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神様に見放された僕ですが、モノの声が聞こえるので古道具屋「夕凪堂」で人生やり直します  作者: 久遠翠


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番外編「琥珀様は見ておられる」

 吾輩は猫又である。名は琥珀。しがない古道具屋「夕凪堂」の番頭を務めておる。もっとも、普段はただの三毛猫のふりをしているがな。人間というやつは、猫が喋ると、それだけで腰を抜かすほど驚くから、面倒でかなわん。


 この店には、主である付喪神の紬と、最近転がり込んできた、浅葉奏という人間の小僧が住んでおる。この奏という小僧、なかなかに面白い。最初は、家を追い出されたばかりの捨て犬のように、しょぼくれた顔をしておったが、今ではすっかり、この店の立派な店員だ。


 奏の取り柄は、モノの声が聞こえるという、ちと変わった力じゃ。もっとも、ただ聞こえるだけでは、何の役にも立たん。大事なのは、その声をどう受け止め、どう活かすか。その点において、奏は素質があるらしい。

 あやつは、モノの声に対して、ひたすらに真摯だ。疑うことも、自分の都合の良いように解釈することもない。ただ、まっすぐに耳を傾ける。その愚直さとも言える姿勢が、モノたちの心を解きほぐし、持ち主の心を救うのじゃろう。


 先日の、奏の兄とかいう神主が乗り込んできた一件は、さすがの吾輩も肝を冷やした。あの神主の力は、本物だ。紬と吾輩だけでは、ちと分が悪かったやもしれん。だが、奏はやってのけた。神の力ではなく、あの店にあるガラクタども……いや、古道具たちの想いを束ねて、神主を退けたのだ。


 あの時、奏の背中に集った光は、決して強大なものではなかった。色も形もバラバラで、お世辞にも洗練されているとは言えん。じゃが、あれほど温かく、力強い光を、吾輩は見たことがなかった。

 一つ一つは弱くても、集まれば大きな力となる。月並みな言葉じゃが、それを目の当たりにした。あの小僧、とんでもないことをやってのける。


 戦いが終わった後、奏は紬に「ここが僕の居場所だ」と言っておった。紬の奴、そっけないふりをしながら、耳まで真っ赤になっておったぞ。まったく、あの二人は見ていて飽きないわい。


 今日も今日とて、奏は真面目に仕事に励んでおる。持ち込まれた古い懐中時計の声に、真剣な顔で耳を澄ませておるわ。その横顔は、ここへ来たばかりの頃とは、まるで別人だ。自信に満ちておるとは言わんが、自分のやるべきことを見つけた者の、静かな強さが感じられる。


「琥珀、どうしたの? そんなところで」


 おっと、奏に見つかってしまった。吾輩は、すっとぼけて「にゃあ」と鳴いてやる。奏は「そっか、日向ぼっこか」などと呑気なことを言いながら、吾輩の頭を優しく撫でた。ふん、悪くない撫で方だ。


 紬が、淹れたての茶を持って、奏の元へ歩いていく。

「奏、少し休んだらどうじゃ。根を詰めすぎじゃぞ」

「あ、ありがとう、紬。じゃあ、少しだけ……」


 縁側に並んで座り、茶を飲む二人。その傍らで、吾輩はぬくぬくと日向ぼっこ。

 まったく、平和なこった。


 この古道具屋には、これからも色々なモノと人が訪れることだろう。面倒な事件に巻き込まれることもあるやもしれん。じゃが、この二人と、この店にいれば、きっとどんなことでも乗り越えていける。そんな気がするのだ。


 さて、そろそろ昼寝の時間かのう。

 番頭の仕事も、楽ではないのだ。吾輩は大きなあくびを一つして、再び丸くなった。奏と紬の穏やかな会話を子守唄に、心地よい眠りの中へと落ちていく。

 夕凪堂の平和は、この吾輩、琥珀様がしっかりと見守ってやっているのだから、まあ、安心するがよい。

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