5.初めて与えられた役割
翌朝、ガルドは地図を広げた。 指で示したのは、町の外れから街道へ抜ける細い林道だった。
「ここを通る荷が、夜に襲われてる」
それだけ告げると、地図を畳む。
説明はない。 理由も語られない。
だが、レオンは察した。
――試される。
魔物は群れで動く。 正面から叩けば、取りこぼしが出る。
林道に入る前、ガルドは足を止めた。
「お前は、前に出るな」
短い指示。
「ここで、時間を稼げ」
言葉はそれだけだった。
レオンは一瞬、息を詰めた。
前に出ない。 倒さない。
時間を稼ぐ。
――それが、役割。
分かっている。
倒す力は、まだない。 だが、 選べる距離は、少しだけ縮んだ。
林の奥で、魔物の気配が動いた。
数は三。
ガルドが、視線だけで合図を送る。
行け。
レオンは、前に出ない。
代わりに、 林道の中央へ一歩踏み出し、 剣を低く構えた。
魔物が唸る。
一体が飛び出してくる。
レオンは、踏み込まない。
半歩、下がる。
爪が空を切る。
――避けた。
間合いを保ち、 剣先を振って牽制する。
当てる気はない。
下がらせるだけだ。
二体目が横から回る。
レオンは、視線を切らない。
前だけを見るな。
教わったわけではない。
ただ、 ガルドの背中を見てきた結果だった。
時間が伸びる。
呼吸が荒くなる。
足が、重くなる。
それでも、 剣を振り回さない。
――まだだ。
判断が、頭の奥で形になる。
魔物が距離を詰めた瞬間、 レオンは横へ跳んだ。
同時に、 背後で轟音が響く。
ガルドの大剣が、 魔物の群れを断ち切っていた。
終わりだった。
レオンは、その場に膝をついた。
胸が焼ける。
だが、 意識ははっきりしていた。
――やれた。
倒してはいない。
それでも、 自分の動きが、 誰かの動きに繋がった。
それが、初めてだった。
ガルドが、こちらを見る。
一瞬だけ。
それから、いつものように背を向けた。
「……悪くない」
それだけだった。
だが、その一言は、 これまでで一番、 重かった。
レオンは、剣を握り直す。
選べる幅は、 まだ狭い。
だが、 役割があるということは、 世界に居場所ができるということだ。
それを、 この戦いで知った。




