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剣は名を持たない誓いを抱く  作者: StoryTellingMusic


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4.基礎の徹底と、最初の一歩

 翌朝。


 まだ町が目を覚ましきらない時間、  レオンはガルドに呼び止められた。


 「剣を持て」


 それだけだった。


 理由も、説明もない。


 町の外れ、草の踏み固められた空き地。  露に濡れた地面は滑りやすく、足を取られやすい。


 「走れ」


 ガルドの声は短い。


 レオンは走った。  意味は分からないが、止まる理由もなかった。


 「止まるな」


 息が上がる。


 「前を見ろ」


 視線を上げた瞬間、  枝が飛んできた。


 「うわっ!」


 反射的に避ける。  だが、足がもつれ、転んだ。


 「今、死んだ」


 淡々とした声。


 地面の冷たさが、妙に現実的だった。


 「立て」


 何度も同じことが繰り返される。


 走る。  避ける。  転ぶ。  立つ。


 剣は振らせてもらえない。


 「剣は最後だ」


 それが、この日の唯一の説明だった。


 昼近くになっても、訓練は終わらなかった。


 足が重い。  呼吸が追いつかない。


 それでも、止まらなかった。


 止まるという選択肢が、頭に浮かばなかった。


 午後。


 ようやく、剣を抜くことを許された。


 「振るな」


 ガルドは言った。


 「構えろ」


 構える。


 「下げるな」


 腕が震える。


 「見るな、感じろ」


 意味は分からない。  だが、言われた通りにしようとする。


 ガルドは、ゆっくりと距離を詰めた。


 威圧感。


 大剣を持っているだけで、空気が重くなる。


 ――来る。


 そう感じた瞬間、  枝が振り下ろされた。


 咄嗟に剣を上げる。


 弾かれた。


 「遅い」


 それだけ言われる。


 夕方。


 レオンは、その場に崩れ落ちていた。


 「……何も、できてない」


 思わず零れた。


 ガルドは、水袋を放ってよこす。


 「できてないのが、分かっただろ」


 それだけだった。


 だが、その言葉は不思議と重くなかった。


 夜。


 焚き火の前で、レオンは剣を握りしめていた。


 今日一日、  剣を振った回数は、数えるほどしかない。


 それでも、体は限界だった。


 ――基礎。


 頭の中に、その言葉が浮かぶ。


 派手さも、光もない。


 だが、  ここから逃げたら、  また選べなくなる。


 そう思えた。


 翌日も、その翌日も、訓練は続いた。


 走る。  止まる。  避ける。  見る。


 少しずつ、  体が勝手に動く瞬間が増えていく。


 魔物との小競り合い。


 レオンは、初めて自分の判断で、  一歩下がった。


 次の瞬間、  魔物の爪が空を切る。


 ――避けた。


 それだけだった。


 だが、その一歩は、  確かに自分で選んだものだった。


 戦闘が終わったあと、  ガルドは何も言わなかった。


 ただ、  一瞬だけ頷いた。


 それで、十分だった。


 レオンは、剣を握り直す。


 胸の内に湧いたのは、  高揚でも、達成感でもない。


 ――勝てたわけじゃない。


 それは、はっきり分かっていた。  魔物は倒れたが、それは二人がいたからだ。


 自分一人なら、  まだ危なかっただろう。


 それでも。


 あの瞬間。


 魔物の動きを見て、  距離を測って、  踏み込まずに下がるという判断を、  自分で選んだ。


 それは、反射ではなかった。


 考えたわけでもない。


 だが、  “選んだ”という感覚だけが、  確かに残っていた。


 ほんの一歩。


 剣を振るでもなく、  何かを成し遂げたわけでもない。


 だが、  その一歩がなければ、  次の一手は存在しなかった。


 ――選べる幅が、増えた。


 劇的な変化ではない。


 昨日までなら、  立ち尽くしていた場所だ。


 今日の自分は、  そこから一歩ずれた場所に立っている。


 それだけだ。


 だが、その“それだけ”が、  今のレオンにとっては、  何よりも重かった。


 剣を振る力も、  敵を倒す技も、  まだ足りない。


 それでも、  選択肢が一つ増えたという事実は、  確かに世界の見え方を変えていた。


 進める。


 まだ遠いが、  確実に、前へ。


 レオンは、そう実感していた。

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