卒業
卒業式で、泣いた事なんて、今までない。
それは自分の卒業式に限る事だけど。
人は大人になるたび弱くなるなんて、誰かが歌っていた。
正にそのとおりだと思う。
教師になって、最初に受け持った学生が卒業する時に初めて泣いて。
もちろん、その場は我慢して、後でこっそり泣いたけど。
その後は、どんどん弱くなった。
でも、美鈴が卒業する時は、受け持った学年じゃなかったから、泣くことはなかった。
今日は卒業式。
その中で俺の知る人は、美鈴とほにゃらら先輩だけだ。
前に美鈴を送り出した時は、泣かなかった。
でも、今日はダメだ。
涙が止められない。
もう二度と会えなくなるわけでもないんだけど。
今後一緒に何かをする事は、もうないのだろうと思うとダメだ。
美鈴は、全国で一番レベルが高いと言われる大学に行く。
俺がそんなところにいけるわけがないんだ。
だから、そうそう会うことができなくなる事は必至。
そして何も無ければ、今までの経験上、今後会う回数はきっと数回あれば良い方だ。
義経だった頃の高校生時代の友達、卒業してから会った事のある人なんて、数人。
それも1回とか2回。
一生の友達で無い限りそんなもの。
だから美鈴が、一生の友達である事を祈るだけ。
きらら「達也、泣いてるんだ・・・」
きららの言葉で、やはり俺は泣いているんだと実感する。
周りを見ても、男で泣いている奴なんてまずいない。
これくらいの歳の頃は、別れの実感が薄いし、男は泣けないと思っているから。
俺は涙を拭いて、我慢した。
でもまた溢れてきた。
きららの方は見れなかった。
卒業式も終わり、皆部室に集まっていた。
もちろん美鈴も、ついでにほにゃらら先輩や今日子まで。
美鈴「じゃあ今日は、私の最後の部活をします」
美鈴が突然そんな事を言った。
達也「おう。で、何するんだ?」
俺は泣きやんではいたが、悲しさを我慢していた。
美鈴「ゲーム部なんだから、ゲームでしょ」
今日子「おお!ゲームですか。ピコピコ鳴る奴ですか?それともドカドカなるやつですか?はたまたビシバシするやつですか?」
美鈴「私の最後の部活なんだから、ゲームの王様に決まってるじゃない」
なんと!
達也「こんな日まで麻雀かね?」
あっ、ちょっと調子でてきた。
美鈴「ゲームの王様と言えば、王様ゲームに決まってるじゃない」
夢「ええーーー!!!」
・・・
あれですか。
あれは義経の頃なんどかやった事がる。
飲み屋とか、カラオケボックスとか、とにかく酒の入る席で。
そりゃもう、キスする為のゲームと言っても過言ではないくらい、みんなとキスした。
男も女も関係なくね。
でもまあ、高校生だし、素面だし、あってもほっぺにチュッくらいだろう。
そういや、女のパンツに手を入れるとかもあったな。
思い出すとよくやっていたと思う。
新垣「ちょっと怖いよー!」
吉田「大丈夫。嫌なのは逃げればいいから」
まあ確かに、男ならともかく、女の子はなんだかんだで逃げる事ができるだろう。
今日子「ああ神よ!今日この日にココにいる幸せに感謝します。って、洒落じゃないですよ?オヤジでもないですよ?」
達也「つっても男2人しかいないぞ?」
今日子「ちゃんとツッコミ入れてください。って、何言ってるんですか。キスするのに男も女も関係ありません。その行為が良いんじゃないですか!」
夢「えええーーーー!!き、き、キス、す、する、の?」
夢ちゃん動揺しまくりですな。
達也「いや、流石にそこまでの命令を出す人なんていないって」
夢「そ、そうか」
今日子「そうとも限りませんよ。谷さんとか、谷さんとか、谷さんあたりはきっと言いますよ」
なるほど。
この糞アマだけは要注意というわけか。
美鈴「じゃあ、さっさとやるわよ。私はココで王様ゲームを経験しておかないと、社会に出てから苦労するからね」
そんなもの経験してなくても大丈夫ですって。
でもそんな事は言わない。
だって楽しそうだから。
達也「はいはい」
美鈴「じゃあみんな、クジ引いてね」
いつの間に作ったのか、割り箸の癖に、見分けがつかないくらいに磨き上げられたクジが、美鈴の手にあった。
達也「準備がいいね。しかもやたら綺麗だし」
美鈴「見分けられないように、知里に頼んでおいたから」
なるほど。
これはチリちゃん作か。
みんな順番にクジを引いていく。
俺も適当に引いた。
さて・・・
達也「王様だーれだ!?」
ほにゃらら先輩「はーい!」
手を挙げたのはほにゃらら先輩だ。
美鈴「いいなぁー」
美鈴はどうやらうらやましいようだ。
いったいどんな命令を出そうと思ってるんだろう?
不安だ。
ほにゃらら先輩「では、1番が6番の肩を揉む」
ふむ。
まあ高校生だから、こんなもんだろう。
それでも、演出によってはなかなか面白い事になるのだよ。
達也「1番は俺だ!さて、俺の餌食になる奴は誰だぁ~?」
俺は手をワシャワシャさせながら皆を見回す。
きらら「達也、なんか嫌らしいよ!」
知里「お兄ちゃん、手が可愛いぃ~」
いや、チリちゃんそれ、感覚おかしいよ。
おっ!ひとり俯いているのは夢。
夢「6番だよ・・・」
小さな声が聞こえてきた。
達也「おお、最初の犠牲者は夢か。言い残す事は無いか?」
夢「べ、別に」
俺は夢の後ろに回ると、肩を揉み始める。
ってか、微妙にさわる感じで。
夢「達也、こそばいよ」
きらら「なんかやっぱりやらしい」
美鈴「達也ちゃん嬉しそうだね」
まこと「それは女の子に触れるからじゃない?」
知里「良かったね。お兄ちゃん」
何故かみんな白い目で見てるんですけど?
演出じゃないか、演出。
俺は視線に負けて、普通に肩もみをした。
美鈴「じゃあ次行くよー!」
こうして王様ゲームは続いてゆく。
吉田「3番だれかな?」
新垣「わ、私・・・」
今日子「うわー何その狙ったような組み合わせ。イカサマだわ。イカサマ!」
吉田君が、新垣さんを抱きしめる。
きらら「えっうそ!5番だれ?」
知里「あ~私みたいだよぉ~」
きらら「良かった~チリチリかぁ~」
今日子「ちっ!何故私じゃないのー!」
きららがチリちゃんのほっぺにキスをする。
達也「おお、恥ずかしい想いをするのは誰だぁ?」
うらら「私かも」
達也「おっ!ラッキー!」
うらら「そ、そう、ならいいかも」
今日子「うわー!達也って彼女がいったい何人いるの?最低!私も仲間にいれてーーー!!」
俺はうららをお姫様だっこして、寮まで行って戻ってくる。
まこと「これ結構恥ずかしくない?」
きらら「そうだね」
今日子「きゃー!誰か誰かおらぬか?!後ろからちょっと押したりしたら、チューですよチュー!」
まことときららはおでこを付けて、見つめ合っていた。
まあこんな事を繰り返していたら、いつのまにやら帰宅の時間。
達也「そろそろ、時間だし、次が最後って事で」
なんだか少し寂しい気持ちがする。
いや、はしゃいでいたから、寂しさは倍増だ。
美鈴「じゃあ、これラストね」
クジを持った手が差し出された。
皆最後だから、少しゆっくりと引いていった。
番号を見る。
4番。
なんとなく嫌な数字。
でも、俺がこういう数字を引く時は、何かあるんだよな。
ほにゃらら先輩「王様だーれだ?!」
・・・
あれ?誰もいない?
俺はみんなを見回した。
今日子「ふっ。ふっ。ふっふっふふふふふははははははは!!!」
いきなり今日子が大声で笑い出した。
今日子「最後にきたきたきたきたーーー!!!」
今まで一度も王様になっていなかった今日子に、最後に王様がきたようだ。
達也「なんかいやな予感がするな」
心なしか、みんなドキドキしているような気がする。
今日子「さあ、私の力を見せる時がきたのよ!神よ!私に力を与えたまへーー!!」
達也「って、私の力じゃ無くて、神の力じゃん」
今日子「力をー!!」
ああ、無視ですか。
今日子「見えた!!」
今日子はニヤッと俺の方を見た。
鳥肌がたった。
身構える一同。
今日子「4番が~」
げっ!
やっぱりきやがった。
今日子「7番に~」
7番に?
誰も反応しているようには見えないけど。
今日子「キスをするー!!ああ、もちろん、ネズミとネズミ、マウストゥーマウス、口と口ですよ。ディープにするかは自由で!」
達也「するかぁー!!」
で、いったい7番は誰だろうか。
美鈴「あっ、あたしだ」
なんと!
美鈴かぁ~
俺はホッとしていた。
って、何故安心する?
でも、なんとなく嬉しい気持ちもある。
今日でお別れだと思っていたけど、なんとなくこれで、また会えそうな予感がした。
達也「あー嫌なら辞めるけどー」
今日子「辞めるの禁止。絶対禁止。はいっブチューっと舌入れちゃってください」
達也「入れるかぁ!!」
しかし、ちょっと魅力的だな。
って、違う違う。
ココは普通にね。
美鈴「まあ、そういう事だから、さっさとやっちゃいなさいよ」
美鈴の言葉に、俺は即行でキスをした。
部室の片付けをして、皆帰ってゆく。
美鈴に最後の挨拶をして。
達也「そういえば、卒業式なのに親とか来てなかったのか?」
美鈴「うちの親が来るわけないよ」
その言葉に、美鈴と仲良くなった意味を少し感じた。
家庭環境が悪く、寂しさを隠している子を放っておけないらしい俺。
そしてそういった子と仲良くなり、好きになる俺。
美鈴と仲良くなるのは当然だったんだな。
しかしそういった理由がある以上、本当の恋にはならない。
美鈴は最後に俺と握手すると、笑顔で去っていった。
少し涙が光っていた。