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3.始まりの朝

 早朝、五時四十分。スマホから響いた警報で叩き起こされた。


【緊急速報 富士山で噴火が発生(5:32)】


 そんな短い通知に一瞬で目が覚めた。ベッドから転がり落ちるように飛び出し、カーテンを千切る勢いで開く。わずかに赤みの残った空は晴れやかで、澄んだ空気が視界を遠くまで広げていた。


 年に何度もないほど綺麗に富士山の頂が見えた。

 そこに想像していたような黒煙はなかった。薄っすらと一部に雲がかかっているだけだ。


「は? 噴火してねーじゃん……」


 動悸を抑え、息を吐き出す。夢だったのかと戸惑い、握り締めていたスマホを見た。だが、確かにプッシュ通知は届いていた。

 強張った手で詳細を開いても、まったく詳しくない。ソファに投げていたリモコンを拾い、テレビをつけた。


 富士山は噴火していた。


 ライブカメラで撮影されていた、その瞬間は、まったく劇的ではなかった。静かに灰色がかった白い蒸気が噴き出し、次第に太さを増していく。

 正直、噴火なのか? とすら思った。


 水蒸気噴火。山麓の街では火山灰が降っているらしいが、たいした量ではない。テレビでは、しきりにパニックにならないよう伝えていた。

 ネットを確認すると早朝にもかかわらず、怒涛の勢いでタイムラインが流れていた。


 大噴火を煽ってきた政府や気象庁への不満。マグマ噴火へ推移する懸念。山麓の街への心配。南海トラフや首都直下地震発生の不安。

 フェイク画像、動画も時間を追うごとに増えた。


 家族や友人たちからの連絡も、ひっきりなしに届く。

 腹が鳴って、もう八時を過ぎていたことに気が付いた。休みの日で助かった。


 作るのも面倒でインスタントカレーを温めて食べる。ワイプで常に映し出されている富士山に変わりはなかった。蒸気を噴き出し続ける様子も見慣れてきて、ずっとこんな光景だったような気さえしてくる。


 カレーを食べ終わるとSNSを眺めた。

 噴火速報の直後と大差ないTLの流れだった。違いは、わずかに避難報告と、避難を促す投稿が増えたぐらいだ。千葉人らしきユーザーの避難報告を見かけたときは、ちょっと笑いが漏れた。


 ハザードマップを見ても現実味はなかったが、実際に噴火しても、やっぱりたいしたことはなかった。そう安堵していた。


 画面の中から悲鳴じみたアナウンサーの声が放たれるまでは。


《あっ、噴火です! 噴火しました! 噴煙が、灰色だった噴煙が黒く……》


 その言葉をかき消すように、スマホとテレビから緊急地震速報が鳴り響いた。鷲掴みされたような痛みが心臓に走り、体が強張った。


 カタカタカタ――。


 窓が小刻みに鳴ったかと思うと、ぐらり、体が揺すられた。

 大きくはない。大丈夫。

 そう言い聞かせるが、画面の中の光景に体の硬直がとけることはなかった。


 火口から立ち昇っていた噴煙は黒く染まり、勢いよく空へと育っていく。子供の頃に遊んだ蛇花火を、ぼんやりと思い出した。噴煙からは小さな石粒が四方八方へと吐き出されている。


 ムクムクと育っていく噴煙全体を映そうと、カメラが引く。富士山の山体と同じほどに高々と昇った噴煙の先は、青空に馴染もうとするかのように広がり、薄い灰色の川を作っていた。


 カタカタカタ――。


 地震は収まったはずなのに、窓が小刻みに鳴っている。

 目を向けると、窓の向こうに富士山を覆い隠す灰色の小さなシミが見えた。

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