3.幕間 手を止めないということ
夜は、思考を連れてくる。
焚き火の火が小さくなり、町の喧騒が遠のくにつれて、 レオンの頭の中には、昼間の光景が何度も浮かんでは消えた。
洞穴の入口。 左右から迫る魔物。 そして――動けなかった自分。
怖かったのではない。 ただ、間に合わなかったのだ。
どうすればいいか分からなかった。 分からないまま時間だけが流れて、体の中の歯車が噛み合わない。 剣を握っていたのに、世界の手前で立ち尽くしてしまった。
――弱い、というのは。
力が足りないことだけじゃない。 いざという瞬間に、手を出せないことだ。
退くか。 踏みとどまるか。 誰かに任せるか。
そのどれかを、腹の底で決めきれない状態。 今日、ようやくそれを、自分のこととして理解した。
焚き火の向こうで、ガルドが無言で剣を研いでいる。 規則正しい音。 迷いのない手つき。
あの人は、いつも切り替えている。
いつ踏み込むか。 どこで止めるか。 どの相手から崩すか。
考え込んで固まる前に、手を動かし、足を動かし、呼吸を整える。 だから、生きている。
レオンは、膝の上に置いた自分の剣を見下ろした。 聖剣は、今は静かだった。
力を貸してはくれない。
それが、少しだけありがたかった。
もしまた剣が勝手に光れば、 自分は“やるべきこと”を考えなくても済んでしまう。 それでは、同じ場所に戻るだけだ。
強くなりたい、とは言い切れない。
英雄になりたいとも、 誰かを救いたいとも、 今は口にできない。
ただ。
次に同じ場面に立ったとき、 頭が真っ白になって足が止まる自分だけは、もう嫌だった。
間違えてもいい。 遅れてもいい。
それでも、 自分の足で一歩を出せる人間でいたい。
焚き火が、ぱちりと音を立てた。
その向こうで、ガルドが顔を上げる。 視線が一瞬だけ交わり、 すぐに逸らされる。
言葉はない。
だが、この夜を境に、 何かが少しだけ変わったことだけは、 レオンにも分かった。
彼は、そっと剣を握り直した。
まだ足りない。
それでも、 弱いまま――そこで終わるつもりはなかった。




