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転生と…  作者: 秋華(秋山 華道)
転生と…
32/89

美鈴の引退

物事を見る視点は、1つでは無い。

正しいと言われている事が、別の視点から見ると悪だったり。

日本の法律で罪である事が、海外にでると人々の尊敬を集める行為になる。

義経から見た出来事は、達也の目にはどう映るのか。

夏休み最後の日。

美鈴先輩の部活引退。

 美鈴「今日で私引退だから」

昼みんなが集まったところで、美鈴先輩はそう言った。

そういえばそんな次期だと俺は思った。

3年前。

俺は顧問の先生として、美鈴先輩、いや、美鈴を送り出した。

だから、美鈴の引退に立ち合うのは、今日で2回目。

チリちゃんもそうなるが、俺の2回は立場が全く違う。

あの時とは、気持ちが全く違った。

 達也「じゃあ今日はお疲れ会だね」

俺の言葉に反対する者は無かった。

あの時は、悲しむ生徒を見ながら、おそらくは輪の外からそれを見ているだけだった。

今回は、寂しい気持ちを抑えながら、それでも笑顔で場を盛り上げた。

あの時の生徒達の気持ちは、こんな感じだったのだろう。

今から25年ほど前、俺は同じ気持ちを味わった事が、きっとあったはずだ。

大人になるとそれを忘れて、別の気持ちでいるのが不思議だ。

いつの間にか、舞も部室にきていた。

きっと誰かが呼んだのだろう。

舞は今、3年前の俺と同じ気持ちを味わっているのだろうか。

俺は無意識に舞の手をとって、皆の輪の中に無理矢理入れた。

みんな楽しそうだ。

舞もゲーム部の一員として扱われているのを見て、俺もきっとこんな風に見られていたのだと思うと、嬉しかった。

楽しかったお疲れ会という名の引退式も、いつかは終わるもの。

気がつけば部活終了時間だった。

 美鈴「では、次期部長を発表します」

引退の時にある、次期部長の発表。

俺も先生の頃は、生徒に相談されたりなんかして、部長を決めたものだ。

誰だろうなぁ。

少し先生の気持ちになって考えてみた。

やはりやる気が必要だけど、みんなやる気あるし、ゲームを知ってるって意味ではまこちゃんか、それとも・・・

 美鈴「達也ちゃんです」

そうそう、達也ちゃんなんかよく知ってるからいいよね。

 達也「って、ええーーーーー!!!!」

 きらら「だよね。私もそう思ってたよ」

 達也「てか、俺遅刻ばっかりしてるよ?もっと真面目な人のがよくね?」

俺は楽しめれば良いのだ。

部長になるといろいろと仕事が増える。

それは避けなければ。

顧問と予算について話したり、顧問と活動内容話し合ったり、顧問と部員にはさまれて・・・

そっか。

部長になると、舞といる時間が増えるって考えもあるな。

そういう見方をすると、部長も悪くない気がした。

 美鈴「いやなの?」

少し悲しそうな無表情だった。

美鈴の後を継ぐってのも、なんだか嬉しいな。

 達也「いえ。喜んで部長やりますよ」

俺はそうこたえていた。

美鈴も喜んでくれているように見えた。

 美鈴「じゃあ、今日の部活は終わりだけど・・・偶にはくるから」

だろうな。

卒業したわけでもなければ、消えていなくなるわけでもない。

まだ半年以上も学校にはいるのだ。

毎日とはいかなくても、来ようと思えばいつでもこれるし、受験が終わればおそらく毎日くるのだろう。

 達也「美鈴の事だから、毎日くるんでしょ」

俺はまだ寂しい雰囲気にするには早いと思い、なんとなく言ってしまった。

何故か美鈴は顔を赤くしていた。

 きらら「だってぇー」

 うらら「なんだろうねぇー」

 まこと「えーーーうそーーーーそうなの?」

どうしたのだろう。

俺は一瞬わけがわからなかった。

美鈴がうろたえていた。

 美鈴「きょ、今日は解散。達也ちゃんは引継があるから残ってて」

 チリ「美鈴ちゃんが動揺してるぅ~」

 きらら「じゃ、じゃあ、私たちは帰るね。おつかれ」

皆の反応がなんだか変だ。

舞もいつのまにかいない。

そそくさと出てゆく皆を見送って、俺は席に着いた。

 達也「どうしたんだろう?」

俺は美鈴を振り返る。

美鈴はまだ動揺しているようだが、さっきよりは落ち着いているようだ。

 美鈴「達也ちゃん、私の事なんて呼んでた?」

 達也「えっとみす・・・ず・・・」

皆の反応の理由がわかった。

今まで気を付けていたのに。

心の中で人の名前を言う時も、俺は常に気を付けている。

特に美鈴の事は、義経だった俺は、美鈴と呼びなれていた。

でも先輩を呼び捨てにする事は、きららを呼び捨てにするより遙かに違和感がある。

だから俺は、心の中で名前を言う時も、美鈴先輩と言ってきたのだ。

しかし今日は、先生であった頃の気持ちを思い出す為に、心の中で美鈴と言っていたのだ。

 達也「いやぁ~なれなれしかったですかねぇーははは」

俺はとりあえず笑ってごまかした。

 美鈴「いや、そう呼んでもいいよ。てか、呼んでほしい」

今日の美鈴先輩はなんだか変だ。

ほにゃらら先輩の言っていた事は、もしかしたら本当なのだろうか。

俺の事を意識している。

そんな事を言っていた。

 達也「いいの?じゃあ呼んじゃおうっかなぁーははは」

俺はどう言っていいのかわからなかった。

すると美鈴先輩は息をひとつ吐いて、少し笑顔になった。

 美鈴「深い意味ではないのだよ。ただ、なんとなく似ていたから」

似ていた?

それはきっと義経だった俺か。

 美鈴「私の好きだった先生が、私を美鈴って呼んでたんだ。その呼び方に似てた。前から達也ちゃんが似てるとは思ってたんだけど」

美鈴先輩がこんなに喋り続けるのは珍しい。

いや、美鈴なら有ったのかも。

 美鈴「だから、実は達也ちゃんの事も好きなんだよね。だからどうしてほしいなんて事はないんけど」

今、義経から見た美鈴と、俺の前にいる美鈴先輩がぴったりと重なった。

そうだ。

これが、美鈴で、美鈴先輩。

俺も言わないと。

何を?

言葉。

気持ちを伝えないと。

おそらく今、美鈴にとっては、義経と達也がピタリと重なっているはずなのだ。

 達也「俺も美鈴の事は好きだよ。だからどうこうしたいなんて思わないけどね」

これは恋ではない。

恋に近い友情。

そして限りなく恋では無い好意。

先生だった頃は、きっと立場と歳の差が、友情ってものを認められなかった。

いや、歳の差がそれを臆病にしていた。

だから友達にはなれなかったけど、気持ちはこれほど近かったのだ。

気持ちってのは、本当は立場や歳の差で偽ってはいけないものだと思った。

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