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転生と…  作者: 秋華(秋山 華道)
転生と…
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帰省

年末。

人間が勝手に決めた年の終わり。

何かがあるわけでも無いのに、ああ終わるんだなぁと思うのは何故だろう。

気持ちとしては、付き合ってきた恋人と別れる時の感覚に似ていると思うが、いかがだろうか?

まあなんにせよ、年末だから、実家に戻る人が多数だ。

ゲーム部の面々も、例外なく皆実家に戻って、家族と年を越す。

もちろん俺も戻るわけだけど、俺が戻るのは、もちろん神村家ではない。

 達也「本当は俺も会いたいけど、流石に無理だからな」

俺は舞と話していた。

舞はこれから、義経である俺の両親がいる実家に戻る。

 舞「うん。まあ信じろって言われても、きっと混乱すると思うし」

普通は混乱するだろう。

で、説明して証明して、それでようやく信じてくれる事になるのだろうか。

でもそうなったら、星崎達也の存在が無くなってしまう。

あっちを立てればこっちが立たず。

俺はもう戸籍上死んでいて、そして星崎達也なんだ。

 達也「そう言えば聞いてなかったけど、俺って交通事故で死んだ事になってるんだよな?」

なんとなく聞いた。

俺の、義経の体は、一体どうなって死んでいたのか。

 舞「あっ!そう言えば話して無かったね。えっと、お兄ちゃんと仲が良かった先生、だれだっけ?」

 達也「ああ、安藤だろ?」

 舞「そうそう。その先生と歩いてて、橋を渡ってる時に、お兄ちゃんにいきなり、後ろから何かがぶつかってきたんだって」

ふむ。

そうなんだ。

後ろから衝撃をうけたんだよ。

そこで俺の記憶はとぎれている。

 達也「何がぶつかってきたんだ?」

交通事故ってなってるから、おそらくは車かバイクなのだろうけど。

 舞「それがわからないんだって。安藤先生が振り返った時には、そこに何も無かったらしいから。でもその現場を見ていた人は、みんな何かがぶつかってきたって」

どういう事だろう。

まあ俺がこうしている事から考えて、不思議な事に巻き込まれてしまったとしても納得出来る。

この話をきいていたから、舞は俺が義経だった事にあまり驚かなかったのだろうか。

狂乱するようなのを想像していたのに、そこまでじゃなかったから、人間驚いてもこんなもんかと納得していたけど。

 舞「それで、河に落ちて。落ちたのは通行人含めて沢山の人が見てたんだけど。結局見つからなかったんだよ」

 達也「えっ?」

それってどういう事だろう。

死体が見つかってない?

 達也「それで何故死亡と確定してるんだ?」

 舞「あの河だからまず助からないだろうし、いくつか所持品が見つかったんだ。河の中から」

それだけ?

見つかってないのに、死亡になるのか?

普通行方不明者として、どれくらいかはわからないけど、捜索期間とかありそうだけど。

でも、そうなっているのだから、納得するしかないか。

 舞「あっ!そろそろ出ないと、電車間に合わなくなっちゃう」

時計を見ると、舞の出発の時間ぎりぎりだった。

 舞「お兄ちゃんは、どうするの?」

 達也「ああ、俺は後1時間くらいしてから出るよ」

 舞「そう。じゃあ私は行くね。良いお年を」

 達也「良いお年を」

年末の挨拶を交わし、舞は俺の部屋から出ていった。


1時間後、俺は星崎の実家を目指して出発した。

寮の入り口で夢ちゃんと会ったが、急いでいたので「良いお年を」と挨拶だけして駅を目指して歩いた。

この景色ももう見慣れた景色となっていて、懐かしさは無かった。

星崎の実家への道は、正直はっきりとしてない。

森学に来るまでは、なんだか夢の中にいるような生活をしていたから。

正直義経の頃の記憶より、転生後の記憶の方が薄く感じる。

というか、毎日ばれないように考えながら生活していたのだから、記憶はそれだけしか無くて当然。

その中でも、徐々に問題ない事をアピールしなくてはならなかったから、しんどかった。

ココに来たときは、それから解放される喜びで、有頂天だったかもしれない。

今考えれば、田舎にきただけで、裸で川に飛び込むか?

苦笑いした。

電車を乗り継ぎ、気がつけば星崎の実家のある街についていた。

懐かしく感じた。

あれだけの生活しかしていなかった街でも、懐かしく感じるものなのだなぁと思った。

道を歩くと、ちゃんと覚えていた。

来るまでは不安だったけど、確かに半年以上生活した街である事がわかる。

商店街を抜け、住宅街に入ると、まもなく実家が見えてきた。

ドキドキする。

俺にしてみれば、ココはまだ実家という感覚ではない。

他人の家なのだ。

まあ両親に会ってしまえば、おそらく大丈夫だろう。

俺は実家の鍵を取り出して、玄関のドアに近づいた。

すると鍵を使うことなく、内側からドアが開けられた。

でてきたのは、星崎の母。

そして俺は、星崎だ。

もちろん挨拶はこうだ。

 達也「ただいま。母さん」

 星崎母「ああ、お帰り」

星崎の母は、俺を抱きしめて迎え入れた。

相当心配だったのだろう。

偶に電話もかかってきたが、いつも心配しているような感じだ。

その度に申し訳なく思う。

せめて少しでも記憶が有れば、少しは安心させられるのだろうか。

家に入ると、コタツに入っている父がいた。

 星崎父「おかえり」

 達也「ただいま」

星崎の父は何も言わないが、きっと父も心配しているだろう。

俺は着ていたコートを脱いで、自分もコタツに入る。

遠慮はできない。

ココは俺の家。

心配させてはいけないのだ。

俺は遠慮なく、コタツの上のミカンに手を伸ばす。

そして一緒にテレビを観ていた。

 星崎父「で、その後どうだ?記憶の方は」

何食わぬ顔で言ってはいるが、心配しているのがわかる。

良い親だと思う。

だから悲しませたくはない。

でも、嘘も本当の事も言えない。

 達也「人の名前と思い出以外は大丈夫だよ。生活に支障は無いし、楽しくやってるよ」

 星崎母「前にテレビに出ていた時はビックリしたよ」

後ろに、お茶を入れて持ってきた母が立っていた。

 星崎父「それに凄いじゃないか。その後も何か賞をとったんだって?」

 達也「うん。金賞だよ。俺ゲーム好きだからね」

 星崎母「そうね。好きだったもんね」

これは間違いない事。

星崎もゲームは好きだった。

でもなんだか心が入らない会話が続く。

事務的な会話。

俺は心配させないようとする会話。

両親は心配を隠して気遣う。

正直苦しい。

でも、これはきっと必要な事。

いずれ普通に話せるようになる為に。

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