年以上生きてきた今の俺だからわかるのだろう。

その視線には、いっぱいの好意が見えた。

俺はその写真立てを手にとって見ていた。

涙が溢れそうだった。

 山下「おまたせー」

山下さんが、お盆にお茶とお菓子を乗せてきた。

俺は写真立てを元に戻して、何事もなかったように腰を下ろそうとしたが、涙を止める事が出来ず、一筋流れた。

 達也「あっ・・・」

それを見た山下さんが、

 山下「どうしたの?」

と、心配そうにたずねてきたが、俺はただ

 達也「目にゴミが入ったんで、洗面所かります」

といって、慌てて部屋をでた。

山下さんが場所がどうとか言っていたが、聞かずに洗面所に駆け込んだ。

水を流し顔を洗った。

誰かが、人間歳をとると涙もろくなると言っていたが、俺はかなりもろくなっているなと思った。

落ち着いてから部屋に戻ると、山下さんは複雑な顔をしていた。

 達也「すみません。もう大丈夫です」

俺は心配させないように、改心の笑顔を作って部屋に入った。

しかし山下さんの顔は、複雑な表情のままだった。

 山下「あっ、大丈夫?」

 達也「ええ、すみません。突然」

俺はそう言いながら、何事も無かったようにコタツに向かって座った。

 達也「いやぁなかなかしつこいゴミでしたよ」

俺は未だ沈んでいるような山下さんのテンションを上げるべく、とにかく多弁に笑顔をふりまいた。

 達也「もしかしたらカブトムシでも入ったのかなぁ?もしくは目に入れても痛くない孫?それだと痛くないよね・・・」

何を言っても、山下さんの表情は変わらなかった。

俺も黙って座った。

少し沈黙の時間が流れた。

その沈黙の中、山下さんが突然話しだした。

 山下「さっき星崎君の見てた写真、私が森学に通ってた頃の写真なの」

俺はただ黙って聞いた。

 山下「撮った場所はこの家の庭だけど、その頃はこの家は私の家じゃなかった。その写真の真ん中に写ってる、神村先生の家だった」

神村と聞いて、俺はドキッとしたが、そのまま話を聞き続けた。

 山下「正確には先生の伯父さんの家だったんだけど、前にこの家が売り出されているのを知って、私が買ったんだ」

そうだったのかと俺は思った。

 山下「神村先生との思い出の家だから、凄くほしくて、無理して買ったんだ。だって、神村先生は私の初恋の人だったから」

なんとなく、そう思っていた。

そして思い出した。

あの時貰った名刺には、確かに[愛する神村先生へ]と書かれていたんだ。

でもそれは、普通に先生に対しての尊敬や、兄的な意味からくるものだと思いこんだんだ。

無知だった俺。

結局連絡する事も無く。

山下さんはあの時、どんな気持ちで俺からの連絡を待っていたのだろう。

俺は胸が痛んだ。

 山下「ところで星崎君さ・・・」

突然話は変わっていた。

 山下「洗面所の場所、よくわかったね。ココに来るの初めてじゃないよね?」

その言葉に、俺はしまったと思った。

 山下「この家の洗面所は、初めてこの家に来る人は、よっぽど探さないとみつけられないんだよ」

そうなのだ。

俺が駆け込んだ、2階にある洗面所。

一番奥にある、さっきゲームを探していた部屋の更に奥に、実は洗面所が存在した。

ベランダのような所に出るドアが有り、その脇にある壁のような横開きの扉。

知らない人はまず見つけられないだろう。

その洗面所に、俺は迷わず駆け込んでしまったのだ。

だから、山下さんはきっと、俺が神村義経か、又は伯父さんとつながりのある人だと思ったのだろう。

そしてあの写真の話をした。

俺は黙って話を聞いてしまった。

しらないとか、偶然だとか、そんな事を言ってもおそらく100%信じてもらえないだろう。

適当にごまかせば、おそらくはそれ以上追求はしてこないとは思う。

でも俺はなんとなく、昔の俺に引け目を感じて、山下さんに全てを話してみようと思った。

 達也「山下さん。いや、えっちゃん。信じられないかもしれないけど、聞いてくれるかな?」

俺は笑顔だけど真面目な顔で山下さんを見つめた。

山下さんは、えっちゃんと呼ばれた事で、おそらく何かを確信したのだろう。

真面目な強い意志が見える目で、俺に頷いた。

 達也「どこから話そうか。ああ、その前に、この話は他言無用でお願いします。後はとにかく信じて欲しい」

山下さんは黙って頷いた。

 達也「今から20年ほど前、神村義経は、教育実習の先生として森学に来ました。通うには遠かったので、伯父の家であったこの家に来まいた。寝起きしていたのは、今俺達のいるこの部屋。数週間と短い期間ではありましたが、山下悦子という生徒と仲良くなりました。」

山下さんは驚いた表情を見せたが、何も言わず黙って聞いていた。

 達也「教育実習は終わり、神村義経先生は去りました。その時、山下悦子という女生徒は、1枚の名刺をその先生に渡しました。受け取った先生は、それを・・・」

少し涙が出そうになったが、俺は我慢した。

 達也「それを、ひとつの思い出として、引き出しにしまいました。今でもおそらくは引き出しの中・・・」

 山下「はぁ~」

山下さんはひとつため息をついていた。

なんとなく、笑顔になったような気がした。

 達也「その後、神村義経は教師となり、20年近く教鞭をとり続けました。しかし昨年の夏、40歳の誕生日の日・・・」

俺はこの後の事を言うかどうか悩んでいた。

言わなくても知っているかもしれない。

もうわかっているかもしれない。

少し躊躇した後、俺は話しを続けようとした。

その時、山下さんがぽつりと言った。

 山下「亡くなられたのですね?」

俺は黙って頷いた。

 山下「そっか・・・」

山下さんは少し泣いていたが、少し笑顔でもあった。

 山下「どうして星崎君がそんな事知ってるのかなぁ。記憶喪失は治ってないんだよね?ふーん」

俺を見る山下さんは、とてもカワイイと思った。

 山下「ひとつ聞いていい?」

山下さんはコタツに体を乗り出して、俺に顔を近づけてきた。

俺は、「うん」とこたえた。

 山下「先生は私の事、どう思ってたと思う?先生は私が先生を好きな事に気がついていたと思う?」

俺は正直にこたえた。

 達也「好きだったけど、それはあくまで生徒としてかな。好きでいてくれた事には、おそらく気がついていた。でも、男女の関係にはなれないから、気がつかないふりをしていたんだと思う。何故なら、その頃のお・・・先生はあまりに子供だったから」

 山下「そっか。なんだかすっきりしたよ」

山下さんの笑顔を見て、おそらく全てを分かって、信じてくれて、俺がガキだった罪を許してくれたような気がした。

 達也「もし今、神村義経が生きていて、山下さんと出会っていたら、きっと好きになっていたと思うよ」

なんとなく言ってしまった。

でも確信のある気持ちだった。

 山下「星崎君じゃダメなんだ?ふふ。冗談だよ。私もうすぐ結婚するし」

 達也「えっ?ああ、おめでとう」

ひとつの小さな初恋が、今ようやく終わった日曜日だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ