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転生と…  作者: 秋華(秋山 華道)
転生と…
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転生と…

「人生やり直せるなら、何時がいい?」

「小学校2年かなぁ~」

「人生やり直せるなら、何時がいい?」

「勉強面倒だし、22歳でしょ」

「人生やり直せるなら、何時がいい?」

「やっぱ高校生かなぁ。気楽だし、青春だし・・・」


くっそぉ~!ピンチだ。

このままでは俺は・・・

あのワンコロ、俺様の鞄を・・・


俺は今、人気の無い山の中を、1匹の犬を探して競歩している。

首輪をしていたからおそらくは誰かの飼い犬なのだろうが、つい先ほどの出来事を見た時には、それらしき人物はいなかった。

誰かに捨てられた犬なのだろうか。

おそらくは雑種であろう奴は、俺に好意的な目、気のせいだろうか嬉しそうな感じで、俺の鞄をくわえて走り去っていた。

それはつい先ほどの事。

俺は新しい学舎の寮に向かう途中、素晴らしくも見慣れない大自然を見て、ついうっかり綺麗な川に裸で飛び込んでいた。

年々地球は温暖化しているとはいえ、流石に4月に入ったばかりで水は冷たく、俺はすぐに川からはい上がった。

タオルで体を拭こうと、震える体と心で鞄の置いてある所に駆け寄ろうとした時、そこに奴が鞄をくわえて・・・

まあそんな感じで、今時ベタな漫画やアニメでも存在しない展開になったというわけだ。

とりあえず最低限の装備、パンツや靴なんかは川に飛び込む寸前まで身につけていたので、今も裸だというわけではない。

それと携帯電話は鞄にいれていなかったので、今俺の手に握られている。

うむ~こんな格好で、武器は携帯電話1つ。どないせえっちゅーねん!

俺は心の中で、最良のクエストクリア方法を考えながら、奴を捜していた。

仕方あるまい。

このままではどんどん山の中に入っていって、遭難しかねなくね?

て事で、俺は鞄を諦めて引き返して寮を目指す事にした。

しかし、それは今となっては難解なミッションになっていた。

 達也「み、道がわからん・・・」

夢中で奴を追いかけていた俺は、気がつけばどこだか全くわからない、太陽の光も届かない森の中にいた。

立ち止まって呆然とした後、ふと自分の身なりを思い出し、急に寒さがおそってくる。

このままだと、俺死ぬかも・・・

とにかく不安と寂しさと寒さが押し寄せてきて、俺は携帯電話を抱きしめるようにしてその場にへたりこんだ。

 達也「おっ!携帯電話があるじゃないか!」

そういえば携帯電話があった事を思い出し、とりあえずどこかに電話しようと操作し始めたところで、俺の指は止まっていた。

ディスプレイの一番上には、圏外の文字が申し訳なさそうに鎮座していた。

俺は5秒ほどフリーズしてから、ガックシと肩を落とした。

犬を追いかけ探し始めてから、既に2時間ほどがたっており、携帯電話の時計は16時12分を表示している。

寒さはますます俺の体を攻撃していた。

とにかく止まっていてはダメだ。

走っていれば寒さも無くなるし、もしかしたら電波の届く所か、或いは人のいる所に出るかもしれない。

俺は立ち上がると、とにかく走り出した。

この後、俺は何処をどう走っていたのかわからないが、2時間後目的地にたどり着いていた。

そう、俺の新しい学舎、そして新しい生活をする、チョッピリお洒落なマンションのような学生寮の前に立っていた。

生還した。

俺は見事クエストクリアを果たしたのだ!

少し余裕の大人な笑みを浮かべて、俺は寒さに自身の体を抱いた。

そんな時、近くで何かの気配を感じた。

 犬「くぅ~ん!」

ふと足下左後ろを見ると、奴が、そう、鞄をくわえた犬が、尻尾を振ってこちらを見ていた。

その目は、「鞄もってきて上げたよ、偉い?誉めて!」と言っているようで、なんだかむかついた。

しかし、否日常なミッションを終えた今の俺は、それよりもなんだか嬉しい気分になって犬から鞄を受け取った。

 達也「うむ。ご苦労パトラッシュ」

そんなねぎらいの言葉を、適当な名前をつけて伝えた後、パトラッシュと名付けた犬の頭をなでた。

パトラッシュの暖かさを感じ、寒さに打ち震える自分を思いだし、急いで鞄から服を取り出し装備した。

服を着た瞬間はやや冷たかったが、すぐにパトラッシュを抱きしめて、犬カイロを堪能した。

パトラッシュはハグされて嬉しいのか、尻尾を振って俺の手の中で暴れていた。

しばらくパトラッシュとじゃれた後、復活した俺は、本日の本当のミッションを思いだした。

私立森ノ宮学園高校で勉強する為、その学生寮に引っ越して手続きする事。

 達也「懐かしいな・・・」

目の前にある男子学生寮と書かれたマンションのような寮は、最近できたばかりのようでなんの感慨もなかったが、改めてその横、そして少し離れた所に見える景色は、はっきりとは覚えていないが、そんな言葉を口からださせていた。

そう、はっきりとは覚えていない。

しかし俺は、20年近く前にこの場所にいたんだ。

当時教師を目指していた俺は、教育実習生としてこの学園で教鞭をとっていたのだ。

今は夢でも見ていたような時の流れ。

嘘だったような感じがする40年間。

何故今のような状況になってしまったのかなんて、俺自身全くわからないが、とにかくそうなってしまっている。

まあ簡単に言えば、40歳まで生きた俺は、気がついたら別人となり高校生から人生をやりなおしている。

そういう事だ。

40歳になったあの日、友人と話していた。

人生やり直すなら何時がいい?

俺は迷わず高校生だとこたえた。

友人は一言

 友人「ふ~ん」

といって、しばらく無言でいたように記憶している。

そしてその後、後ろからの何かしらの衝撃を感じたところで、俺の記憶はとぎれていた。

気がついたら、俺は星崎達也という名の高校生となって、病院で寝ていた。

あの時は大変だったな。

思い出してため息がでた。

その後いろいろ調べたが、元の俺自身は、交通事故で死んでいた。

そして今の俺、星崎達也は、しばらくの記憶喪失で入院していて、俺が星崎達也になったところで退院し今に至る。

元の星崎達也は、体はこの世に残っているが、人格は今の俺である。

そして俺は、人格は残っていても、その魂は残っていても、その本当の体は既にこの世から消滅している。

俺の知識では、脳死と言われる死があるものの、基本は体の機能を停止させたところで死だと認識している。

しかし、俺は?

生きていると言えるのだろうか?

そして元の星崎達也は?

半年考えていたが、その答えはでなかった。

だから、せっかくだしマジで人生やり直してみよう。

そう思う事にした。

そんな俺が、この森ノ宮学園、略して森学に来たことは、本当に単なる偶然だった。

少子化、学校再編、そんな流れから、俺の通っていた宮林高校は、この春から吸収合併とあいなった。

それ自体は、星崎達也が入院している時から決まっていた事ではあるが、話を知ったのはつい最近だった。

まあ、今の俺になる前の星崎達也の記憶はほとんどないし、記憶に有るのは、記憶喪失になってから、俺が星崎達也になるまでの数週間に、星崎達也に教えられた事くらい。

だから、学校に通いだしたといっても、星崎の母親は心配するし、いろいろ思い出させようとなんたらかんたら、更には俺自身も星崎達也の事をいろいろ調べていて、あまりそう言った話は聞いていなかったのだ。

まあ勉強に関しては、一度大学まで出て教師をしていたので、進級できる程度の知識は授業をうけなくても大丈夫で、先生の話なんか全く聞いていなかったのだが。

元の星崎達也の友達だった奴らが、いろいろ話しかけてくれていたように思い出すが、あまり話すといろいろやっかいな事が起こる可能性もあったので、極力話していなかったし。

それに宮林高校は男子校で、ヤローと喋る気もあまりなかったのが正直なところだが。

でもまあこれからは、逆に女子のが多くなるのだ。

森学は元々女子校で、宮校の生徒の半分を受け入れる形で、共学校として新たな出発をする。

もう半分の宮校生徒は、どこだったか別の共学校へと移ったようだが、興味がないので忘れた。

さて、いろいろ心の中のオーディエンスに俺の事情を話していたが、そろそろ手続きをして休みたくなったので、男子寮と書かれた、ふさわしくない建物の中に足を踏み入れた。

入って直ぐのところに管理室が見えた。

てかそう書かれたプレートを見つけた。

とりあえずそちらに近寄って、声を掛けてみる。

 達也「あーすみませーん。管理人様はいらっしゃりますかぁ~?」

少し控えめな声で呼びかけたからだろうか、返事はなかった。

ふむ。ちょっと声が小さかったかな?

そう考えた俺は、声を当社比2倍でもう一度声をかけた。

 達也「ごめんくださーい!星崎ですがー!だれかぁー!いませんかぁー!?」

管理室からは、それでも返事は返ってこなかった。

 達也「はあ~僕はもう疲れたよパトラッシュ。お前はつかれてねぇ~か・・・」

何故か足下までついてきていたパトラッシュを見下ろし声をかけると、俺はその場に座りこんだ。

よく考えたら、今日は何にも食ってなかったような・・・

そんな事を思い出してしまった俺に、疲れと空腹が一気に襲ってきた。

 達也「もうダメだ」

そんな事をつぶやいて、俺は目を閉じた。


俺は寝ていたようだ。

ふと夢の中で、女の人に声をかけられた。

 女の人「大丈夫?星崎君だよね?」

声の主の女性は、俺の肩をポンポンと叩きながら、俺の顔をのぞき込んできた。

目を開けた俺のすぐ目の前に、女性の顔が見えたが、特に何事も無くそれをみつめた。

あれ?

なんだろう・・・

違和感というかなんというか、俺のボキャでは表せない何かをその女性に感じて、しばらく見つめてしまった。

 女の人「大丈夫?星崎君だよね?」

声色が先ほどよりも優しい感じで、その女性は改めて俺にたずねてきた。

 達也「あっ。ええ。そうです。山下さん・・・」

 山下?「えっ?」

何気なく、半分寝ぼけていた俺が発した言葉は、俺自身も少し驚き、女性も目を丸くして驚き、俺を見ていた。

 達也「あー」

俺は目を泳がせて、辺りを見回した。

 山下?「どうして・・・」

女性が、どうして名前を知ってるの?と困惑している事は、すぐに理解できた。

何故なら、自分自身何故そう呼んだのかが、すぐに理解できなかったからだ。

そんな時、管理室の隣にある入り口に、山下と書いてある表札を見つけた。

俺は動揺を極力おさえて、落ち着いたトーンでこたえた。

 達也「ああ、あそこに山下って書いてあったから。管理人さんかと思って。」

 山下「ああ、そうなんだ。そうだよね。それに管理人の名前知っててもなんら不思議じゃないよね」

俺の言葉に、山下さんという管理人さんは、自分自身を納得させるように、俺にこたえていた。

 達也「そうですよ。確かに管理人さんの名前を聞いていたようないなかったような感じですよ」

俺は曖昧に返事しながら、俺を枕にして眠っていたパトラッシュをどけて立ち上がった。

立ち上がって、再び山下さんの顔を見て、自分が何故山下さんと言ってしまったのかが理解できた。

俺は、そう、彼女の事を知っていたんだ。

正確には、死ぬ前の俺、生まれ変わる前の俺、教育実習でココへ来た時に出会った、俺が担当したクラスの生徒だった、その中の1人だった。

動揺を見せないように、俺は山下さんに話しかけた。

 達也「今日からお世話になります。星崎達也です。よろしくお願いします」

 山下「男子寮管理人の山下悦子です。よろしくね。」

山下さんの笑顔は、あの頃と変わらず、無邪気な笑顔だった。

ああ、そういや悦子って名前だったな。

そんな事を思うと、少し笑みがこぼれてしまった。

 達也「すみません。早速で悪いんですけど、俺の部屋はどこでしょうか?ああ、後なんか食いたいんですけど、食堂なんかありますか?」

よく考えれば、電話以外で昔の俺が知ってる人と話すのが初めてだったからだろうか?

あまり言葉を選ばないで喋っていた。

 山下「ああうん。そうだよね。疲れてるよね。直ぐに案内するね」

そう言った山下さんが、部屋の鍵と寮内地図を持ってきた後、部屋と食堂を案内してくれて、後は明日以降という事で分かれた後、俺は食堂で飯を2人分食べた。

その後部屋に入ると、既に送られて来ていた荷物が段ボールに入ったまま積み上げられていたが、俺はベットだけセッティングして、その上に体を横たえた。

天井を見つめながら、俺は山下さんを思い出していた。

 達也「なんだか不思議な感覚だな・・・」

今の想いを俺はそのまま声にだした。

今までは、自分が生まれ変わった事を話しても、混乱を招くだろうと誰にも話してこなかったが、山下さんに話したらどうなるんだろうか?

正確には誰も信じてくれなかったんだけどな。

そんな事を考えながら、俺はそのまま眠りについた。

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