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剣は名を持たない誓いを抱く  作者: StoryTellingMusic


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8.救済同盟の影

王都の地下には、地図に載らない通路がある。


 古い水路を転用したもの。

 使われなくなった倉庫。

 そして、王国が“見ないことにした”空間。


 灯りは最小限。

 人影は、常に壁際を歩く。


 その一室で、数人の男女が卓を囲んでいた。


 豪奢な装飾はない。

 だが、誰一人として身なりは粗末ではなかった。


 「――勇者が、王都に入った」


 そう告げたのは、細身の男だった。

 手元の書類から目を離さず、淡々と続ける。


 「辺境の村出身。

 年若く、未熟。

 聖剣は……まだ、完全には目覚めていないようだ」


 「未熟、か」


 卓の奥で、女が小さく笑った。


 その笑みには、嘲りも優越もない。

 ただ、確認に近い感情があった。


 「なら、まだ“選ばされている”段階ね」


 救済同盟――

 それが、彼らの名だった。


 王国の公認組織ではない。

 だが、反王政でもない。


 彼らは、王国の在り方そのものに疑問を抱いている。


 「勇者を立て、魔王を倒し、世界を救う。

 ……それで、何が残る?」


 女は指で卓を叩く。


 「勇者に選ばれなかった人間は?

 守られなかった町は?

 “間に合わなかった”命は?」


 誰も答えない。


 それは、彼らが何度も考え、

 それでも納得できなかった問いだからだ。


 「魔王が悪であることは否定しない」

 「だが、“勇者”という仕組みが、

 人間を救ってきたか?」


 細身の男が、ゆっくりと顔を上げた。


 「勇者に希望を託すということは、

 その他大勢に“待て”と言っているのと同じだ」


 沈黙が落ちる。


 救済同盟は、武力組織ではない。

 大規模な軍も、圧倒的な戦力も持たない。


 彼らが持つのは、思想と、選択だ。


 「……魔王は、世界を壊そうとしている」

 「勇者は、世界を元に戻そうとしている」


 女は、静かに言った。


 「でも、私たちは違う」


 「壊れた仕組みの上に、

 同じ形を乗せ直す気はない」


 「救うなら、

 “選ばれた一人”じゃなく、

 “選べる多数”をだ」


 その言葉に、誰も反論しなかった。


 やがて、別の男が口を開く。


 「勇者には、近づくな」


 「今はまだ、未完成だ」

 「だが、あれは――育つ」


 女は、少しだけ目を細めた。


 「だからこそ、見ておく」


 「勇者が、

 何を選び、

 何を切り捨て、

 誰を信じるのか」


 それが、

 彼ら自身の選択を決める材料になる。


 会合は、それで終わった。


 人々は、来たときと同じように、

 静かに地下へと消えていく。


 王都の地上では、

 今も人々が行き交い、

 酒を飲み、

 未来を語っている。


 その足元で、

 もう一つの“正しさ”が、

 確かに息づいていることを、

 誰も知らないまま。

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