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剣は名を持たない誓いを抱く  作者: StoryTellingMusic


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9.揺れる正しさ

 王都の朝は、早い。  

 

 夜の喧騒が嘘のように引き、  通りには、荷を運ぶ音と足音が戻ってくる。   

 レオンとガルドは、宿を出てほどなく、  魔法学院の掲示板の前に立っていた。  

 

 特別な理由があったわけではない。  


 王都では、  仕事は情報と同じように、  自然と人の集まる場所に集積する。  

 その一つが、学院だった。  


 「護衛、調査、素材回収……」  レオンは、紙札を一つずつ目で追う。  

 討伐依頼もあるが、  ほとんどは“未確認”や“調査要請”といった文言が並んでいた。  

 

 「学院らしいな」  ガルドが、短く言う。  

 倒すことより、  “知ること”が目的の依頼。  


 その中で、一枚の紙が目に留まった。  


 ――《実地観測同行者募集》  

 ――王都北部、旧水路周辺  

 ――魔力反応異常  

 ――戦闘の可能性あり  


 報酬は高くない。  

 だが、条件欄に書かれた一文が、目を引いた。  


 ――現地判断を尊重できる者  


 レオンは、無意識に息を吸った。  

 「……これ」  ガルドも、同じ紙を見ていた。  


 「派手じゃねぇ。だが、面倒な匂いがする」  

 それは、否定ではなかった。  


 むしろ――  “悪くない”という評価に近い。  

 依頼を受ける手続きを済ませると、  担当として名を告げられたのは、一人の魔術師だった。  


 「エリシア・フェルミアです」  淡々とした声。  

 昨日、食堂で会った少女が、そこに立っていた。  


 レオンは、思わず瞬きをした。  

 「……昨日の」  

 「偶然ですね」  

 そう言いながらも、  エリシアの視線は、すでに依頼書に向いている。  


 「この魔力反応、  自然発生にしては不安定すぎる」  指先で地図をなぞる。  

 「魔物由来でも、学院実験由来でもない。  だから、現地確認が必要です」  


 ガルドが、腕を組んだ。  

 「俺たちは護衛か?」  

 「いいえ」  

 即答だった。  


 「“同行者”です。  私の判断が間違っていた場合、  引き返す判断も含めて、現場で決めます」  

 

 レオンは、その言葉に、静かに胸が鳴るのを感じた。  

 ――実地。  


 その言葉が、胸の奥に引っかかる。  

 ――足りない。  

 

 知識でも、勇気でもない。  

 経験だ。  選ぶための経験。  

 迷い、間違え、  それでも動いたという積み重ね。  


 出発は、昼前。  

 王都を離れ、北へ向かうにつれ、  街並みは崩れ、石造りの排水路が顔を出し始める。  


 かつて王都を支えていた旧水路。  

 今は使われず、  魔力の流れだけが、そこに残っている。  


 違和感は、すぐに現れた。  

 「……静かすぎる」  レオンが呟く。  


 音がない。  

 虫も、風も。  


 「魔力が、澱んでいる」  エリシアが言う。  

 

 「誰かが“集めている”」  その瞬間。  

 足元の石畳が、軋んだ。  

 影が、壁から剥がれるように立ち上がる。  


 魔物――  だが、どこかおかしい。  

 動きが鈍い。  

 意思が、薄い。  


 「操られてる……?」  レオンが剣を構える。  

 ガルドが、半歩前に出る。  


 「役割、分かってるな」  

 「はい」  レオンは、前に出ない。  


 間合いを保ち、  魔物の動きを引き付ける。  

 エリシアは、後方で魔法陣を展開した。  

 「破壊しない。  拘束します」  光が走る。  


 魔物の動きが止まる。  

 その瞬間――  遠くで、別の気配が動いた。  


 人の気配だ。  

 だが、王国兵ではない。  


 「……誰かいる」  ガルドが低く言う。  

 姿を現したのは、数人の人影だった。  


 武装は控えめ。  

 だが、統制が取れている。  


 「学院の調査か」  その一人が、穏やかな声で言った。  

 敵意はない。  

 距離は詰めてこない、が。  


 「ここは危険だ。  この異常は、放っておくべきじゃない」  

 

 エリシアが、静かに答える。  

 「放っておくつもりはありません。  だから、調べている」  


 人影の男は、わずかに笑った。  

 「調べて、報告して、  結局は“上”が決めるんだろう?」  


 その言葉に、  レオンの胸が、微かにざわついた。  

 

 ――待て。  

 どこかで聞いた思想だ。  


 「間に合わなかったら?」  

 男は続ける。  


 「その判断は、誰がする?」  

 答えは、すぐには出なかった。  


 ガルドが、ゆっくりと一歩前に出る。  

 「……今、戦う気はねぇ」  それだけ告げる。  


 男は肩をすくめた。  

 「ならいい。  今日は、引く」  人影たちは、霧のように散っていった。  


 静寂が戻る。  

 レオンは、剣を下ろした。  

 

 胸の奥で、  何かが引っかかっている。  

 「今の人たち……」  

 「救済同盟だ」  エリシアが、短く言った。  

 「王国にも、学院にも属さない。  でも、間違っているとも言い切れない人たち」  


 ガルドは、何も言わない。  

 ただ、地面に残った魔力の痕を見つめていた。  


 魔王軍でもない。  

 王国でもない。  

 そして、勇者でもない。  


 それでも、  “救おうとしている”人間がいる。  

 レオンは、はっきりと感じていた。  


 ――世界は、  一つの正しさでは、動いていない。  

 選ぶ必要がある。  


 だが、  何を基準に選ぶのかは、  まだ、分からない。  

 それでも。  


 この場に立ち、  剣を握り、  逃げずに考えている自分がいる。  

 それだけは、確かだった。

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