2.旅路と、大剣の男
村を出てから三日が過ぎていた。
あの夜の光景は、何度も夢に見た。 白い光、魔物の唸り、剣を握った自分の手。
――勝てたのは、剣のおかげだ。
それは否定しようのない事実だった。 もし、あの祠の剣が目覚めなければ、今ここを歩いている自分はいない。
同時に、別の思いも胸に残っている。
――自分は、戦えていなかった。
剣を振るうたびに、足はもつれ、呼吸は乱れた。 間合いも、駆け引きも、何一つ分かっていなかった。
それでも生き延びたのは、力を“与えられた”からだ。 その事実が、重くのしかかっていた。
街道は、思っていたよりも過酷だった。 昼は照りつける日差しに体力を削られ、夜は森の気配に神経をすり減らす。
三日目の昼過ぎ。 街道脇の草原で、魔物の群れに遭遇した。
低い唸り声。 草を踏み分ける音。
現れたのは、狼型の魔物が三体。 レオンは反射的に剣を抜いた。
胸の奥が、じんわりと熱を帯びる。 だが、あの夜のような光は現れない。
――来る。
一体が飛びかかってきた。 剣を振るう。 浅い。
爪が腕を掠め、血が滲む。
――くそ。
下がる。 呼吸を整える。 剣先を前に突き出し、必死に距離を保つ。
時間がかかった。 無様だった。
それでも、何度目かの斬撃で魔物は倒れた。
息が切れ、膝が震える。
――一体、だけか。
顔を上げた瞬間だった。
轟音。
背後で、大地が揺れた。
振り返ると、そこに一人の男がいた。 傷だらけの鎧。 背中には、あり得ないほど巨大な大剣。
男は、残り二体の魔物に向かって歩いていく。
速い。 だが、焦りがない。
一振り。 魔物の胴が断ち切られる。
二振り。 もう一体が地面に沈む。
終わりだった。
あまりにも、あっけない。
レオンは言葉を失った。
――同じ剣を持つ人間なのに。
男は剣を肩に担ぎ、倒れた魔物を一瞥する。
「……生きてるな」
それだけ言った。
視線が、レオンの剣に向く。
一瞬、何かを測るような目。
だが、すぐに興味を失ったように背を向けた。
ガルドは、レオンの戦い方を評価してはいなかった。
技はない。 判断も遅い。
それでも――
逃げなかった。
それだけが、僅かに記憶に引っかかった。
「この先、街がある」
歩き出しながら、ガルドは言った。
「一人じゃ危ねぇ。用が同じなら、そこまで一緒だ」
それは誘いとも、忠告とも取れる言葉だった。
レオンは一瞬迷い、そして頷いた。
「……お願いします」
強さ。 無骨さ。 そして、背中が語る現実。
この男と歩けば、 自分がどれほど足りないか、嫌でも分かる。
それでも。
「ついていきたい」
そう思ってしまった。
こうして二人は、 仲間でも、師弟でもないまま、 一時的な同行者として、次の町を目指すことになる。
まだ、この旅がどれほど長くなるのかも知らずに。




