6.あれから……
スマホが繋がった。そう聞いたのは、噴火から一ヶ月半が経った頃だった。
小さな噴火は、いまだ繰り返し発生しているようだったが、もう銚子まで火山灰が飛んでくることはなかった。けれど、携帯基地局の整備が追い付かず、復旧に時間がかかったらしい。
避難所でスマホの充電をすると、久々に電源を入れた。
画面の片隅にアンテナが立つと、世界の中に戻れた気がした。溜まっていた通知が一気に入ってくる。大学時代の友人知人、同僚、取引先の人、防災アプリの速報。ひと月半分の言葉が、噴火の日まで記憶を引き戻した。
喧騒から距離を置きたくて、避難所になっている体育館から隣接した野球場に移動した。避難者のテントが立ち並ぶグラウンドを囲む座席の一つに座る。
子供たちが駆け回る声を聞きながら、返信を打った。
すぐに折り返しで返事があった人もいれば、既読さえつかない人も少なからずいた。連絡の取れた同僚と話しても、会社がどうなったか分からなかった。
一通りの連絡を終えるとニュースサイトを開いて、ろくに知らなかった状況を知る。
いまだに被害の全容は明らかになっていない。上空から撮られた関東は色を失い、無機質なモノクロ画を画面にはめ込んだかのように見えた。
灰をかき分けて書かれた、消えかけのSOS。車で埋まった道路。川の近くでは氾濫した痕跡も見受けられた。
レスキュー隊によって地上から撮影された写真や動画は、さらに異世界を思わせた。
その日、もう自分の知る世界は壊れていたのだと知った。
誰かと繋がりたくてSNSを開く。
【コンサート開催ありがとうございます! 被災者の励みになりますね!!】
【物資不足なのに遊びで消費するとか信じらんない】
【南海トラフで日本ガチ滅亡www】
【§♢拡散希望♢§ 明後日、埼玉へボランティアに行きます。前橋で支援物資集めていますので、ご協力いただける方は以下の場所にお願いします】
【物流も回復してないのにボランティアとかクソ迷惑だろ】
【☆☆日本を支援してくださった世界中の皆様に感謝します☆☆】
流れていくタイムライン。スクロールする指を止める。
SNSを閉じて、スマホをポケットに突っ込んだ。
世界が変わっても、そこは、きっと変わらない場所であり続けるんだろう。
空から低く響いてきた音に顔を上げると、自衛隊のヘリが飛んで行くところだった。
完




